国宝

原 摩利彦をはじめとする制作チームが振り返る 
李相日監督作品『国宝』のサウンドトラック

『悪人』『許されざる者』『怒り』そして『流浪の月』と、日本映画界をけん引し、海外での評価も高い映画監督・李相日。そんな彼が吉田修一の小説『国宝』を映画化し、6月6日から全国で公開中である。吉沢亮、横浜流星といった今をときめく俳優に、渡辺謙、寺島しのぶ、田中泯などの名優が脇を固めるこの映画の音楽を担当したのが原 摩利彦。ソロ・アーティストとしてはもとより、野田秀樹率いるNODA・MAPの舞台音楽やダムタイプにも参加するなど、その活動の幅はとても広い。『流浪の月』に続いて2度目の参加となった李監督作品の制作について、原だけでなく、オーケストラ・リーダーを務めた須原杏、チェロやビオラ・ダ・ガンバを弾いた多井智紀、そしてエンジニアのハラマサトにお集まりいただき、制作の様子について振り返っていただくことにした。

李監督と原がやってきた跡が譜面の中に情報として入っている

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左から原 摩利彦、須原杏、多井智紀、ハラマサト
(Photo: Chika Suzuki)

── 摩利彦さんは李監督の前作『流浪の月』に続いての音楽担当となりました。 

摩利彦 はい。これまで李さんが監督された映画の音楽は、『悪人』が久石譲さん、『許されざる者』が岩代太郎さん、『怒り』が坂本龍一さんという大御所ばかりですが、連続して担当したのは自分が初めてだそうです。 

──それほど気に入られているのですね。そもそも『流浪の月』のときはどんな経緯で音楽を担当することになったのですか? 

摩利彦 2019年に東京都現代美術館で開催したダムタイプ『アクション+リフレクション』展のオープニングに李さんが来られ、そのときに紹介していただき音源を渡したんです。そのときのことを覚えていてくださったみたいでオファーをいただきました。今回の『国宝』については正式オファーをいただく前から打診はあったのですが、李監督が“音楽のプランがまだ全然浮かばないからオファーができない”ともおっしゃっていて……昨年の2月くらいに正式オファーをいただきましたが、具体的なプランというのはまだありませんでした。 

──音楽の制作を始めるにあたってイメージのようなものはいただけたのでしょうか? 

摩利彦 『流浪の月』のときのように主人公の心の中に深く入って何かをすくい上げる感覚に加え、今回は叙事詩的なスケールの大きさが欲しいと言われました。

──スケールの大きさという意味では、今回の『国宝』ではストリングスがフィーチャーされています。摩利彦さんがスコアを書いてそれを奏者の方々に演奏していただくやり方でしょうか? 

摩利彦 はい。それはもう今日いらしてくださった方々をはじめとするチームに助けられました。バイオリン奏者でありオーケストラ・リーダーをお願いした(須原)杏さんとは、2018年に作曲家の平井真美子さんの紹介で初めてお仕事をして、その後2021年にNODA・MAPの舞台『フェイクスピア』でオーケストラ・リーダーをお願いしました。その録音のときにハラマサトさんとも初めてご一緒したんですね。で、その2年後くらいにNHKドラマ『デフ・ヴォイス 法定の手話通訳士』のときに多井(智紀)君が入ってくれました。多井君はチェロだけでなくビオラ・ダ・ガンバも弾く奇才なんです。多井君だけでなく、杏さんが集めてくれる奏者の方々はみんなソリストとして活躍されている人たちばかりで……レコーディングのときに僕がOKを出しても奏者がOKしてくれないことが多いくらい(笑)。李監督がちょっと気になっていたところも奏者たちが自分たちで原因を洗い出して解決していく。自分は何も言うことはない感じで、本当にこの人たちに支えられているなと。 

──演奏家から見て、摩利彦さんの現場はいろいろ言いやすい環境なのですか? 

須原 言いやすいというか、摩利彦さんが録る前に場を和ませてくれるので、奏者も提案しやすい環境だと思います。私もNODA・MAPからご一緒してパーソナルが分かってきたので、いろいろ提案したくなってしまうというのもありましたが、摩利彦さんが書く譜面には音符以外の情報……例えば“紅色の花が咲くように”とかコメントが書き込まれているので、それをちゃんと全うするまでやらなきゃという感じでしたね。 

摩利彦 そのコメントは俊介と喜久雄が『京鹿子 娘道成寺』をやるシーンの曲ですね。 

須原 そういう詩的なコメントも含め、譜面には李監督とやり込んだ跡が見えるんです。録音した後で李監督が“思ったことが伝わって不思議だった”と録音の感想を伝えてくださり舞い上がりそうになったんですけど、それは李監督と摩利彦さんがやってきたことが譜面の中に情報として入っていたということなんです。なので録音のときはそれを逃がすことなく演奏しなきゃいけないっていうプレッシャーを感じつつ、提案すべきことは優しく言いました(笑)。 

摩利彦 それがとってもありがたかった。録音のとき僕は指揮台にいるんですが、皆さんはただ弾くっていうより本当に音楽の中に入り込んでくれるからすごくうれしかったです。 

──音楽制作の流れですが、映像の編集が終わった段階から始めるのですか? 

摩利彦 はい。監督から音楽を付けたい場所が指示されていて、イン点/アウト点もほぼ決まっていました。 

──では、その尺に合わせて曲を書いていく作業なのですね? 

摩利彦 そうですね……壮絶な合宿をして作っていきます。 

──合宿? 

摩利彦 ええ(笑)。李さんに僕のスタジオに来てもらって、まずはデモを聴いてもらうんですが…

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Movie:『国宝』6月6日より公開中

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監督:李相日 脚本:奥寺佐渡子 音楽:原 摩利彦 出演:吉沢亮、横浜流星、渡辺謙、高畑充希、寺島しのぶ、見上愛、田中泯、嶋田久作、永瀬正敏 主題歌:「Luminance」原 摩利彦 feat. 井口理

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画『国宝』製作委員会

この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄(吉沢亮)は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介(横浜流星)と出会う。正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく……。

Release

『国宝 オリジナル・サウンドトラック』 
原 摩利彦 

(Sony Music labels Inc.)

 

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