6月6日より公開される映画『We Live in Time この時を生きて』は、フローレンス・ピューとアンドリュー・ガーフィールドが夫婦役としてW主演を務めた王道ラブストーリーであり感動ドラマだ。一流シェフ・アルムート(フローレンス・ピュー)は、がんにより余命が限られているなか、シェフとしての自己実現と家族との時間のなかで葛藤を抱える。夫のトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)はアルムートとの時間をどう過ごすのか。物語を通して普遍的な家族愛を描いていく。

 リアルサウンド映画部では本作を一足先に鑑賞したライター陣3名による座談会をおこなった。結婚をめぐりそれぞれ異なるライフステージにありながらも、フリーランスのライターとしては共通点を持つANAIS、明日菜子、nakamura omameが、自身の生活と照らし合わせながら本作の見どころを率直に語り合った。

映画ならではの手法で描かれる王道ラブストーリー

ANAIS:みなさんとは初対面となりますが、本日はよろしくお願いします。作品を観た感想はいかがでしたか?

明日菜子:“時系列のシャッフル”が映画ならではの手法で、ドラマではあまりできないことだなと斬新に思いました。でも、「人生の最期には走馬灯が流れる」とよく言うじゃないですか。たぶんその瞬間は、人生を最初から追っていくんじゃなくて、この作品のようにすごく幸せな日とか、最悪な日がポンポン浮かぶものなのかなって。

ANAIS:めっちゃわかります。

(左から)ANAIS、明日菜子

nakamura omame(以下、nakamura):時系列がバラバラになっているからこそ、生まれる感情もありましたよね。先を知っているからこその喜びもあり、悲しみもある。出産シーンはハラハラしましたけど、娘ちゃんが元気に育っていることがわかっていたので、ちょっと安心して観られたところもありました(笑)。

ANAIS:たしかに(笑)。私は昨年結婚してまだ子どもがいないので、ライフステージ的にはこの物語の途中にいるんですけど、あのような出産シーンなどご経験者から見てどうでしたか?

nakamura:私は息子が2人いますけど、2人とも切迫早産で出産まで長期入院していたんです。なので、「これが陣痛なの?」「いつ病院に行けばいいの?」みたいな経験はしていなくて。ただ、次男は30週で産まれてしまって、しかも急にお産が進んだので、分娩室に移動する余裕すらなく、ベテランの先生が赤ちゃんの頭を素手で押さえて「手袋がない! 手袋くれ!」と大慌てしていた姿を映像のように覚えています。ベテランの先生ですらあの慌てようだったので、素人があの場に置かれたら、まあそうなるよなって。コミカルに描かれていますけど、実は相当リアルだと思います。

ANAIS:立ち会ったインド人の男の子もよかったですよね。我々観客は、彼らと同じところから出産を見ている。「すごく神聖的なものを見た」と思うし、それを感じた彼らの目や表情からもそれが伝わってきて。とても心に刺さりました。私は出産を経験したことがないけど、「きっとこういう場面もあるんだろうな」と思わせる描き方をしています。この作品がいろいろな人に刺さる理由は、そんなところにあるのかなと。アルムートとトビアスの関係性についてはどう思いましたか?

明日菜子:男女逆転にしたら日本でもよくある構図なのかな、とは思いましたね。たとえば朝ドラ(NHK連続テレビ小説)の『らんまん』(2023年度前期)は植物学者の槙野万太郎(神木隆之介)が主人公ですが、後半は妻のおすえちゃん(浜辺美波)とのバディ物語になるんです。史実のままだと「夫のために自分を犠牲にする献身的な妻」になるところを、万太郎から見た“面白い女”として描くことで、男女バディものとして進んでいく。この作品も、アルムートは才能あふれる人で、一見トビアスが「献身的な夫」になりそうじゃないですか。だけど、アンドリュー・ガーフィールドのお芝居によってすごくチャーミングに見えたし、アルムートのアグレッシブさに負けない魅力があったので、男女対等バディものとしてもすごく楽しめました。

ANAIS:やはり俳優2人が本当にすごいですよね。

明日菜子:もう最高でした。

ANAIS:私はガーフィールド主演の『tick, tick…BOOM! チック、チック…ブーン!』という作品が大好きで。主人公のジョナサン・ラーソンが30歳になるタイミングについて描く物語で、私も「30歳になる瞬間には、これを観ていよう!」と思ったくらい何度も観ていて(笑)、そこでもすごくいい演技をされていたんですよね。フローレンス・ピューはマーベルの『サンダーボルツ*』だったり、日本でも『ミッドサマー』がヒットするなどで知名度を上げていますが、そんな2人のW主演作という時点で「すごい映画なんだろうな」というのは観る前から確信していました。2人とも表情に説得力のある俳優なので、こういう物語をやらせたら良いに決まっていますよね……。

『We Live in Time この時を生きて』のプレス

明日菜子:もはやドキュメンタリーみたいでしたよね。恋愛シーンに関して言うと、コミカルな描写が多い印象でした。この2人は車にまつわることが全部ツイていないので、「もう車に乗らないほうがいいんじゃないかな?」みたいな(笑)。プレスに載っていた脚本家インタビューには「2人を若い頃に出会わせずに、離婚などいろいろと経験した30代で出会わせた」といった内容が書かれていて、すごく面白いなと思いました。日本のドラマでは出会って、恋が実って、ハッピーエンドになる展開が多いけど、「いや、本当はもっとその先にいろいろあるよね」と思うし、そこを描いてほしいなとずっと思っていたので、そういう意味でも新鮮でした。

明日菜子

ANAIS:それに、会話がすごくリアルじゃないですか? 出会ってから、トビアスが「事実上は離婚している」と言ったときの2人の顔の示し合わせ方とか。

nakamura:わかります(笑)。

ANAIS:で、次の日に「やっちゃったー、どうしよう」って、トビアスがこっそり家を出ようとする。こういうシーンって映画の中でよく観るけど、それじゃあコミュニケーションが取れないんですよね。本当はそこに愛の可能性があったかもしれないから、そのあとのやり取りがすごく重要なんです。だから「確かに、なんで私帰ろうとしたんだっけ」と考えるアルムートや、お互い「その必要あったっけ? ないならそのまま何か食べに行く?」ってやりとりを映すのも大切で。こういう映画を通して、「そういう1つのコミュニケーションもあるんだ」と知ることで恋愛のお手本になるどころか、いろいろなものが豊かになると思うんです。こういうふうに、小さなシーンに大事なものがいっぱい詰まった作品だなと感じました。

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