韓国の大統領選では、K-POPは選挙を彩るだけの文化的な存在ではなく、政治戦略そのものとなっている。
二大政党は、いずれもK-POPのヒット曲を選挙活動に取り入れ、有権者を盛り上げる手段として活用している。振り付けとキャッチーな歌詞に政治的メッセージを織り交ぜ、支持を訴える手法だ。キム・ジョングクの「愛らしい」やヨンタクの「隣の家のお兄さん」などの人気曲が全国各地の選挙イベントで定番となっている。
だが、カマラ・ハリス氏がビヨンセやテイラー・スウィフトの支持を得た2024年の米大統領選とは異なり、韓国のアーティストらはファン離れのリスクを避けるため、選挙運動への直接的な関与は回避している。
最大野党「共に民主党」は「シャウティング・コリア」と名付けた48人編成のチームを全国に派遣し、移動型ユニットによるにぎやかなストリート集会を展開している。同党候補の李在明氏が登壇する前後にダンスやK-POPソングで盛り上げることで、観衆が気軽に参加できる雰囲気を演出している。

ソウルの選挙集会に登場した李在明氏(5月29日)
Photographer: Chung Sung-Jun/Getty Images
保守系与党「国民の力」も同様の戦略を採用し、金文洙候補の陣営は現役アイドルの楽曲ではなく、「愛らしい」などのレトロなヒット曲を中心に選んでいる。
「金候補が頻繁にハートのジェスチャーを使うことから『愛らしい』イメージを前面に出そうと、この曲のメッセージ性を活用した」と、国民の力陣営のキム・ドンファン氏は説明した。
今回の大統領選は尹錫悦前大統領の失職で実施されることになり、3日に投票が行われる。6カ月にわたる政治的混乱による分断から国を立て直す新リーダーの登場が期待されている。
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最近の世論調査によると、有権者の関心が高い争点には、経済状況やトランプ米大統領の関税政策への対応などがある。地元メディア「ニュース1」の委託で1005人を対象とした調査では、李候補の支持率は49%と、金候補の36%を上回っている。

李在明氏の選挙集会前にパフォーマンスするダンサー(仁川、5月21日)
Photographer: SeongJoon Cho/Bloomberg
「今回の選挙は戒厳令と弾劾を経たものだ。強い政治的メッセージを入れるかどうかで議論はあったが、最終的には音楽やダンス、動画を通して人々が自然に集まれる空間づくりを選んだ」と、共に民主党のキム・デヨン氏は語った。
選挙キャンペーンで使われている楽曲は、1990年代後半から2000年代初頭のエネルギッシュで幅広い世代に親しまれる曲が中心となっている。1999年のコヨーテの「純情(Pure Love)」やオム・ジョンファの「フェスティバル」などが含まれる。

期日前投票する金文洙氏(仁川、5月29日)
Photographer: Jung Eon-je/AFP/Getty Images
歌詞は候補者のキャラクターや政策目標に合わせてアレンジされることも多い。また、SMエンタテインメントやHYBE(ハイブ)といった大手事務所に所属する現役アイドルの新曲を使用せず、古い楽曲を選ぶことでライセンス費用を抑えていると、国民の力陣営のキム・ドンファン氏は説明した。1曲あたりのライセンス料は約300万ウォン(約31万円)から数千万ウォンに上ることもあるという。

ステージでパフォーマンスする金文洙氏の支持者(ソウル、5月27日)
Photographer: Ahn Young-joon/AP Photo
テレビやラジオも一定の役割を果たしているが、現在の選挙活動ではデジタルコンテンツが主流だとキム・ドンファン氏は指摘する。金文洙候補は主要なユーチューブ番組にも出演し、オンライン視聴者向けに13曲のプレーリストを公開する専用チャンネルも開設している。
デジタルへの移行が進む中でも、街頭パフォーマンスによる生の熱気は多くの有権者に強く響いているようだ。
「若者たちがこうして踊ってくれると、より高い年齢層も元気が出る」と、李候補の集会に参加したソウル在住のイ・スヨンさんは語った。
原題:K-Pop Hits Take Center Stage in South Korea’s Election Campaign(抜粋)