
●“最終章の幕開け”にふさわしい展開が詰め込まれた第1話
テレビ画面を注視していたかどうかが分かる視聴データを独自に取得・分析するREVISIOでは、4月にスタートした春ドラマ初回の注目度ランキングを作成し、人気の傾向を分析した。
○「見た人をくぎづけにする」作品が多いクール
1位となったのは、テレビ朝日『特捜9 final season』で、個人全体注目度66.6%という好スタートを切った。続く2位は注目度65.5%のフジテレビ『波うららかに、めおと日和』、3位は65.2%のTBS『キャスター』だった。
世帯視聴率(REVISIO調べ)ではTBS『キャスター』が10%を超えたものの、他の作品は数字が伸び悩み、全体的に低調気味なスタートだったといえるかもしれない。一方で注目度に着目すると、上位11作品が2024年のドラマジャンルにおける個人全体平均注目度61.9%を超えた。それだけ「見た人をくぎづけにする」内容の作品が多かったといえるだろう。
実際、注目度1位の『特捜9 final season』は世帯視聴率が9位(5.5%)、2位の『波うららかに、めおと日和』は世帯視聴率7位(5.8%)とふるわなかったが、注目度では見事上位にランクインしている。これらの作品を楽しみにしていた層の期待を裏切らない、質の高い番組づくりができていたと言えるのではないだろうか。
○女性視聴者からの高い支持
『特捜9 final season』は特に女性注目度が70%を超え、女性からの高い支持を得たことが分かる。
2018年のスタート以来、毎年春に放送されてきた『特捜9』シリーズがついに完結を迎えるということで、ファンにとっては見逃せないドラマである本作。第1話の放送では、その“最終章の幕開け”にふさわしい展開が詰め込まれていた。
舞台は、警視庁捜査一課特別捜査班——通称“特捜班”。個性豊かなメンバーたちが、井ノ原快彦演じる班長・浅輪直樹のもと、盤石のチームプレーで事件解決に挑む姿を描いてきたこのシリーズ。今回の「final season」第1話では、ある殺人事件の捜査から物語がスタートした。
観覧車のある公園のベンチで発見されたのは、胸に折れたバラの花束を抱いた女性の刺殺体。被害者のスマートフォンの履歴から4人の怪しい人物が浮かび上がり、特捜班のメンバーたちはそれぞれの容疑者のもとへ向かう。一見関係なさそうだった容疑者たちのつながりが徐々に見え始め、事件解決へとつながっていくストーリー展開に、一気に引き込まれた視聴者が多かったのではないだろうか。一話完結ながらも複雑な人間関係や伏線を散りばめた脚本で、刑事ドラマとしての完成度の高さも健在であることを見せつけてくれた。
また、特捜班のキャラクター同士の関係性も、この作品の大きな魅力の一つといえる。苦楽を共にしてきたメンバーたちの息ピッタリのチームワークが随所に見られ、セリフの一つひとつにも積み重ねてきた時間が感じられた。まさに、長年のファンにとっては目が離せない内容だったといえるだろう。もちろん、主演の井ノ原をはじめとするキャスト陣の安定した演技力もこの作品の魅力を後押ししている。
これまで7年にわたって放送されてきた『特捜9』シリーズ。その締めくくりにふさわしいドラマとして、多くの人の記憶に残るラストになることは間違いなさそうだ。今後の展開からも目が離せない。
●トキメキを求める女性たちの心をつかむ
2位の『波うららかに、めおと日和』は、個人全体注目度65.5%という数値で、好発進を切った。
本作品は、漫画アプリ「コミックDAYS」で連載中の西香はち氏による同名コミックが原作。昭和11年の日本を舞台にした、ハートフルな新婚ラブコメディだ。交際ゼロ日で結婚した男女が、初々しくもじれったい夫婦生活を通じて少しずつ心を通わせていく姿を描いている。
主人公の江端なつ美を演じるのは、『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS)に続き、2クール連続でゴールデン・プライム帯の連続ドラマ主演を務める芳根京子。そしてなつ美の夫である江端瀧昌役には今大注目の若手俳優・本田響矢が抜てきされた。
関谷家の四姉妹の三女であるなつ美は、突然の縁談により帝国海軍の中尉・江端瀧昌と結婚することになった。しかし結婚式当日、瀧昌が海軍の訓練で来られなくなり、なんと写真だけの結婚式を挙げることに…。なつ美は恋愛経験がなく、男性への免疫がないままに突然新婚生活が始まる。一方の瀧昌も生真面目で無口な性格で、女性への接し方が不慣れなため、2人の距離はなかなか縮まらない。
この作品が大きな支持を集めた一番の理由は、なんといっても2人のピュアすぎる恋愛模様。ぎこちないながらも少しずつお互いの優しさに気づき、心を通わせていく様子にキュンとする視聴者が続出した。初回放送後、SNSには「初々しい2人が可愛すぎる」「致死量のキュンを浴びた」という声が多数投稿され「不倫やドロドロした恋愛ではなく、こういうのが見たかった」という声も聞かれた。本作品は特に女性の注目度が高く、トキメキを求める女性たちの心を見事つかんだといえそうだ。
また、昭和11年という時代背景も大きなポイント。携帯電話もない時代における人と人との距離感や、日常の中にある小さな幸せが丁寧に描かれている。激しいアクションやスリリングな展開よりも、テレビドラマに癒やしを求める、比較的年齢層が高い女性に特に刺さる内容だったと思われる。現代社会にはないゆったりとした時間の流れや、お互いを思いやる奥ゆかしい2人の距離感に、癒やされる視聴者が多かったのではないだろうか。
主演の芳根さんと本田は本作品が初共演だが、ネット上ではすでに「とてもお似合いな夫婦」という声が多数上がっている。今後、作中の2人が距離を縮めていくにつれて、視聴率・視聴質のさらなる上昇も期待できそうだ。
○「考察」要素も注目度の高さに貢献
TBS系日曜劇場の『キャスター』は、個人全体注目度65.2%を獲得し、見事3位にランクイン。世帯視聴率も14.0%で1位を獲得し、毎クール高い視聴率を獲得している日曜劇場枠が、今クールもその圧倒的な強さを見せつけた。
『キャスター』は、報道番組の裏側を描いた社会派エンタテインメントドラマ。視聴率低迷に悩む報道番組『ニュースゲート』の新キャスターに、公共放送から引き抜かれた敏腕キャスター・進藤壮一(阿部寛)が就任するところから物語がスタートした。第1話では、「この番組を正すためにやってきた」と豪語し、型破りなスタイルで独自に取材や調査を行っていく進藤と、それに振り回される番組の総合演出・崎久保華(永野芽郁)の姿が中心に描かれた。
進藤の破天荒ながらもカリスマ的なキャラクター、番組進行中の予期せぬハプニング、次々と明らかになる驚きの真実……と、初回から息もつかせぬスリリングなストーリーが展開。視聴者の期待を裏切らない面白さで、視聴の「質」の高さにもつながった。
近年のドラマで重視される「考察」要素があることも、本作品の注目度の高さに一役買っていそうだ。政治家が絡んだ大きな闇が背景にあること、進藤自身が何らかの事情を抱えていることをうかがわせるような描写もあり、それらが今後どのように明らかにされていくのかも見どころの一つといえるだろう。
また、世代を問わず大きな支持を集める阿部寛が主演を務めることや、永野芽郁、道枝駿佑といった実力派若手俳優陣との共演も大きな話題を呼んだ。SNSでは放送前から「阿部寛さん主演ドラマにハズレなし」「豪華なキャスティングに期待しかない」との声が多数上がっており、見事その期待に応えたといえそうだ。
報道の裏側という普段私たちが目にすることのない世界をリアルに描き、報道の正義や在り方を問う本作品。高い視聴率と視聴質を最終回まで維持できるか、今後の動向にも注目が集まる。
●男性注目度が高い在阪局制作2本
最後に、男性注目度が高かった2作品を紹介しよう。
男性注目度1位を獲得したのは、フジテレビ(カンテレ制作)の『あなたを奪ったその日から』。女性注目度が60.0%だったのに対し、男性注目度は66.1%と高い数値を記録した。
食品事故で子どもを失った母親・中越紘海(北川景子)が、事故を起こした会社社長の娘を誘拐し、復讐を果たそうとする物語。親子の愛がテーマである作品だけに、女性からの注目度が高くなるのではないかと予想されたが、意外にも男性からの支持を集めた。
主演である北川景子の人気の高さや、子どもを失った事故の真相を追うというサスペンス要素が含まれている点が、男性の関心を引きつけたのかもしれない。
男性注目度3位にランクインしたのは、桐谷健太が主演を務めるテレビ朝日(ABCテレビ制作の『いつか、ヒーロー』だった。主人公の赤山誠司(桐谷)は、児童養護施設の元職員。彼が施設を去る日、20年後の再会を誓って教え子たちとタイムカプセルを埋める。しかし、赤山が20年後に再会したのは、夢や希望を失った元教え子たちの姿……。赤山と教え子たちは世代を超えて手を組み、腐敗した巨大権力に立ち向かうことを決意する、というストーリーだ。
第1話では、20年後に再会した教え子たちがアラサーになっており、現代社会に生きづらさを感じ絶望の淵に立っている姿が描かれた。お金がなく毎日暮らすだけで精一杯、ブラック企業に勤めて消耗している……など、社会への問題提起的な要素もあり、硬派なテーマを好む男性をくぎづけにしたのかもしれない。
REVISIO 独自開発した人体認識センサー搭載の調査機器を一般家庭のテレビに設置し、「テレビの前にいる人は誰で、その人が画面をきちんと見ているか」がわかる視聴データを取得。広告主・広告会社・放送局など国内累計200社以上のクライアントに視聴分析サービスを提供している。本記事で使用した指標「注目度」は、テレビの前にいる人のうち、画面に視線を向けていた人の割合を表したもので、シーンにくぎづけになっている度合いを示す。 この著者の記事一覧はこちら
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