「モノをさすっているようだった」。当時、中学生だった男性は、津波に流され低体温症に陥った消防士に抱きついて温め、命を救いました。その元中学生と元消防士が東日本大震災から14年を前に再会。初めて、当時、命を救った「とっさの判断」について伝えました。

津波で3時間漂流した男性 体が冷え「低体温症」の危険

元消防士の及川淳之助(70)さん。去年ようやく、当時のことを話せるようになりました。同僚10人が津波で亡くなり「自分だけが生き残った」と、今も自分を責める気持ちが強いといいます。

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及川淳之助さん
「真っ黒い水の塊。20メートルくらいあるように感じました」

及川さん自身も、宮城・南三陸の消防署にいるときに津波にのまれ、3時間もの間、海を漂流しました。瓦礫につかまりながら、必死に耐えたといいます。

及川淳之助さん
「海の中に沈んでいたところ、今度は娘の顔が浮かんでまいりました。『ちきしょう、どこまでも生きてやる』ということで、また這い上がりました」

今、命をつなぐことの大切さを伝えています。

あの日、津波からは何とか逃れたものの、体が極度に冷え、「低体温症」で亡くなった人が大勢いました。そんな中で及川さんの命は、ある機転により救われたのです。

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震災発生当日、低体温症に陥ったとみられる、及川さんとは別の男性をとらえた映像が残っています。

男性
「温めて…寒いよ、寒い」

震えながら、うわごとのように声を発し続けます。体の内部の温度=深部体温が、35度を下回る低体温症。意識障害も引き起こし、最悪の場合、死に至りますが…

避難所の女性
「顔色もだいぶ良くなりましたよ」

男性は、暖房器具や毛布のある避難所に運ばれ、一命をとりとめました。

では、3時間も海で漂流し、低体温症に陥った及川さんの命は、どのようにして救われたのか…

「低体温症」男性救った行動 暖房使えず…“人間カイロ”TBS NEWS DIG Powered by JNN

この日、及川さんの元を一人の男性が訪れました。佐藤裕さん(28)。実は当時、佐藤さんら3人の中学生が、及川さんを救ったのです。

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佐藤さんの母校・南三陸の戸倉中学校にも津波が押し寄せました。佐藤さんら中学生たちは避難。近所の人と一緒に、高台で夜を明かそうとしていたところに、津波に襲われた消防署から、実に10キロも漂流してきた及川さんがたどり着いたのです。

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佐藤裕さん
「人の体って何となく温かさとか分かるじゃないですか。じゃなくてモノをさすっているような感じ。冷たいし、体もガチってなってるし、人の体じゃないみたい」

及川さんは、近くの工場の部屋に運ばれます。布団はありますが、停電で暖房は使えません。一体、どうすれば良いのか…

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及川淳之助さん
「その当時、私、全然意識がなかったんですけど、どのような状況だったのかを聞きたいなと」

佐藤裕さん
「低体温症で布団で寝ているので、隣に行って、温めてくれということを(学校職員に)言われまして。私と大柄な先輩、両脇からくっついて温めるような感じ」

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濡れた服を脱がされ、布団の中にいた及川さんに、学校職員に言われ、半袖・短パンになった佐藤さんら2人の男子中学生が抱きつきます。まさに「人間カイロ」。薄着になり、熱を伝えやすくしました。さらにもう一人の生徒が足をさすります。

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太い血管が通る首やわきの下などを温めると効果的だと言います。1時間ほどして、及川さんは意識を取り戻しました。

及川淳之助さん
「なかなかできることではない。『俺いいから』って、自分ならもしかしたら、そう言うかもしれない」

佐藤裕さん
「14歳の私が何を考えて行動していたか、おぼえていない。当時は及川さんの顔を分からなかった」

津波に襲われた学校の様子が見られる気仙沼の伝承館。及川さんは去年4月、その館長になりました。仲間を亡くし、自分だけが生き残ったという負い目は今もありますが、自らの経験や震災の教訓を伝えなければと思ったからです。

及川淳之助さん
「地域住民に助けられた。そして、中学生に温められて、今の命がある。感謝、感謝しかない」

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佐藤裕さん
「正直、自分が助けたとか、自分のお陰げで生きているみたいなことは微塵も思っていないので。及川さんが生きていて、次の世代に伝える事を伝承館でしているということで、自分のやったことは無駄じゃなかったと思う」

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