Interview & Text:黒田隆憲

Photo:森好弘

 ASIAN KUNG-FU GENERATIONが、EP『フジエダ EP』とニューシングル「スキンズ」を2か月連続でリリースする。築130年の土蔵を改修した滞在型レコーディングスタジオ「MUSIC inn Fujieda」で制作された『フジエダ EP』は、スピッツ「ナンプラー日和」のカバーを含む全4曲を収録。骨太なギターリフで押し切るロックンロールから、跳ねるリズムの遊び心、箱鳴りを生かした音像まで、曲ごとに手触りを変えながら、静岡の滞在型音楽制作スタジオのクオリティを提示する“ショーケース”的な内容にもなっている。一方、TVアニメ『Dr.STONE SCIENCE FUTURE』最終シーズン第3クール・オープニング・テーマ「スキンズ」では、価値観の揺れる時代感覚を、対立や断絶を超えて共有できる“共通の感覚”へと編み直していく。本稿では、『フジエダ EP』の制作背景と曲ごとのアレンジ、「スキンズ」に込めた視線、そして30周年の海外公演/有明アリーナ公演へ向けた意気込みまでを4人に聞いた。

「MUSIC inn Fujieda」の

“テストレコーディング”でもあるEP

――『フジエダ EP』は、滞在型レコーディングスタジオ「MUSIC inn Fujieda」で全曲制作したそうですね。そもそもこのスタジオは、どんな経緯で設立したのでしょうか。

後藤正文:若いミュージシャンが都内、特に都市部で活動すると、どうしてもスタジオ代が高くついてしまいます。場所によっては「高いうえに狭い」という、苦しい状況がある。だから、もっと使いやすくて、じっくり制作できる場所を作りたいと思って立ち上げたのが「MUSIC inn Fujieda」です。クラウドファンディングなども活用し、みなさんの力を借りて無事に完成したのですが、いざ動かしていくとなると“テストレコーディング”が必要になる。その役割を、今回ASIAN KUNG-FU GENERATIONにお願いしました。しかも招待ではなく、定価で満額お支払いいただいて。経済的な支援にもなったし、とても感謝していますね、運営側からすると。

――実際にスタジオを利用してみていかがでしたか?

喜多建介:これまで写真などで見てはいましたが、想像以上にちゃんと“スタジオ”に仕上がっていて、まずびっくりしました。「めちゃくちゃ広い」というわけじゃないですけど、天井が高いから実際よりも広く感じる。今回、事前に自分たちのスタジオでプリプロをしてから入ったので、同じ曲を同じ条件で録って比較できたのもよかったですね。特にドラムの音は、めちゃめちゃいいなと思いました。こういうサウンドを目指して完成させたんだな、と感銘を受けましたね。丁寧な仕事がちゃんと音にも表れていますし。

伊地知潔:藤枝に、こういう蔵が残っていることも感慨深いですよね。きっとリノベーションするほうが、更地にして新たに建てるよりも費用がかかると思うのですが。僕らは以前、ロンドンの「RAK Studios」へ行ってレコーディングをしたことがあるんですけど、そこも何十年も前からあるスタジオで。ヨーロッパって、古い建物を大事にするじゃないですか。立て替えずにリノベして使うのが規則で決まっていたりして。それって素晴らしいことだし、街並みにも統一感が出て美しい。ずっと羨ましく思っていたんです。日本は地震大国という事情もあって、建て直さなきゃいけない面もあるのかもしれないけど、だからこそ、なかなかできることじゃないなと思って感動しました。

山田貴洋:使っている木材も災害材を再利用していたり、もともとあった蔵の床板を壁に貼り付けていたり、そういうところも素敵だなと思いましたね(※床には能登産ヒバ材、壁には能登地震の被災地から救い出した古材を使用)。スタッフの皆さんも温かくてユニークな方ばかりで、居心地もとてもよかった。本当に、「まず僕らに使わせてくれてありがとう」という気持ちです。

「Recording Documentary at MUSIC inn Fujieda」 (Trailer)
from 「フジエダ EP」初回生産限定盤 特典Blu-ray

――ではその『フジエダ EP』について曲ごとにお聞きしていきます。1曲目の「膝栗毛」ですが、まずタイトルが面白いですよね。

後藤:「東海道といえば、膝栗毛でしょ」みたいな(笑)。それと、速い曲を作らなきゃと思ったんです。かっこいいギターリフが鳴っていて、ライブで盛り上がるような8ビートの正統派ロック。ここに来たら、こういうサウンドが録れると思ってもらいたかったんですよね。歌詞はまあ、勢いで書きました。

――(笑)。でも、フィジカルの持つ強さと脆さを歌っているのかなと。すごく考えさせられる歌詞です。

後藤:日本中の商店街が、どんどん更地になっていくじゃないですか。とりあえず駐車場になっている、みたいな。どの町でも駅前が廃れていくパターンって、だいたい駐車場なんですよね。何かを建てるイメージが湧かないから、「とりあえず車を停めておこう」という発想なんだと思うけど。

僕らも今、地方都市の“振興”というか、そういう文脈に参加していると思うんです。藤枝も人口が減って高齢化が進んで、空き家が更地になっていく現状がある。誰が悪い、という話ではないんですよ。ただ、みんな無言のまま、その流れに乗らざるを得ないところがある。潔が言ってくれたように、上手に残してリノベしながら昔の街とつながっていくことが大事なんじゃないかなと。そういう思いが、この曲には反映されているかもしれないですね。

喜多:サウンド的なテーマとしては、「フー・ファイターズ」というキーワードが出ていたんです。なので、そこは意識しながらアレンジやギターの音作りを考えました。ハードロックまではいかないけど(笑)、いつもよりアメリカっぽい質感が出せたんじゃないかなと。

伊地知:この曲、100年前のスネアを使ってるんですよ。ラディックの「ブラック・ビューティー」。スタジオの鳴りとそのスネアが合わさると、どういう音になるのか──そこは自分でも注目していましたし、やっていて楽しかったですね。


Photo:森好弘

――「おかえりジョニー」は「ジョニー」と「エリー」という名前が登場し、物語性の強い楽曲ですが、どんなところから着想を得ましたか?

後藤:最初に「ジョニー」という名前が頭に浮かんで。書いていくうちに「ジョニーだけじゃないな」と思い、女性ならエリーかなと。まあ、サザンオールスターズですよね(笑)。〈笑ってもっとベイビー〉って言っちゃってますし。それにジョニーといえば、もちろんくるりの「ハイウェイ」も頭に浮かびましたね。〈飛び出せよ海へ エリー〉は、あの曲の〈飛び出せジョニー気にしないで〉から着想を得ました。岸田(繁)くんにも一応話したら「いいよ」って。できた曲についても、「プロダクションがいいね」「とにかく音がいい」と言ってもらえて嬉しかったですね。

喜多:ディレクターで入ってくれた、シモリョー(下村亮介 / ex. the chef cooks me)とも、「歌詞にいろいろオマージュがあって面白いね」なんて話しながら、サザンとかくるりとか引用元も聴いてみました。最終的にはちゃんとアジカンっぽく仕上げなきゃな、と思いながら詰めていって、いい落としどころに着地できたんじゃないかなと思います。

伊地知:この曲がリード曲になるとわかっていたので、「MUSIC inn Fujieda」の名刺代わりになるようなサウンドを目指しました。ドラムは、屋敷豪太さんからスタジオに貸していただいているSONORのセット。「MUSIC inn Fujieda」に常に置いてあって、スタジオを利用する人なら誰でも叩けます。

山田:ゴッチから送られてくるデモは、いつもベースを親指で弾いているんですよね。今回そのニュアンスを出したくて、サビ前まで親指で弾いてみたら、すごく気持ちいい感じになりました。

おかえりジョニー / ASIAN KUNG-FU GENERATION

――スピッツの「ナンプラー日和」をカバーした理由は?

後藤:ギターの三輪(テツヤ)さんと、ベースの田村(明浩)さんが藤枝市出身なんです。「地元のヒーロー」みたいな感覚があるから、「MUSIC inn Fujieda」で録るならスピッツの曲がやりたいなと。「ナンプラー日和」は、ちょっとパンキッシュにできそうと思ったのも大きかったです。(収録されている)アルバムは『スーベニア』だったかな、亀に乗ってるやつ。名盤ですよね。

――このギター、オリジナルはちょっと“エレクトリック三線”みたいなニュアンスがありますね。

喜多:おそらく(原曲では)プロの三線奏者の方が弾いていると思うんですけど、テンポを上げたうえで“跳ね”を再現するのが難しかったですね。音色も面白くしたかったので、ローランドさんが「MUSIC inn Fujieda」に提供してくれているBOSSのペダルを駆使しました。

山田:ベースは同じフレーズをずっと弾き続けるので、ゲシュタルト崩壊みたいに途中で「何を弾いてるんだっけ?」となりそうになる(笑)。サビは特に、速いテンポでやりすぎると曲が窮屈になってしまいがちなので、少し間引きながら全体のバランスを取っていきました。難しいリズムとの兼ね合いも含めて、そこは意識しましたね。

――個人的に「ペダルボート」の歌詞が刺さりました。

後藤:ありがとうございます。僕らの年代だからこそ書けた曲ではあるんですけど、「MUSIC inn Fujieda」で録音する若い子たちのことも思い浮かべつつ、自分が若かった頃のことも一緒に考えて書いた曲ですね。アコギから始まるのですが、その響きもすごく良く録れたと思います。

喜多:もともとのゴッチの弾き語りバージョンがすごく良かったので、バンドでやるとなったときに、どういうアプローチにするかはシモリョーとも相談しながら結構考えましたね。最終的には、いい感じのスライドギターを入れられたんじゃないかなと(笑)。

伊地知:アジカンだと、ゴッチが自分のことや過去の経験を、あまり歌詞にしてこなかった印象があるので、そういう意味でも新鮮でした。


Photo:森好弘

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