もう一度観たくなる、名作映画の深読み
もう一度観たくなる、名作映画の深読み(11)
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2026.3.23(月)
『ウエスト・サイド物語』(1961) 写真/Bridgeman Images/アフロ
(田村 惠:脚本家)
洋画、邦画を問わず今日まで7000本以上、現在でも年間100〜150本の映画を観ているという、映画を知り尽くしている田村惠氏。誰もが知っている名作映画について、ベテラン脚本家ならではの深読みを紹介する連載です。
アカデミー賞とミュージカル映画
98回を数えるアカデミー賞の歴史の中で、オスカーを獲得したミュージカル映画の主演俳優は7人しかいない。
・1942年 ジェームズ・キャグニー『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』
・1956年 ユル・ブリンナー『王様と私』
・1964年 レックス・ハリスン『マイ・フェア・レディ』
・1964年 ジュリー・アンドリュース『メリー・ポピンズ』
・1968年 バーブラ・ストライサンド『ファニー・ガール』
・1972年 ライザ・ミネリ『キャバレー』
・2016年 エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』
この7人には共通点がある。それは、自分の声で歌っているということである。ハリウッドには、歌を吹き替えられた主演俳優はオスカーを受賞できないというジンクスがあり、現在では定説になっている。ミュージカル映画では歌も演技の一部ということなのであろうが、そのジンクスを生み出したのはマーニー・ニクソンという歌手ではないかと思う。
彼女の名前を世に知らしめたのは女優のデボラ・カーである。インタビューの中で、『王様と私』の自分の歌はすべて吹き替えだったと、映画会社に口止めされていた事実を暴露したのだ。これにより、映画の大ヒットにはマーニー・ニクソンという陰の功労者が居たことに光が当てられたのである。しかし、デボラ・カーはこの作品でゴールデン・グローブ賞を受賞しながら、アカデミー賞ではノミネートに留まって受賞を逃している。
その5年後、マーニー・ニクソンは、今度は『ウエスト・サイド物語』で主演のナタリー・ウッドの歌を吹き替え、またしても映画の大ヒットに貢献する。しかし、自分の歌に自信を持っていたナタリー・ウッド本人には吹き替えのことが事前に告げられていなかった。そのため、彼女は完成した作品の試写を見て、初めて現実を突きつけられることになった。この年、彼女はアカデミー賞主演女優賞にノミネートされるが、その作品は『ウエスト・サイド物語』ではなく『草原の輝き』であった。
マーニー・ニクソンが最後に吹き替えたのは『マイ・フェア・レディ』のオードリー・ヘップバーンである。この作品は、舞台ではジュリー・アンドリュースが主演してイライザ役を確立していたため、オードリーはなかなか出演を承諾しなかった。そして、彼女の場合はあらかじめ部分的に歌を吹き替えられることが告げられていたが、最終的には彼女の予想を越えて、ほぼすべての「部分」が吹き替えられることになった。
その結果、映画はアカデミー賞を8部門で受賞し、ヒギンズ教授のレックス・ハリスンも主演男優賞を獲得したが、オードリーはノミネートすらされなかった。しかも、この年の主演女優賞はオードリーにイライザ役をさらわれたジュリー・アンドリュースが受賞するという皮肉な幕切れとなった。
