“アジア版のグラミー賞”こと「MUSIC AWARDS JAPAN(MAJ)」の第1回が2025年に開催され、Mrs. GREEN APPLE、Creepy Nuts、藤井風など今の音楽シーンの先頭を走るアーティストが一堂に会した。独立独歩でやってきた音楽業界5団体が立ち上げたアワードに注目が集まっている。ライターの髙橋大介氏が、MAJの舞台裏を深掘りした(文中敬称略)。
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「海外からも注目されるようなアワードに」
アワードの放送はNHKに決まったが、制作・著作の担務と権利はCEIPA(一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会)が保持したため、総合演出の担い手はCEIPAから用意する必要があった。稲葉豊(日本音楽出版社協会会長)が明かす。
「当然、音楽番組の制作の経験がないと難しい。理事たちで話し合い、若くて、アーティストからの信頼が高く、新しい感性を持っているのは、テレ朝の『ミュージックステーション』プロデューサーの利根川広毅さんだろうという結論に至りました。でもNHKで放送するのにテレ朝の利根川さんにお願いするのはハードルが高い。それならみんなで行こうと、村松俊亮さん(日本レコード協会会長)、野村達矢さん(日本音楽制作者連盟理事長)、自分ほかCEIPAメンバーでテレ朝に行きました。

「MUSIC AWARDS JAPAN(MAJ)」のコンセプトは“アジア版グラミー賞”。第1回の最優秀アーティスト賞はMrs. GREEN APPLEが受賞した ©時事通信社
事前に用件を伝えたら断られるだろうと、何も伝えずに行くと、当時常務で現在は社長の西(新)さん以下役員を中心に5人くらいいらした。『日本の音楽業界のために利根川さんを貸してください!』とお願いすると、すごくびっくりされて『ちょっとお時間をください』と。2週間ほどして、『頑張ってください』という激励の言葉とともに承諾のご連絡をいただきました」
利根川はセレモニーのオープニングで京都に集まったアーティストを当日まで撮影し、YMOの「ライディーン」を今のアーティストたちによってリミックスする映像を流し、海外進出の先人へのリスペクトを表現した。司会を務めた菅田将暉は同世代のアーティストに親しげに声をかけるなど、リラックスしたムードを作り、アワードのコンセプトの一つでもある「業界に貢献したアーティストを讃える」という雰囲気を作り出した。
一方、栗田秀一(日本音楽出版社協会副会長)は課題もあると話す。
「グローバルという点ではまだまだです。ベトナム、インドネシアのアーティストが参加してくれましたが、もっと海外からも注目されるようなアワードにしなくては。今後の世代形成で見れば間違いなくASEANの市場が伸びていくでしょうから、さらに連携を強化したいと考えています」
京都のディスコ「マハラジャ祇園」に約500人が集った打ち上げで、挨拶に立った都倉は、業界が一つになり成功させたことを評価した上で、「あんなに仲が悪かった5団体が垣根を越えて……」と口にし、関係者を苦笑させたという。栗田が振り返る。
「各団体の設立経緯も違いますし、権利処理等での意見の相違などが垣根になっていたのでしょうか。もちろん都倉長官のジョークではありましたが、確かにここまで大きな一つのことをみんなが協力し合ったのがとにかく初めてだったので(笑)」
邦楽の視聴回数が伸びている
日本の音楽業界は長らく世界の音楽シーンから隔絶し、閉塞したムラ社会と化していた。だが、K-POPとコロナ禍という外圧を受けて苦闘しながら、ついに団結し世界に向けて動き出した。MAJはその記念すべき第一歩と言えるだろう。
だが、これは始まりに過ぎない。この10年、CDの生産実績やストリーミングなどを合わせた国内売上はあまり変化がなく、24年で約3300億円(日本レコード協会調べ)だ。一方、コンサート売上は6121億円(24年、ACPC調べ)と10年で2倍になっている。音楽の楽しみ方が「サブスクで安く聴き、ライブ体験にお金をかける」というスタイルに変わったのだ。
これは世界的な潮流だ。野村が語る。
「かつてCDは3000円で約10曲入りでしたよね。1曲あたり300円。それがサブスクだと1曲1回聴いて1円程度にしかならない。極端に言えば我々が頑張って作った1曲の価値が300分の1以下になっている。じゃあ、その差をどう補うんだと我々も迫られているわけです。
だったら海外に面積を広げなきゃいけないんじゃないか。東南アジアでは日本の音楽がブレークする兆しが出てきているし、今までハードルが高かったアメリカ、ヨーロッパでも、Ado、米津玄師、YOASOBI、BABYMETALといったアーティストがツアーをやって、アリーナクラス(1万~2万人規模)が埋まるレベルまで来ています」
※約1万字の全文では、音楽業界の重鎮たちが音楽輸出の戦略を語っています。月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年3月号に掲載されています(髙橋大介「ドンなき後の芸能界 K-POPに負けるな——日本の音楽業界は変わるのか」)。この他にも、「文藝春秋PLUS」では多数の関連記事を掲載しています。
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