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北野武映画を語るトークイベントに通っている。2023年12月~24年1月に水道橋博士氏の主宰でプレ的に2回行われ、その後はアル北郷氏の主宰で「大好きな北野映画を、1本づつ丁寧に解説していくLive」と題して計6回開催。これまで「菊次郎の夏」「アキレスと亀」「座頭市」「キッズ・リターン」「HANA-BI」「ソナチネ」について語られてきた。
 メインの話し手でもある水道橋博士氏とアル北郷氏は、北野氏の30年来の弟子で、北野氏に心酔している生粋のファンでもある。そこに、北野映画のファンである映画評論家・ライターのモルモット吉田(吉田伊知郎)氏、北野映画の初期から取材をした経験があり、「菊次郎の夏」のメイキングドキュメンタリーを手がけたこともある映画監督の篠崎誠氏が準レギュラー的に加わる。さらに、撮影当時をよく知るキーマンとして弟子仲間がゲスト出演することもある。
 イベントの会場は、ネイキッドロフトや阿佐ヶ谷ロフトAの初代店長を務めた奥野徹男氏が独立して2013年からはじめた高円寺パンディット。雑居ビルの中にあるキャパ30人ほどのスペースで、奥野氏自身がワンオペでまわしており、初期のロフトプラスワンを思わせる雑多な雰囲気があって、とてもいいなと思っている。
 お2人の話がとにかく面白いのはもちろんのこと、これまで詳らかにされてこなかった北野映画の秘密が明かされていく知的興奮があって、イベントは北野映画を見返す良いきっかけにもなっている。北野映画は25年2月現在、最新長編の「首」、Amazon製作の中編「Broken Rage」以外の作品は残念ながら配信されておらず、ソフトを買うかレンタルショップで借りるしかないが、筆者は思いきってブルーレイで作品をそろえてしまった。

北野映画に出演もするアル北郷氏

お笑いコンビ「浅草キッド」としてテレビに多く出演し、れいわ新選組から出馬して参議院議員にもなった水道橋博士氏をご存じの方は多いはずだが、失礼ながらアル北郷氏については知らない方がほとんどだろう。私自身イベントに参加するまでアル北郷氏のことをよく知らず、北野氏が出演していた頃の「情報7daysニュースキャスター」や、不定期で深夜に放送されていた「たけし軍団」メインの単発バラエティ番組に名前がクレジットされていたのを見て、どういう人なのだろうと思っていた。
 ユニークな名前の芸人が多い北野氏の弟子のひとりであり、TAP(旧:オフィス北野)ではなく、北野氏の現在の事務所T.Nゴンに所属するアル北郷氏は、芸人の活動とあわせて北野氏が出演する番組に構成作家やブレーンとして参加。近年の北野映画に文芸的な役割で関わってきたことが、イベントのなかで語られてきた。
 北野映画を多く見ている人は、ちょい役としてたけし軍団の面々が多くでていることをご存じのことと思う。アル北郷氏もそのひとりで、なんと9作(たぶん)も出演している。北野映画最多と思われる出演俳優として、ヴェネツィア国際映画祭のグランプリ(金獅子賞)を受賞した「HANA-BI」では盗難車のタクシーをスクラップ屋に売りにきた男性、「アキレスと亀」では青年時代の倉持真知寿(演:ビートたけし)の芸術家仲間である板垣役を好演している。こうしたちょい役の出演も、脚本制作を手伝いながらそれとなく北野氏にアピールすることで勝ちとってきたそうだ。
 アル北郷氏には、「週刊アサヒ芸能」で連載したコラムをまとめた著書「たけし金言集 あるいは資料として現代北野武秘語録」(徳間書店刊)があり、ここでもタレント・ビートたけし氏の知られざるエピソードを披露していた。そのあとがきでは、コラムを連載することをたけし氏に報告したアル北郷氏が「俺がいかにスケベでダメなやつか、しっかりと書くように」と言われたと書いている。北野映画を語るイベントでも、本人と作品の大ファンであることを前提に、撮影中に宿泊先のホテルで北野氏の話し相手になったときの人間くさいエピソードなどが笑いを交えて語られることもあった。
 アル北郷氏が北野氏の付き人兼運転手をしていた頃、待ち時間に北野氏からもらった小遣いで青山ブックセンターで好きな本を買って読んでいるとき、こんなに幸せなことはないと話していたのが印象に残っている。本や映画が好きな文化系オタクとして、北野氏の身近で見聞きした貴重なエピソードを記録して世に残しておきたい。そんな思いから、北野映画を語るトークイベントを続けられているのだと思う。

「キッズ・リターン」の秘話

詳細は割愛するが、北野映画のプロデューサーでスポークスマンでもあったオフィス北野の元社長・森昌行氏は北野氏と袂を分かって、現在は作品に関わっていない。森氏がプロデューサーだった頃は、北野映画をオフィシャルに語る場では森氏の意向にそったかたちで、それとなく内容が調整されてきたようだ。アル北郷らのトークイベントは森氏が北野映画に関わらなくなったから開催できているとも言え、そこで語られる北野映画の実相は、森史観とも言うべきこれまでの記録とはちょっと角度が違った見え方になっているのも個人的には興味深く感じている。
 「キッズ・リターン」について語られた回では、当時北野氏の付き人を務めていたお宮の松(元「北京ゲンジ」の1人)氏がゲストとして登壇し、同作でお宮の松氏は主役のボクサーを演じる予定だったことが明かされた。役作りのためボクシングの練習も長く行っていたそうだが、主に興行上の理由などで最終的にお宮の松氏は漫才師役としての出演になった。
 「キッズ・リターン」(1996)は、北野氏が1994年にバイク事故で生死の境をさまよったあとの復帰作であり、北野映画ファンのあいだでは「ソナチネ」と並んでベストとして挙げられることの多い作品だ。北野氏は出演せずに監督に徹した「キッズ・リターン」は、北野氏自身の経験が色濃く反映された精神的な自伝作品でもある。トークのなかでお宮の松氏は、撮影の合間に北野氏から「キッズ・リターン」に登場する登場人物たちはすべて自分の投影だと聞かされたエピソードを披露した。同作ラストの名ゼリフ「俺たち、もう終わっちゃったのかな」「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」は、再起をかける北野氏の当時の思いがこめられていたことが、あらためて分かった。

水道橋博士氏の休養

昨年9月に行われた北野武映画を語るイベントでは、次回は長編最新作の「首」か、底抜けの怪作として知られる「みんな~やってるか!」のどちらかを語りたいと予告されていた。その直後に水道橋博士氏が体調不良のため他のイベントの出演を見合わせることが発表され、開催は見送られているようだ。今思えば9月のイベントでの水道橋博士氏はちょっと元気がなかったように感じたが、水道橋博士氏を被写体にしたドキュメンタリー映画「選挙と鬱」(監督:青柳拓)を見た身としては、いずれまた元気な姿を見せてくれると思っている。アル北郷氏との北野映画トークが再開されることをいちファンとして楽しみに待ちたい。(「大阪保険医雑誌」25年11月号掲載/一部改稿)

五所 光太郎

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[筆者紹介]
五所 光太郎(ゴショ コウタロウ) 映画.com「アニメハック」編集部員。1975年生まれ、埼玉県出身。1990年代に太田出版やデータハウスなどから出版されたサブカル本が大好き。個人的に、SF作家・式貴士の研究サイト「虹星人」を運営しています。

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