発信方法として書くという方法がしっくり来ているのは、絶対本を読むようになったおかげ

──ほかに、影響を受けた作品はありますか?

戦慄かなの:もう1冊挙げるとしたら、村田沙耶香さんの『殺人出産』。村田沙耶香さんの作品はもともと好きで、『コンビニ人間』なども読んでいたんですけど、何かのタイミングで『殺人出産』が関連書籍に出てきて読みました。

──村田沙耶香さんは独特の世界を描かれる作家さんですよね。『殺人出産』は、10人産んだらひとり殺すことができるという近未来の物語です。

戦慄かなの:まず設定がすごいですよね。本の中で世界をぶっ壊してくれるところが本当に好きで、ストレス発散になります(笑)。村田さんはそういう独自の世界を当たり前のように書かれるんですよ。そこに納得して感情移入できるし、「名案だ!」みたいな過激な気持ちにはなるわけではないけど、すごくピュアな世界だと思わせるのが上手い。社会に対しする問題提起を、おもしろいかたちでアウトプットされているなと感じます。村田さんの作品だと『トリプル』も好きですね。

──『グロテスク』も『殺人出産』も読んだあとに考えさせられる余白のある小説ですが、読んだあとにいろいろ反芻するタイプですか。

戦慄かなの:書かれていることやテーマについてすごく考えますね。それで暗い気持ちになるというより、そこから派生した気持ちのまま、いろんなことに向き合えるというか。本を読んだあとのメンタルによって日常生活での感じ方も変わってしまうところがあるので、危ないかもしれない(笑)。

──ご自身で作詞する時や音楽表現する時にも、本の影響がありそうですか?

戦慄かなの:あるのかなぁ……歌詞を書くために本を読むことはないですけど、いろいろなものの積み重ねが今の自分を作っているので、自然に影響を受けている部分はあると思います。喋るより文字にするほうが考えをちゃんと見つめられるし、発信方法として書くという方法がしっくり来ているのは、絶対本を読むようになったおかげですね。

──文章を書く時は、自分の中にあるものを発散するような感覚?

戦慄かなの:いや、書く時は考えに考えてから書くので、発散という感じではないです。書くテーマがぽんぽん出てくるわけでもないし、まずテーマが思い浮かぶまでに時間がかかる。だから、作家のみなさんはどうやってテーマを思いついているのかなと思います。それこそ三浦しをんさんはいろんなジャンルを書かれるじゃないですか。辞書についてだったり、『まほろ駅前多田便利軒』での便利屋さん、かたや駅弁についてのエッセイがあったり。私は自分が興味あることや身の回りに関連しているテーマじゃないと歌詞を書けないので、自分の管轄外のテーマを扱った小説を書いている方々を見ると、「頭の中どうなっているんだろう?」と思います。

──では、ビルボードジャパンの書籍チャートを見てみていかがですか?(編集部注:戦慄さんには2025年12月18日公開の文芸書籍チャート“Hot Bungei Books”をご覧いただきました)

戦慄かなの:ランキングを見て買うことはないので新鮮ですね。上位に朝井リョウさんの作品(『生殖記』『イン・ザ・メガチャーチ』)が2冊もランクインしてる。『イン・ザ・メガチャーチ』はアイドルの運営の話なんですね……気になるから読んでみようかな。あ、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』も入ってる! なんで今なんだろう?

──村田沙耶香さんの『消滅世界』が映画化されたので、その影響かもしれないですね。呉勝浩さんの『爆弾』や湊かなえさんの『人間標本』など映画化関連の作品は多いですが、そういう視点ではあんまり読まないですか?

戦慄かなの:そうですね。逆に、映画化されているとちょっと萎えるほうです(笑)。「この本、面白かったな」と思って文庫本で買いなおそうとした時、映画化されて帯やカバーが映画仕様になっていると買う気がなくなったりする。急に俗っぽく感じるというか、何かフィルターがかかっちゃうんですよね。今流行っている本や漫画とかも全然読まないです。

──本当に自分の関心で探していくという出会い方なんですね。読んだ本をまわりの人やファンの方におすすめすることはありますか?

戦慄かなの:本が好きな友達とシェアしたり、誰かと本の話ができたりしたら楽しいんだろうなぁとは思いますけど、そういう相手がいないんですよ。SNSに載せるのも、“本を読んでる” アピールのように思われるのがちょっとイヤで。音楽もすごく好きですけど、好きな音楽をシェアしたこともないです。ファン相手ですら、「私のセンスを受け取れ!」って押しつけるようなことはしたくない自分がいて。だから、ひとりで楽しんでそっとしまっています(笑)。でも、たまにこういうインタビューで影響を受けた本や好きな本を答えると、ファンの人が同じ本を持ってきて「読みました」と言ってくれることがあるんですよ。昔の発言でもそうやって読んでくれる人がいるので、発信するのもいいなと思います。この取材を期に発信してみようかな。

──戦慄さんの影響で本を読んでくれたら嬉しいですよね。

戦慄かなの:嬉しいです! ファンの方で、本を読む習慣がなかったけど、私きっかけで本を好きになった方や、「少年院での話を見て本を読んでみたら大好きになりました」と言ってくれる人がいて。そういう話を聞くとすごく嬉しいです。

──若い世代の人はタイムパフォーマンス重視で、本を読むことが減っているそうですから、ぜひ読書の面白さを広めていただきたいです。

戦慄かなの:文字が無理なのか、10秒くらいでわからないとイヤなのか……。ショート動画とかは単なる暇つぶしという感じで、やっぱり没入感がないですよね。読書のほうが、より充実感が得られるコンテンツだと思います。

──戦慄さんご自身は、何を求めて本を読んでいると思いますか?

戦慄かなの:なんだろうな。たとえば、本で読んでいるルポルタージュの内容を文字にせずにYouTubeで説明している動画があっても、絶対に見ないですね。文字だからこそわかりやすく簡潔に読めて、いろんなことを深く知れる気がする。「そういうコンテンツって本以外にあるのかな?」と思ってしまうくらい。

──たしかに。

戦慄かなの:あと、ボーッとしてる時も大事って言いますけど、私はボーッとしていると何もやっていないという焦りや不安感を覚えることがあるんですよ。でも、本を読んでいると何かしらの有益な情報が頭に入ってきているから、何かをやっている気持ちになれる(笑)。そういう安心感みたいなものを受け取るために本を読んでいるところもあると思います。

──最後に、ソロとしての最新曲「LOVED ALL」についても聞かせてください。大森靖子さんが作詞作曲を手掛けていますが、大森さんの歌詞も、いろいろ考えたり想像したりする余白がありますよね。

戦慄かなの:そうですね。そういえば靖子ちゃんは本読むのかな? 靖子ちゃんの好きな本も知りたいですね。以前、朝井リョウさんがインタビューで「小説家になったら嫉妬する人は?」という質問で靖子ちゃんを挙げていて、「やっぱりすごいんだ!」と思ったことがあります。靖子ちゃんが小説を書いたらどうなるんだろう。斬新な言い回しやパンチラインが強いから、やっぱり歌詞の尺のほうが生きるのかもしれないけど。

ソロ名義の活動で靖子ちゃんに書き下ろしてもらうのは初めてなんです。私が作詞した悪魔のキッスの楽曲「カスタムラブドール」に出てくる「ラブドール」という単語から着想を得て、「ラブドール」の区切るところを変えたら「LOVED ALL」ーーすべての人を愛したという意味合いになるよねっていうところから広げて書いてくれて。靖子ちゃんからの愛情をすっごく感じました。

──戦慄さんの音楽活動は、ソロのほかに、ユニットのfemme fataleと悪魔のキッス、さらにZOCXへの加入などどんどん広がっていて。今後もいろいろなかたちで続けていく予定でしょうか?

戦慄かなの:いろいろ続けていきたいと思っています。アウトプットが増えたぶん、インプットが必要なので、引き続きたくさん本を読んでいきたいです。音楽もそうだし、コンテンツに触れている時間がインプットになり得るので、ちゃんとそういう時間を取らないといけないですね。まずは溜まっている本を読まないと(笑)。

──ご自身の影響で本を読んでもらえると嬉しいという話がありましたが、音楽でも、誰かに手を差し伸べるような活動をしたいという気持ちがありますか?

戦慄かなの:もちろんです。でも、自分が何をしたらいいのかわからないので、「何かできることがあれば」という気持ちですね。「LOVED ALL」もみんなに届いてくれたらいいなと思います。私と近い考えや悩みを持っている人にしかるべきタイミングで届くのはかなり奇跡に近い確率なので、少しでも届いてくれることを祈っています。

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