NOT WONKとASIAN KUNG-FU GENERATIONのツーマンライブが、3月15日に北海道・苫小牧市民会館で開催される。NOT WONKの地元にある苫小牧市民会館は、山下達郎が何度も訪れたことでも知られる、素晴らしい音響環境を備えた1968年開館の施設。長きにわたって地域住民に愛されてきたが、施設の老朽化に伴い3月31日をもって閉館することが決定している。今回のツーマンライブのタイトルは「NOT WONK presents “BEING THERE 9″」だが、実際は同施設の閉館を惜しむ2組の共催に近く、これが苫小牧市民会館における最後の公演となる。

NOT WONKの加藤修平とアジカンの後藤正文は、音楽面でも精神面でも長年共鳴し合ってきた同志。加藤は2024年から苫小牧市民会館を舞台とした“表現の交換市”「FAHDAY」をスタートさせ、後藤はこの春に静岡・藤枝市に音楽スタジオ「MUSIC inn Fujieda」をオープンさせる。後藤がソロで苫小牧を訪れたのは、2019年に開催されたNOT WONKの企画「YOUR NAME」。その際にかけられた後藤の「次は俺の街に来てよ」のひと声で、加藤は後藤のプライベートスタジオに足を運んでいる。コロナ禍だった2021年のことだ。当時「もう自分が行きたいところに行って、会いたい人に会いにいけばいいよね」と“個人”の話をしていた両者は今、互いの“地元”を背負い、多くの人を巻き込んだそれぞれの計画を動かし始めている。その目に映っているものは音楽か、それとも街や暮らしか、あるいは未来なのか。じっくり語り合ってもらった。


取材・文 / 石井恵梨子撮影 / 佐藤祐紀

公演情報
NOT WONK presents “BEING THERE 9”

2026年3月15日(日)北海道 苫小牧市民会館 大ホール

<出演者>

NOT WONK / ASIAN KUNG-FU GENERATION

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苫小牧市民会館の“響き”を残したかった

──今日は3月15日に苫小牧市民会館で行われるNOT WONKとASIAN KUNG-FU GENERATIONのツーマンライブについて伺います。競演の約束は以前からあったとか。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) うん。「FAHDAY」が始まった頃かな。市民会館は取り壊されることがすでに決まってたけど「ここをなくすのはやっぱりもったいないよね」という共通認識がまずあって。ホールもエントランスも素晴らしいんだけど、街のみんなが結婚式で使ってた小ホールがめっちゃいいんですよ。

加藤修平(NOT WONK) そうなんです。小ホールは結婚式を挙げたり、みんなでパーティをしたりする場所で。

後藤 昭和から続く苫小牧の素敵なバイブスを伝えてくれる施設だった。もちろん、耐震とか建築物としての問題をミュージシャン側からとやかく言うのは難しい。でも「何十億かけて新しい何かを建てるお金があるんだったら、耐震改修くらいできませんか?」って、告発とまではいかないけど「こんな素敵なホールを潰してどうするんだ」ということは言いたかった。それに、場所だけじゃなくて機会も奪われるよね。あのホールがなくなったら山下達郎が苫小牧に来ることはもうないかもしれない。それは本当にもったいないじゃないですか。

加藤 うん、ホントそう思いますよ。

加藤修平(NOT WONK)

加藤修平(NOT WONK)

──動機としては、壊さないでくれという、怒りに近い感覚ですか?

後藤 どうだろう? ただ、この素晴らしいホールの音を保存したいという思いはまずあった。大阪の味園ユニバースが潰れるとき(参照:味園ユニバースがついに幕を閉じる、最後を飾るのはFINALBY ( ))、もっと言えば新宿にあったスタジオグリーンバードが潰れるときも、エンジニアたちがインパルス・レスポンスの技術を使って空間の音を保存していたんですよ。建築の音響的保存──その場所がどんな響きであったかを収録して残しておく。そういう動きに僕も参加し始めた時期だったから(参照:スタジオグリーンバードの軌跡をたどるサイトでオカモトショウ、Gotchらコメント)、加藤くんと「そういうことをやれたらいいよね」って話はしてたよね。

加藤 後藤さんが最初の「FAHDAY」直前に苫小牧市民会館に下見に来てくれたんですよね(※後藤は初年度の「FAHDAY」で立体音響の展示を行なった)。一緒に会場を回って「うわ、ここで一緒にやりたいね」「やりましょうよ」って。そこから話が決まるのは早かったです。WESSの方やアジカンの制作チームに相談したら、みんなすぐ乗り気になってくれた。

立体音響展示のテストを行う後藤。

立体音響展示のテストを行う後藤。

後藤 そう。でも苫小牧1発だけじゃ、さすがにスタッフチームの旅費までは出ないから。それでまずは1回札幌PENNY LANEでライブをやろうと、謎のタイミングでワンマンもやることになって。

加藤 ……アジカンが動くことの只事じゃなさ(笑)。

後藤 そんなことないけどね(笑)。でも自分が所属している組織としてはアジカンが一番大きいからさ。僕が1人で行ってポロンとアコギを弾くんじゃなくて、自分の中での最大出力で「この劇場がなくなるのは惜しい!」って世に伝えたかった。それに、メンバーやスタッフにも会場を見てほしかったのもある。やっぱりアジカンで動くときは、僕も心にスーツを着る感覚があるんですよ。自分1人だとどうでもいい格好になっちゃうけど、ちゃんとアジカンとして動くのは、加藤くんへのリスペクト、苫小牧へのリスペクトでもあって。「俺のフルスイングで行きます」っていうことだと思う。

加藤 うれしいです。後藤さんが1人で動くときとはカロリーが違うことは、僕なりにわかってるつもりなので。

ミュージシャン=吟遊詩人の役割は?

加藤 僕自身もホール自体がなくなっちゃマズい、市民会館がなくなるのは惜しいと考えているけど、これって市内の人には伝わりづらいんですよ。違う視点で考えれば、古いものが新しくなることに対する喜びもあるだろうし。苫小牧市民会館の音響の素晴らしさを十分に理解してる人がどれくらいいるんだろうと考えると、たぶんほとんどは「子供の吹奏楽の発表で苫小牧市民会館に行った」とか、そういう記憶のほうが強いと思う。

後藤 ああ、そうだよね。

加藤 その思い出と、客観的に見たホールの素晴らしさは別ものですよね。で、僕はたぶん……苫小牧市民の中ではわりと音楽に精通しているほうだと思うので。

後藤 ははははは! そうだよ。

加藤 いち苫小牧市民としても「いや、このホールなくなるのヤバくない?」って思うから、街中で口酸っぱく言うんですよ。でもあんまり伝わらない。だから「FAHDAY」を着想したときにも感じたんですが、私たちの街や暮らし自体を1回客体化する必要があるというか、市外の人たちに私たちの街や暮らしがどう見えているか伝えてもらわないといけないと思ったんですね。人から言われて初めて気付くこともある。後藤さんがアジカンとして苫小牧に来て、「このホールもったいないよ」って言ってくれるのは限りなくそれに近いことだと思います。

後藤 これは藤枝の人にも言われたけど、地元のどこが面白いかって、その街に住んでいると気付けなかったりするんだよね。加藤くんが言うように、よそから来た人たちのほうが見つけやすいかもしれない。そういう意味で俺たちミュージシャンは、日本中とか世界中を旅して音楽を残していく吟遊詩人の末裔なわけで。

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

──言葉や歌で何かを伝承していく役割だと。

後藤 うん。通りがかった人、パッセンジャーとしての役割があると思う。それで言うと加藤くんは、苫小牧に住んでいながらその役割を担ってるんだよ。

加藤 でも、「いるのかいないのかわかんない」ってよく言われますね。住んでいると言いきれない、少しフラフラした生活の仕方をしているので。でも、だからこそ立体的な視点を持てると思うんです。捨てられたものを拾ってもう1回磨いてあげるとか、なんの気なしに新しい道を見つけていくとか。それはなるべくサラッと、大変な顔をしないでやるべきだなと思ってます。もちろん市民会館は取り壊しが決まってるからもう手遅れですけど、“次の50年”があるから。僕が今年新しくできるホールの解体を見届けるまであと50年あって、これからの50年で何ができるんだろうと考えているんですよね。

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