[登壇者]
メディアビジョンラボ 代表 奥 律哉氏
青山学院大学 総合文化政策学部 教授 内山 隆氏
関西テレビ放送株式会社 コンテンツビジネス局 担当局長 竹内 伸幸氏
株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニット 新規ビジネス開発グループ シニアプロデューサー 松岡 逸美
※登壇者の所属・役職はイベント開催当時のものです。

2025年11月に幕張メッセで開催された日本最大級のメディア総合イベント「Inter BEE 2025」。会期中、さまざまなイベントが行われる中で、テレビメディアの現在・未来を紐解くトークセッション「一周まわってテレビ~コンテンツ価値創造の現在地と未来」が行われました。「テレビの力が弱まっている」と言われる中、コンテンツ価値をどう再創造し、グローバルな未来へ向かうべきか、産学の専門家が語り合ったその内容・ポイントなどをレポートします。

テレビの在り方が大きく変わり、よりグローバルな戦いへ

セッションの冒頭、まずはメディアビジョンラボの奥氏が、「テレビとはなにか」という根本的な問いかけから口火を切りました。

奥氏は、「かつて『テレビ』といえば、それは『テレビ番組』であり、『放送局』であり、『受像機』そのものを指していた。しかし現代では、テレビ番組は『動画コンテンツ』に、放送局は『プラットフォーム』に、受像機はチューナーレステレビ・スマホ・PCなどに置き換わっている」と定義の変化を指摘しました。

続いて、あらゆるデバイス上での動画配信プラットフォームの利用を測定し、視聴行動を把握できるビデオリサーチのサービス「STREAMO(ストリーモ)」のデータを示しながら、生活者の視聴実態を解説。「自宅内でのテレビデバイスの平均視聴・利用分数のデータを見ると、世代によって多少割合は異なるものの、どの世代もリアルタイム視聴、タイムシフト視聴、動画利用(CTV)を幅広く行っていることがわかる」とし、自宅リビングにおけるテレビの在り方が確実に変容していることを示しました。

さらに、「テレビだけでなくスマホやPCなど、各個人が思い思いのデバイスで異なる動画コンテンツを楽しんでいる状況」に触れ、「情報空間の在り方そのものが大きく変わってきている。今、私たちには、放送コンテンツ、ジャーナリズム、そしてコンテンツビジネスをどう考えるかという問いが突きつけられている」と警鐘を鳴らしました。

このパートの締めくくりとして、奥氏は「国内キー局が汽水湖で魚を釣り上げている」風刺画風のイラストをスクリーンに投影しました。「これまでは国内の放送局が、国内の視聴者を奪い合う構図だった。しかしよく見ると、この汽水湖はインターネットという川を通じて『大海』につながっている。大海の先には強大なプラットフォーマー、より多くのコンテンツ、そしてより多くの視聴者がいる。それが現在の状況だ」と説明。インパクトのあるこのイラストと言葉により、日本のテレビ業界がもはや国内だけの競争ではなく、グローバルな大海原での戦いに直面していることを会場に投げかけました。

広告収益モデルから脱却し、DTCにシフトする!コンテンツ戦略の必然性

続くパートでは、青山学院大学の内山教授が「コンテンツ戦略の必然性」をテーマに、ビジネスモデルの変革について語りました。

内山教授は冒頭、「業界の危機感を煽る話をする」と前置きし、「映像の世界は60年のライフサイクルで動いている」という持論を展開。映画からテレビへ、そしてテレビからインターネットへと主役が移り変わってきた歴史に触れました。特にNetflixの急成長については、「2010年頃は存在感が薄かったNetflixが、気付けば見上げるような巨大な存在になった。分水嶺は、インターネットで4Kや8Kの高精細データが何の苦もなく送れるようになった時点。ここで『電波でなくても、テレビでなくてもよい』時代に入った」と分析。「今はまさに入れ替わりの時代であり、レガシーメディアとしてどう戦うかが問われている」と、これまでの60年間のビジネスモデルからの脱却を訴えました。

■アメリカにおけるDTCシフトと広告モデルの限界
内山教授は、動画配信先進国であるアメリカの事例を挙げ、以下の現状を解説しました。

動画配信プラットフォーマーの台頭により、CATVのシェアが大きく削られた。
テレビ局・プラットフォーマー共に広告収入はほぼ横ばい状態。
ディズニー、ワーナー、コムキャストなど、名だたる企業でDTC(Direct to Consumer)モデルが伸長。

「各社ともあらゆる対策を行っているが、広告収入の横ばいを維持するのがやっと。広告モデルの限界が見えてきているからこそ、DTCへのシフトや、魅力的なコンテンツを持つ企業を傘下に収める『メジャー再編』の動きが活発化している。テレビが王様だった60年は終わったと言わざるを得ない」と、内山教授は厳しい現実を指摘しました。さらに、Amazonなどのプラットフォーマーがデジタル広告市場に参入したことで広告単価の値崩れが起きており、放送広告市場の値下がりも避けられないとの見解を示しました。

■世界と日本の制作費格差
続いて話題は「番組制作予算」へ。内山教授はフランスの番組制作費データを提示し、会場に衝撃を与えました。「フランスでのドラマ1時間あたりの製作費は、日本円で約1億8,700万円。プライム帯になると約2億5,000万円に跳ね上がる。アニメであっても1時間・1億6,000万円。日本の製作費とは大きな格差がある」と内山教授。この背景には、フランスでは放送局の持ち出しだけでなく、プロデューサーが集めた資金や政府の補助金など、多様な資金源があることを説明しました。

一方で、世界的な投資状況については変化も見られるといいます。「Netflixなどのネット専業プレイヤーも、コロナ禍を境に番組制作費が減少傾向にあり、投資額は頭打ちになっている。その結果、新作本数が減り、他社からのライセンス購入作品が増えている」と解説。しかし、制作予算が減る中で、エミー賞などのショーレース上位にネット専業プレイヤーのオリジナル作品が増えていることに触れ、「量は追わず、質で勝負をかけるようになってきた」と、競争の質が変化していることを強調しました。

ローカル局の立場で向き合う、コンテンツビジネス戦略

内山教授の指摘する「ビジネスモデルの転換」や「制作費の格差」を受け、関西テレビの竹内氏からは「ローカル局の立場で、コンテンツビジネスにどう向き合うか」について語られました。

■キー局と総務省の動き
竹内氏はまず、「総務省やキー局がコンテンツビジネスに軸を移す流れは明確だ」とし、各キー局の具体的な投資計画を紹介しました。

日本テレビホールディングス:2033年度までにコンテンツビジネスの売上比率を全体の40%以上に引き上げる目標。
フジ・メディア・ホールディングス:成長分野に2,500億円を投資予定。特にアニメには1,250億円を投じる。
TBSホールディングス:放送事業以外の拡大を目指し、コンテンツIP企画やグローバル展開などの成長分野に1,600億円を投資。

また、総務省によるバックアップ体制も強化されていることを説明。「放送コンテンツの海外展開支援事業における補助金上限額が4,000万円から2億円へ引き上げられたこと」「製作期間が単年度から3年に延長されたこと」など、より実践的な支援へアップグレードされている現状が共有されました。

■ローカル局が生き残るための「連携」
竹内氏は、総務省の「放送・配信コンテンツ産業戦略検討チーム」にローカル局の代表として参加した経験を踏まえ、議論の取りまとめ内容について言及しました。「取りまとめには、地域放送の重要性を踏まえたローカル局の経営基盤強化や、息の長い支援の必要性が記載されている。私たちの課題を代弁してくれていると感じた」と評価。

その上で、ローカル局の戦略について、「新しい仕組みやサービスを開発するのは、やはりキー局でないと難しい面がある。そこはキー局に任せ、総務省に官民連携などの仲立ちをしてもらいながら、キー局とローカル局がひとつになって日本のコンテンツ産業の底上げを図っていきたい」と述べました。また、権利処理の重要性や人材への投資、内製化の推進などにも触れ、「売り手だけでなく、作り手がコンテンツの成長を考えることが大切だ」と訴えました。

国産コンテンツの可能性を考えるクロストーク

セッションの後半では、ビデオリサーチの松岡も加わり、「映像配信プラットフォームの視聴データから読み解く、国産コンテンツの現状と産業成長戦略の次の一手は?」をテーマにクロストークが行われました。ここでは、動画配信プラットフォーム上でのコンテンツ視聴状況を国別・作品別に計測する、ビデオリサーチの分析サービス「SoDA(ソーダ)」のデータが活用されました。

■データから見る市場の現実と課題
まず投影されたのは、Netflixにおける再生分数の推移データです。2021年から2024年にかけてほぼ横ばいであること、国別に好まれる作品傾向が異なることなどが示されました。

このデータを受け、竹内氏は「国内でドラマを売る立場として、国内動画配信市場が今後どれだけ成長するのかが気になる」と発言。「グローバル市場を目指すには多額の投資が必要だが、供給過多になればプラットフォーマーの買い付け意欲が減退し、予測ほど市場が拡大しない可能性もある。プラットフォーマー以外の収入源、例えば海外ファンドのようなルートを開拓することが必要だ」と、新たな資金調達の必要性を指摘しました。内山教授も、「プラットフォーム上での動画探索時間は世界平均で14分かかると言われており、コンテンツの生き残りは難しい。だからこそ強いIPが独り勝ちする状況になりつつある。質を上げる方向で立ち向かわなければいけない」と、「質」の重要性を再確認しました。

国別 日本産アニメ/アニメ以外作品 再生分数シェアの推移 2021年→2024年で主にドラマなどのシェアが伸びている傾向

■「放送局由来」コンテンツの底力
続いて、日本国内におけるSVOD視聴回数ランキングなどのデータから、以下のようなポイントが紹介されました。

プラットフォーマーのオリジナル作品と、放送局由来の作品が半々程度の割合で上位にランクインしている。
NetflixとPrime Videoにおける「放送局由来作品」の割合は4~5割を占めており、依然として人気が高い。
人気アニメの過去シリーズや、アニメ以外の旧作ドラマも視聴されており、旧作品(カタログタイトル)も競争の土俵に上がってきている。

これらのデータは、放送局が保有するライブラリーの価値と、視聴者の選択肢の広がりを裏付ける結果となりました。

おわりに:レガシーを武器に、道を切り拓く

全4パートにわたる濃密なセッションの締めくくりとして、登壇者からメッセージが送られました。
内山教授は、「放送局が日本の映像コンテンツの最大絶対供給者であることは間違いない。そのレガシーを生き残らせるために、ビジネスモデルを変えていかなければならない」と力強く語りました。これを受け竹内氏は、「コンテンツビジネスを推進するには、量と質の両方が必要。127局ある放送局が一丸となって取り組めば、何かが変わるはず。力がある放送局がまず道を切り拓き、そこにローカル局も参集し、戦える道筋をつくっていきたい」と現場の決意を言葉にしました。最後にビデオリサーチの松岡が、「国内テレビ局がグローバルで戦う際、海外の視聴者の動きを見るデータが役立つはず。私たちはデータの側面からテレビ局を支え、一緒に未来を考えていきたい」と結び、1時間半に及ぶセッションは幕を閉じました。

ビデオリサーチでは、今後もテレビメディアの価値創造やグローバル展開に寄与するデータソリューションの提供を通じて、業界の発展に貢献してまいります。

※記事内のデータ・発言内容はイベント開催時点のものです。

左から メディアポジション代表 奥律哉氏 株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニット 新規ビジネス開発グループ シニアプロデューサー 松岡逸美 関西テレビ放送株式会社 コンテンツビジネス局 担当局長 竹内伸幸氏 青山学院大学 総合文化政策学部 教授 内山隆氏

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