メイソンがダブルバインドを解消しようとしているとすれば、それは権力と好感度のあいだの緊張関係というより、むしろ商業分野におけるジレンマに近い。すなわち、女性消費者の欲望を煽りながら、同時に自尊心にも訴えかけるという構図だ。

『Powerfully Likeable』は、市場の論理を仕事の場面にもち込み、女性が自らをブランド化したコミュニケーションスタイルを示す場として職場を再構想する。その主張は、労働基準が低すぎるという批判ではなく、「職場がわたしたちの本質的な“らしさ”を理解すれば、もっと公正になるはずだ」というものだ。

『Lean In』がフェミニズムに与えたもの

ホワイトカラーの職場を女性の自己創造の場として捉える発想は、メイソンが初めて示したものではない。『Powerfully Likeable』の系譜上で最も明確な先行例は、元フェイスブック幹部シェリル・サンドバーグが13年に刊行した著書で、同様に社会科学の知見と自身の個人的エピソードを織り交ぜた『LEAN IN(リーン・イン)女性、仕事、リーダーへの意欲』だ。

サンドバーグがポップフェミニズムにもたらした最大の貢献は、自信や野心の欠如によって成功を妨げられている女性たちのあり方を変えることで、職場の問題は解消できる、という考え方だった。同書は、女性社員がトップに到達するのを阻む「組織内の障害」を取り除くための指南書であると同時に、職場における性差別の実態を、意図せずして鮮やかに描き出してもいる。

メイソンと同様、サンドバーグもまた、リーダーシップと好感度という女性特有のトレードオフに関心を寄せていたが、彼女の本そのものが、その構造を反復していた。サンドバーグは読者を鼓舞するスローガンを掲げた(手を挙げよ、議論に参加せよ、辞める前から身を引くな)。

その一方で、配慮の重要性も強調した。社内での交渉を円滑に進めるために、「I」ではなく「We」という代名詞を使うこと、「感謝」や「気遣い」を示すことを女性たちに勧めたのだ。そのメッセージは暗黙的ではあったが、きわめて力強かった──女性たちよ、自分のキャリアを主体的に歩み出すときだ、と。

この本は一部の界隈で正典のように祭り上げられた。1年以上にわたって『The New York Times』のベストセラーリストに留まり続け、数百回に及ぶ「Lean In」勉強会では女性たちが「ピアメンタリング」を実践し、昇給を会社に求めるよう互いに励まし合った。

一方で、サンドバーグに批判的な人々は、彼女のビジョンはありきたりで、しかも腹立たしいほど限定的だと指摘した。ハーバード大学を卒業し、ラリー・サマーズに師事した経験をもつ彼女は、超トップ層で成功した人物であり、非白人や低所得層の女性が直面する困難には無自覚に見えたのだ(『LEAN IN』刊行後まもなく、サンドバーグは世界で最も若い女性ビリオネアのひとりとなった)。

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女性の野心が変革をもたらす力を讃える賛歌であるにしては、『LEAN IN』は奇妙なほど野心に乏しい、と批評家たちは言った。その控えめな目標は、タイトルに込められた動作そのものに集約されている[編註:lean in=体を傾け身を乗り出し、突っ込んでいく]。つまり、これは職場に革命を起こす試みではなく、女性の働き方の「角度」を調整する試みにすぎない、というわけだ。

いま振り返ると、この本はつかのまの楽観主義の時代の産物だったように思える。その時代、フェミニズムはメインストリーム化し──14年のMTVビデオミュージックアワードで、ビヨンセが「FEMINIST」という文字を映し出したスクリーンの前でパフォーマンスした場面を思い出してほしい──、その結果、フェミニズムという概念そのものが希薄化しただけでなく、自由市場のために利用されるようにもなった。

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