直島翔さん原作、松山ケンイチさん主演でドラマ化された「テミスの不確かな法廷」。発達障害を抱えた裁判官が、自らの特性と格闘しながら様々な事件に挑む法廷ヒューマンドラマです。ドラマの脚本を手がける浜田秀哉さんと演出を担当する吉川久岳さんによる対談が実現しました。小説を映像化するときに大切にしたこととは? ドラマの魅力と製作の裏側を伺いました。

文/タカザワケンジ

NHKドラマ10「テミスの不確かな法廷」脚本 浜田秀哉 × 演出 吉川久岳 特別対談

出発点は「普通ってなんだろう」

――直島翔さんの原作を映像化するにあたり、どうお考えになったかを教えてください。

浜田:お話をいただいたのは2024年の7月です。魅力的な原作でいいドラマになるだろうなという予感がしました。ただ、原作は連作短編集なので、その時にはまだ3編しかお話がなかったんですよね。連続ドラマの場合、キャラクターごとのエピソードが必要で、なおかつその1個1個のエピソードと全体を貫く軸が必要なので、それをつくるまでにかなり時間がかかりそうだとも思いました。実際、お話をいただいてからドラマのオンエアーまで一年半かかりましたから。

吉川:原作はASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)の特性を持つ安堂という主人公の内面で何が起きてるかをすごく丁寧に描写されていて、知らなかった世界を知ることができてすごく面白かったです。
 ミステリとしても、1つ1つロジックを積み重ねるというよりも、ある瞬間にポンと飛躍があって独特のカタルシスを感じました。すごく面白いと思うと同時に映像化するのは至難の技なんじゃないかとも思いましたね。彼の内面で起きていることをどう表現するか。文章では成立していることを、どうやったら映像で伝えられるのかなと。

浜田:原作ものの難しさというか、大変さがあるんですよね。脚本家さんによっても違うと思うんですが、僕の場合は完全オリジナル作品は気が楽な部分があるんです。0から1にする大変さはありますが、自己責任なので。でも、原作がある場合は、原作者さんが生み出したお子さんを預かることになるので、育てる責任と、世に出して視聴者に面白く観てもらう責任があるんですよ。

吉川:浜田さんや制作統括の神林(伸太郎)さん、橋立(聖史)さんたちチームのみんなと長時間、打ち合わせをしましたよね。直島さんの原作小説にはいろんなテーマが内包されてると思うんですが、ドラマ化するにあたって、何を中心にするかを決めるのがまず重要でした。
 一昨年の年末だったと思いますけど、最初に集まった時に、浜田さんが「これってたぶん『普通ってなんだろう』っていうことなんだと思う」とおっしゃられて「なるほど」と腑に落ちたんです。「普通」という我々が当たり前に使ってる言葉を問い直す。安堂がどういう世界を見ていて、どんなふうに生きづらさを感じているのか。それってたぶん、いろんな人が感じてる生きづらさに通ずるものでもあるんじゃないかと。浜田さんが最初におっしゃってくださった、シンプルだけど力強い問いをチーム全員で考え続けた一年間だったように思います。

おかしみや哀しみ、可愛らしさのある安堂

浜田:打ち合わせは本当に長かったですよね。午後1時から始まって、終わったのが9時、みたいな(笑)。喋りすぎて最後は声が枯れてしまったくらい。それも何度も。

吉川:そうでしたね。いろいろなアイディア、方向性を話し合ううちに、紆余曲折あったんですが、最終的に「やっぱり安堂という特性を持った裁判官が最大の魅力であり、強みである。そこにちゃんとフォーカスしていこう」という結論になりました。
 事件ものとしても楽しめる要素もありますが、それだけではなく、キャラクターが立つような人間ドラマにしていこうと。さんざん話し合った末に原作にも書かれていた原点に戻った感じでしたね。でもやっぱりさんざん迷ったからこそ、そこから先はブレることなく進めました。

――安堂という人物を映像化する上で考えられたのはどんなことですか。

浜田:脚本を書きながら意識していたのは、水面に物がゆっくり落ちていって、その周りに波紋がさーっと広がっていくイメージです。安堂自身は周囲の人を変えようとは思っていないんですが、だんだんとほかの人たちの「普通」が揺らいでいく。そして、その時におかしみが出るといいなと思いました。人を笑わせようとするおかしみではなく、一生懸命がんばっているからこそ出てくるおかしみ。それって少し哀しくもあるんですよね。それが周りの人たちにも広がっていくといいんじゃないかと。

吉川:安堂を演じる主演の松山ケンイチさんと話していたのは「我々は安堂の特性を描くのではなく、あくまで安堂という1人の人間を描くんだ」ということでした。そして、「普通ってなんだろう」という疑問から始まって、最終的には、迷うことを肯定したい。生きづらさを感じつつも、一生懸命でまっすぐに歩こうとする安堂に、おかしみや哀しみ、そして可愛らしさを感じていただけたら嬉しいですね。視聴者のみなさんが安堂というキャラクターを好きになってくれるといいなと思います。

ドラマ情報

ドラマ10「テミスの不確かな法廷」
2026年1月6日(火)放送開始(全8話)
NHK総合 毎週火曜 夜10:00~
※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信中

出演:
松山ケンイチ  鳴海唯 恒松祐里 山崎樹範
市川実日子/和久井映見 遠藤憲一 ほか
脚本:浜田秀哉
音楽:jizue
演出:吉川久岳(ランプ)、山下和徳、相良健一、富澤昭文
制作統括: 橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
公式HP:
https://www.nhk.jp/g/ts/32VWPKM6NX/

*最新話はNHK ONE・過去回はNHKオンデマンドとAmazon Prime Videoで配信中。

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書名:テミスの不確かな法廷
著者:直島 翔
発売日:2025年11月25日

Y地裁に赴任して半年、副市長が襲われた傷害事件を担当することになった裁判官の安堂清春は、弁護士の小野崎から被告人が無言を貫いていると聞き、何かを隠しているのではないかと気づくが……。微笑みながら殺人を告白する教師、娘は殺されたと主張する父親。生きづらさを抱えた青年が様々な事件に挑む、異色の青春リーガルミステリ!

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発達障害の特性に悩みながら日々裁判に向き合う安堂は、7千万円を盗み起訴された女性銀行員が囁いた一言、飼い犬殺害事件に潜むかすかな違和感などから、事件の真相を明らかにしていく。そんな中に現れた、殺人の濡れ衣を着せられたと訴える男。その再審裁判で証人として出廷したのは、検察ナンバー3の地位にいる安堂の父だった……。衝撃と感涙のラストが待ち受ける法廷ミステリ!

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著者プロフィール

直島 翔(なおしま・しょう)
1964年、宮崎県生まれ。立教大学社会学部卒業。新聞社勤務。社会部時代、検察庁など司法を担当し、『転がる検事に苔むさず』で第3回警察小説大賞を受賞し作家デビュー。その他の著書に『恋する検事はわきまえない』『警察医のコード』がある。

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