/芸人(吉本興業所属)、映画監督 ゆりやんレトリィバァさん(文学部 総合人文学科 映像文化専修 2013年卒業)
関西大学では私らしく生きることができた──。そう晴れやかな表情で語るのは、2026年2月6日(金)公開予定の映画『禍禍女(まがまがおんな)』で初監督を務めた、卒業生のゆりやんレトリィバァさん。自身の恋愛経験を「ホラー」として昇華させた本作は、台北金馬映画祭(台湾)で日本人監督初となる「NETPAC賞」を受賞したほか、イタリアのモンスターズ・ファンタステック映画祭で最優秀作品賞に輝くなど、海外の映画祭で「4冠」を達成。日本での公開を前に、大きな反響を呼んでいる。唯一無二の芸風を築き上げたゆりやんレトリィバァさんの「表現」の原点には、関西大学での「出会い」がある。映画製作に込めた思いと、学生時代の思い出、今後の夢についてじっくりと話を聞いた。

ゆりやんレトリィバァ 初映画監督作品『禍禍女』 2026年2月6日(金)全国公開
好きになられたら、死ぬまで逃れられない──。執拗に男に付きまとう「禍禍女」の正体とは?ゆりやん監督自身の恋愛体験に基づいたという、妄想と狂気が交錯する混沌(カオス)が描かれた唯一無二のオリジナル映画。
南沙良が主演を務め、ある男性に思いを寄せる美大生・上原早苗を演じる。共演には、前田旺志郎、アオイヤマダ、髙石あかり、九条ジョー、鈴木福、前原瑞樹、平田敦子、平原テツ、斎藤工、田中麗奈ら豪華キャストがそろった。
監督 ゆりやんレトリィバァ
脚本 内藤瑛亮 音楽 yonkey
企画・配給 K2 Pictures
「恋バナ」が「ホラー」映画に
──映画『禍禍女』を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。
2021年頃に出演したテレビ番組で「次にやりたいことは何ですか?」と聞かれた時、「映画が好きなので、映画監督をやりたいです」と生意気なこと言いました。後に『禍禍女』のプロデューサーになる高橋大典さんが、たまたまその番組を見ていて。その日のうちに吉本興業に連絡をくださいました。
それから高橋さんと頻繁に会って、どんな映画を製作するか話し合ったのですが、私が熱を持ってしゃべれることといったら、恋バナ(恋愛の話)。なので、高橋さんに会うたびに、ずっと「恋バナ」をしていました。「こんなことがあって……」と過去の恋愛経験を話していたら、高橋さんが「それ、ホラーですね」と。「ホラー恋愛映画を作りましょう」ということになりました。
──完成した『禍禍女』を初めて見た時、どう思われましたか?
準備から撮影、編集、仕上げまで毎日現場で見ていたので、「こうなるんだ」という驚きより、「ついにできた」という思いでした。完成した作品を大きなスクリーンで見せてもらって、最後に自分の名前が「監督」とエンドロールに出た時にはやはり感動しましたね。

ただでは終わらせたくない
──「禍禍しい」は、辞書では「悪いことが起こりそう」という意味です。映画『禍禍女』には、ゆりやんさんの恋愛経験も反映されているのでしょうか?
高校生の時に好きな先輩がいました。そのA先輩は、いつも男子3人組で行動していて、B先輩、C先輩と一緒にいました。私は「A先輩、A先輩!」と追いかけたけれど、振り向いてもらえなかったから、次に一緒にいたB先輩のことを好きになりました。そしたら、C先輩が「次は俺のことを好きになるんじゃないか」って、勝手に怖がっていました。
「ゆりやんに、好きになられたら終わり」と思われて、「勝手に怖がられていた」という私の経験が『禍禍女』のベースです。あと、私が好きな人に言われてきた言葉も、登場人物のセリフに入れています。主人公の上原早苗(演:南沙良)が、「好き」という気持ちをアピールする方法が分からず、とにかく「好き」と言うことが愛情表現だと思っているところにも、自分の経験を乗せています。
ドラマ『極悪女王』で共演した斎藤工さんにも霊媒師役で『禍禍女』に出演していただきましたが、私がプライベートで工さんに勝手に興味を持っていて……。でも、私には全く興味を持ってくれなかったから、映画に出ていただいて、復讐というか、映画の中で痛い目に遭ってもらいました(笑)
『禍禍女』は、「私の恋愛を詰め込んだホラー映画」です。恋愛は2人でするものなので、よく考えたら私の経験は恋愛というよりただの恋、片思いばかりですね。でも、ただでは終わりにしたくない、それが原動力となって映画に昇華させることができました。

主人公・上原早苗(演:南沙良)/©2026 K2P
自分の意見を「研ぎ澄ます」
──映画を製作する過程で、印象に残っていることはありますか?
映画のプロフェッショナルが集まる現場で、自分の意見を遠慮せず伝えるということには、勇気が必要でした。最初から自分の我を通すのではなく、皆の意見をまずはしっかり吸収する。その上で「自分がどう表現したいか」を伝えるという過程を大切にしていました。また、自分自身が何を求めているのか、深く考え続けました。「自分は何が好きか」「自分って何者なのか」という問いを突き詰めて、自分の感性を研ぎ澄ます期間にもなりましたね。

映画撮影のメイキングカット
──『禍禍女』で思い入れのあるシーンを教えてください。
鈴木福さんに高校生役で出演していただいた、冒頭のシーンです。私はホラー映画『学校の怪談』が好きで、子供の頃に映画館で見た思い出が、大人になった今も心に残っています。そういう経験から、『禍禍女』も「怪談」っぽいスタートにして、次世代の方の心に残る映画にしたいなと思いました。
あとは、早苗の部屋にある増村宏(演:前田旺志郎)の大きな顔のオブジェが映るシーンです。ミュージカルのようなシーンが終わった後に、どんなシーンを続けるか。行き詰まった時にひらめいたアイデアを現場で口にしたら、「それだ!」となって。苦し紛れのアイデアだったんですけど、自分らしい表現でお気に入りのシーンです。

映画『禍禍女』シーンカット©2026 K2P
好きな人に振り向いてもらいたい
──ゆりやんさんが関大に進学したきっかけを教えてください。
好きな人に振り向いてもらいたいとか、好きな人の目に留まりたいとか──。私は、「好きな人にすごいと思ってもらいたい」という気持ちが原動力になるタイプです。その原動力で勉強を頑張って、関大に入学することができました。
高校時代に1学年下の野球部員のことを好きになったんですが、振り向いてもらえなくて。夏休み中もずっと野球部の練習が見える外のベンチで、勉強をしている「ふり」をして眺めていたんです。でも、夏休みが終わったら別の子と付き合っていることを知って。「私の夏休み、何やったん?」という思いが込み上げてきました。それで「じゃあ大学に行って、その彼にすごい、賢いと思ってもらおう!」と勉強を頑張りました。
芸人を目指していたので、もともと大学に行くつもりはなかったんです。だから、その子に恋したおかげで勉強を頑張り、関大に入学することができたので、今では感謝しています。

映像文化専修のゼミでの出会い
──関大時代の学びで、今の活動に影響したことはありますか?
全部影響しています!関大に行っていなかったら、『禍禍女』は生まれていません。高校を卒業してすぐに芸人にならずに、関大で学生生活を過ごすことができて本当に良かったと思っています。
当時から芸人になるつもりだったので、「大学では好きなことを勉強したい」と考えていました。ちょうど外国語学部が開設された年で迷ったのですが、文学部に映像文化専修があって「授業でも映画をめっちゃ見ることができる」と聞いて選びました。今では、ビジネスを学ぶことができる経済学部か商学部にも興味がありますね。
映像文化専修の堀潤之先生のゼミでは、幅広いジャンルの映画に触れることができました。「金曜ロードショー」で放映されるような有名な映画はよく見ていたんですけど、今まで知らなかった映画とも数多く出会うことができ、「こんな作品もあるんだ」という発見を重ねる中で、自分が好きな映画・ジャンルにもたどり着きました。
ゼミ・授業以外でも、奈良の実家から片道3時間かけて通っていたので、往復の電車では、ポータブルプレイヤーでひたすら映画を見ていました。
また、関大で出会った友達の影響で芸風、「今の自分」が形成されています。関大では、帰国子女や留学経験のある友達がたくさんできて、英語と触れ合う機会が多かったからです。また、ストリートダンスサークル「Soul Beat Crew」にも入っていたのですが、皆「ゆりやん、ゆりやん」と声を掛けてくれて優しくて。良い仲間に出会うことができ、関大では自分が認められていると前向きになれましたね。きれいで広いキャンパスで、私らしく生きることができた環境でした。

関大生時代のゆりやんレトリィバァさん
──『禍禍女』は、アメリカ最⼤規模のジャンル映画祭「Beyond Fest」に正式出品されるなど、多くの海外映画祭へ参加しています。また、台北金馬映画祭で日本人監督初となる「NETPAC賞」を受賞するなど、海外の映画祭で4 冠を達成しました。
世界を回る中で、憧れの監督に会うことができたり、ハリウッドの歴史的映画館「グローマンズ・エジプシャン・シアター」でワールドプレミア(世界初公開)をさせてもらったり。冷静に考えたら、すごいことになっています。人ごとに思えるほど、びっくりしています。
『禍禍女』は、私が監督をしましたが、皆が作ってくれた映画です。皆の個性を信じて、そのアイデンティティをしっかり形にしたことが、私たちだけの、どこにもない、唯一無二の表現につながったのではないかと思います。誰かになろうとしていないところが、良かったのかもしれません。
台北金馬映画祭(台湾)での写真
関大卒業生とつくる新しい世界
──今後の目標を聞かせてください。
肩書きを増やしたいです。何かの選手とか教授とか……関西大学の客員教授にもなりたいです(笑)。教壇の上に立ってみたいですね。『禍禍女』のPRイベントで、「禍禍CAR」というピンク色の選挙風の街宣車を作って全国を回ったのですが、車の台の上に登って、「どうやったら両思いになるのでしょう!?どうですか、皆さん!」と演説させてもらったことが楽しくて。目標は、七変化の能力を持つキューティーハニーになることです(笑)

──関西大学出身の芸人さんも多いですよね。最後に、関西大学の後輩たちにメッセージをお願いします。
やはり桂文枝師匠が関大在学中に、「落語大学」(落語研究会)を作られたことが大きいのではないでしょうか。卒業してからも、関大の卒業生と出会う機会が多いんです。芸人ではジャルジャルさんをはじめ、同じ業界(芸能界)の人も多いですし、違う業界の人とも、同じ関大出身だと分かると話が弾みます。関大卒業生や在学生の方たちと、また新しい世界を作っていけることを楽しみにしています。
関大は勢いがあって、卒業した今でも、私の中では一番イケてる大学です。関大の卒業生であることを、本当に誇りに思っています!


ゆりやんレトリィバァ(吉田有里)
1990年奈良県生まれ。奈良県立高田高等学校、2013年関西大学文学部映像文化専修卒業。大学在学中に吉本総合芸能学院(NSC)の35期生として入学。「NSC大ライブ2013」で優勝し、首席で卒業。2017年、女芸人No.1決定戦「THE W」第1回大会で優勝。2019年にはアメリカのオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」に挑戦し、注目を集める。2021年、R-1グランプリ優勝。Netflixドラマ『極悪女王』で主演を務めるなど、女優としても活躍の場を広げ、その他にもアーティスト活動や、トレーニングウェア「YURYUR(ユーユー)」のディレクションなど幅広く活躍中。2024年に活動拠点をアメリカに移す。
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