
ビジネス書棚端の平台に平積みで展示する(青山ブックセンター本店)
本はリスキリングの手がかりになる。NIKKEIリスキリングでは、ビジネス街の書店をめぐりながら、その時々のその街の売れ筋本をウオッチし、本探し・本選びの材料を提供していく。
今回は、定点観測している青山ブックセンター本店だ。1月はすでに半ばを過ぎたが、入荷してすぐ人気になる新刊が相次ぎ、ビジネス書全般の売れゆきは好調が続いている。そんな中、書店員が注目するのは、プレゼンの達人として名をはせた元日本マイクロソフト業務執行役員が、Giver(ギバー)をキーワードに人を動かすマインドセットを説いた本だった。
Giverの周り、みんなが率先して動く
その本は澤円『The Giver 人を動かす方程式』(文芸春秋)。著者の澤氏は2020年まで23年にわたって日本マイクロソフトに勤め、業務執行役員など要職を務める傍ら、卓越したプレゼンで評判となり、「プレゼンの神様」としてセミナーや講演の人気登壇者になった。現在は独立して武蔵野大学専任教員やスタートアップ企業の顧問なども務める多彩な活動を続けている。そんな著者が自分の信念とも言える生き方の集大成として書いたのが本書だ。
著者は次のような話から説き起こす。チームメンバーが思ったように動いてくれない。そんな経験を持つ人は少なくないだろう。その一方で権力があったり特別な才能があったりするわけではないのに、その人の周りではみんなが協力的で率先して動いているという光景を目にしたこともあるはずだ。そうした人の大半は「Giver」(与える人)というマインドセットで行動しているという。
Giverというマインドセットを身に付けて行動していると、周りの人がいつの間にか「自発的に」動くようになる。そんな魔法のような思考や行動の型はどのようにすれば身に付けられるのか。これを本書は解き明かしていく。
否定的な思考の癖をなくし、自ら先に動く
まずはやってはいけないことから。①「愚痴」を言わない②「○○すべき」と言わない③「難しい」と言わない――の3つだ。次にすぐ実践できる簡単な方法も提示する。①自分から挨拶する②どんな些細(ささい)なことでも、必ずお礼を言う③自分が持っている情報を気軽にシェアする――の3つだ。
否定的な感情がわく思考の癖をなくし、自ら先に動く習慣を身に付けていくと、「メンバーがお互いに自発的に貢献し合える関係性を育み、チーム内に根づかせていく」ことができると著者は言う。
著者が得意とするプレゼン設計を題材にして「聞き手を動かすストーリー構成」や「テーマの本質を伝える抽象思考」「抽象思考を表現するたとえ話のつくり方」など、話の伝え方のメソッドもたっぷりと紹介する。「褒める」という行動や職場の心理的安全性についても掘り下げ、「利他」の徹底を通じた好循環が最終的に自分にも返ってきて人生の可能性を開くと説いていく。
自身がこれまでしてきたGiverとしての振る舞いが随所で紹介されるほか、サティア・ナディラ最高経営責任者(CEO)によるマイクロソフトの社内文化改革など企業事例にも触れている。個人の思考法のアップデートだけでなく、組織としての動き方や職場づくりの参考にもなりそうだ。
「澤さんの本はこれまでもこの店でよく売れていた。旧著より生き方や行動・思考の本質的な部分を率直に語っているところが今の読者に刺さっている気がする」とビジネス書を担当する神園智也さんは話す。
AI時代の生活者を深掘りした本が4位に
それでは、先週のランキングを見ていこう。
今回紹介した『The Giver 人を動かす方程式』が1位だった。ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が超富裕層のマインドや生態系を解き明かした本が2位に入った。3位はブランディング支援で多くの実績を持つ柴田陽子事務所が独自のブランドづくりのメソッドを明らかにした本。この店らしい息の長い売れ筋だ。
「人工知能(AI)によって生活者はどう変わるのか」を起点に、買い物やビジネス、マーケティングの未来を深掘りした新刊が4位に入った。5位は、本欄25年7月の記事〈「すごい習慣」で仕事や人生を変える 科学的根拠に基づく小さなメソッドの大百科〉で紹介した習慣化スキルの本だった。
(水柿武志)
