*連載「続・創るためのAI」のバックナンバーはこちら

The Velvet Sundownというバンドをご存知でしょうか。シンガーでメロトロン奏者のゲイブ・ファローを中心とする4人組のバンドです。今年の夏にデビュー作としてリリースした2枚のアルバムは、70年代のサイケデリックロックを現代風に再解釈した適度にゆるい曲調で人気を博し、Spotify上で数百万回再生されるまでになりました。

世界のロック少年少女が夢見るシンデレラストーリーのようですが、ひとつ注意があります。4人のミュージシャンもバンド自体も実在せず、数百万回再生された楽曲はすべて人工知能(AI)で生成されたものだったのです。さらに驚くのは、こうしたバンドの存在はいまや例外的なものではなくなりつつあるという点です。

本連載の第3回目では、生成AIの「複製技術」としての側面に焦点を当て、特に音楽生成AIシステムを創造性の観点から解説しました。今回はこのテーマを深掘りし、こうしたシステムとAI生成楽曲が音楽文化に突きつける課題について考察します。なお、本稿でのAI生成楽曲、AI楽曲とは、SunoやUdioなどのサービスを使ってテキストから丸ごと生成した楽曲を指し、それらをサンプリングしたり、前回紹介したNeutoneのようなAI制作ツールを使って制作した楽曲は除くものとします。

現在、わたしたち一般リスナーがあまり意識しないところで、AI生成楽曲の氾濫が大きな問題となりつつあります。先日、フランス発の音楽ストリーミングプラットフォーム、Deezerが驚くべき発表をしました。毎月Deezerにアップロードされる新曲の約30%が、AI生成だというのです。この数字はAI生成楽曲を識別する独自のツールを用いて算出されたものですが、生成された楽曲に少しでも人が手を入れるとAI生成として検出される確率が下がるため、AI生成楽曲の割合は実際にはより高いと考えられます。

さらにそれらのAI楽曲の再生回数の70%は、ボットによる不正な再生(つまり実際には聴かれていない)であることもわかっており、再生ロイヤリティによる利潤のみを目的とする不正なアップロードであることが見てとれます。

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同様に、CISAC(著作権協会国際連合)が行なった調査によると、2028年には音楽分野のクリエイターの収入の24%が、AIの影響で失われるリスクがあるとされています。人が音楽を聴ける時間は有限なので、AI生成楽曲が増えれば増えるほど、人間のアーティストがつくった楽曲に触れる時間が相対的に減るのは直感的にも納得できます。

一方で、AI生成楽曲に関しては、「人がつくろうが、AI生成だろうが、いい曲はいい」「自分はAIがつくった楽曲を聴くことはないから関係ない」といった意見もよく聞きます。実際にSunoでAIと音楽をテーマに曲を「生成」したところ、「誰がつくった音かわからない/人間かAIかどうでもいい/リズムが心を揺らすだけ/それで十分 それが音楽」という歌詞が出てきて驚きました。しかし、果たして本当にそうなのでしょうか?

著名アーティストを含む多くのアーティストの楽曲が無断で学習され、訴訟になっていることは本連載でもすでに触れています。アーティストの努力の結晶であるところの楽曲が無断で営利目的で利用され、結果的に彼ら・彼女らの生計を大きく圧迫するような事態が生まれつつあるということになります。音楽よりもひと足早くAI生成技術が一般化したイラストレーションの世界では、収入が3分の1に激減し、生活が成り立たなくなったと赤裸々に訴える著名イラストレーターの例もあります。

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