2025年11月、中央大学多摩キャンパスで、作家生活15周年の作品となる『
イン・ザ・メガチャーチ
』を上梓した朝井リョウさんの講演会(中央大学文学会主催)が開催されました。当日、約350席の会場は満席になり、熱気に包まれるなか、事前に参加者から募集した朝井さんへの質問に朝井さんが答える形で講演がスタート。朝井さんのユーモアあふれる軽快なトークに会場が沸いた講演の一部を4回に分けてお届けします(今回は1回目)。聞き手は中央大学文学部国文学専攻4年生で、文学会イベント代表の蓬田盟さんです。
熱血大学生の熱烈ラブコールで実現した講演会
中央大学文学会・蓬田さん(以下、──) 今日は中央大学に来ていただいて、ありがとうございます。
朝井リョウさん(以下、朝井) 今日はよろしくお願いします。1年以上前から、蓬田さんや他の文学会のメンバーの方が私のサイン会やイベントに熱心に来てくださったんですよね。彼らが大学を卒業するまでに講演をお引き受けしなきゃ、と思っていました。で、いざ引き受けて最初の打ち合わせで言われたのが、「等身大パネルをつくりたいので、全身のお写真をいただきたいです」。この壇上、何?
では、まずアイスブレイク的に「好きなお味噌汁の具」を教えてください。最初から個人情報に関わることを聞いてしまって、申し訳ないのですが。
朝井 いや、別にそこまで個人情報じゃないから……。今朝はサバ缶で作った豆腐のお味噌汁と、卵かけご飯に鮭を投入したものを食べてきました。
朝井リョウ
作家
2009年、『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞してデビュー。『何者』で直木賞、『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞、『正欲』で柴田錬三郎賞を受賞。ほかの著作に『スター』『そして誰もゆとらなくなった』『生殖記』など多数。最新作は『
イン・ザ・メガチャーチ
』
サバは変わり種ですね。
朝井 あのね、サバの水煮缶を煮汁ごと使うと出汁がいらないの。煮汁ごとお椀に移してサバの身をほぐして、切った豆腐を入れて、そこに味噌を入れて熱湯を注いでかき混ぜて、最後に刻みネギを散らせば出汁も鍋も使わない最高のお味噌汁の完成です。みなさんもやってみてくださいね。
はい、たいへん適切なアイスブレイクでしたね。今日お集まりの方々は、申込時にほぼ強制的に私への質問を入力いただいたということで、本当にありがとうございました。そちらをもとに今日は進めていきたいと思います。
今日の参加者は大学生や若い方が多く、その世代の迷い、焦りがリアルに感じられる質問が多いですね。「朝井さんの大学時代のエピソードを聞きたいです」という質問も多かったので、そこからお話ししたいと思います。
試験だと忘れ、問題文に感動した
朝井 最初にお話しするのは、私を大学まで導いてくれた堀江敏幸さんの
『雪沼とその周辺』(新潮文庫)
です。この本には「スタンス・ドット」という作品が収められていますが、私の時代でいうセンター試験の国語の問題文として出題されているので、みなさんの中にも読んだことがある人は多いと思います。
試験ってどの科目も時間との闘いですよね。でも、私は「スタンス・ドット」の文章を読んだとき、あわてて問題を解かなきゃいけないことを忘れるほど、「何この素敵な文章」「きっと、今の自分にはわかりえない感情が書かれている」と感動したんです。
当時、興味がある学部なんてわからないよ〜みたいな感じだったのですが、この問題文で堀江さんの名前を知って、その後、早稲田大学の文化構想学部で教鞭を執っていらっしゃることを知りました。ゼミもあるということで、「早稲田の文化構想学部に行ったらこの人に会えるんだ!」と思い、志望校やコース選択が定まりました。
「自分が何に興味があるのか」なんて正直分からない時代に、「この著者がここにいるんだ」と感じられたことは、進路を選択する1つの指針となりました。
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学生時代に響いたのは、等身大の気持ちとぴったりな本
学生時代に響いたのは、等身大の気持ちとぴったりな本
続いて、私が大学時代に読んでいた本から思い入れが強い一冊を紹介します。
本って「出合うタイミング」もすごく重要だと思うんです。豊島ミホさんの
『神田川デイズ』(角川文庫)
に出てくる主人公は大学生。自分が大学生のときに読むのと、大人になってから読むのとでは全然印象が違うと思う。私は大学生のときの、小説家になる前──小説家になりたいけれど、なれるとも思えなかった時期に出合いました。
この本は連作短編集なのですが、『どこまで行けるか言わないで』という短編が大好きで! 3人の女子大生が女性向けのピンク映画を撮ろうとする話なんですけど、特に何かしらものづくりを志している、そういう仕事に就きたいと思っている人が読んだら、まーーーヒリヒリする作品だと思います。何らかのつくり手を志すこと、実際に行動すること、その本気度……小説家になりたいけど全く現実的じゃないな、という時期の私にドンピシャでした。
私は豊島さんの作品が大好きです。
『檸檬のころ』
『底辺女子高生』
は、高校生の読者にもとてもおすすめです。二十年近く前の作品ですが、ここに描かれている感情は全く色あせていないと思いますし、今の十代の感想が聞いてみたい!
学生時代や若い頃はそのとき、その年齢の自分の気持ちをバシッと言い当ててくれる“共感”の読書に励まされていました。年齢を重ねてくるとまた違う種類の本に刺激を感じるようになりましたが、学生のときは誰かに自分のことを言い当ててもらいたかったのかもしれませんね。
取材・文/三浦香代子 構成/幸田華子(第1編集部) 写真/稲垣純也
第1回
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第2回
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第3回
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第4回
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