少女漫画開花期の職場は

 雑誌の休刊・廃刊やウェブ移行のニュースを聞くことが増えてきた。時代の趨勢とは言え、子どもの頃に毎月読んでいた学年雑誌がすでに存在しないと知った時は少なからずショックを受けたものだ。

 漫画雑誌は昔も今も変わらぬ人気を誇っているが、多くはアプリにその場を移し、紙媒体はめっきり減った。部数という概念もPVに取って代わられようとしている。「週刊少年ジャンプ」が1994年末に記録した653万部という数字を破る雑誌はおそらくもう出てこないだろう。

 だが本紙読者を含む「今の大人たち」は、漫画雑誌で育った世代ではないだろうか。とくに漫画雑誌が100万部を超えるようになった1970年代は熱量がすごかった。

 その時代の少女漫画誌編集部を舞台にしたのが、大島真寿美『うまれたての星』だ。

 物語は1969年、高卒で出版社の経理課に入社した辰巳牧子が、少女漫画誌である「週刊デイジー」「別冊デイジー」編集部の経理補助に配属される場面から始まる。所属は経理課だが、編集部内に派遣されて経理事務を担う役目だ。そこで初めて触れた少女漫画に牧子はどんどんハマっていく。

 雑誌名や漫画家名こそ架空のものだが、モデルは明らかだ。漫画家も作品も当時の読者ならすぐに見当がつき、懐かしいやら楽しいやら。だが少女漫画が分からなくても問題ない。著者の綿密な取材によって当時が生き生きと描かれて、60~70年代の編集部の群像劇として、実に読み応えがあるのだ。

 少女漫画の描き手は女性で読者は少女、だが雑誌を作っているのが男性ばかりという事実にまず驚いた。編集部に女性がいないわけではない。主要な仕事は男性がするものという暗黙の了解があり、女性でさえそう思っている。牧子は名前も覚えてもらえず「女の子」と呼ばれるのだ。野心を持った女性もいるが、その道はなかなかに険しい。

 その感覚が女性漫画家や読者の少女たちによって塗り替えられていく。少女漫画の王道はラブコメだ、女や子どもに歴史は分からないと思っていた編集者が、フランス革命史の漫画の大ヒットに衝撃を受ける。編集者が想像した以上の熱量が読者から返ってくる。少女を導くつもりで作った雑誌が、いつしか読者である少女たちの熱に飲み込まれていく。それを受けて大人たちも変わっていく。ベッドシーンに対するクレームに、編集長が毅然として作品を守る場面には胸が熱くなった。

 少女は(あるいは少年も)大人が良いと思ったものではなく、自分が良いと思ったものを選ぶようになっていったのがこの時代だ。それを顕在化したのが漫画であり、そうして育ってきたのが今の大人たちだ。社会を変えるのは商品を売る側ではなく消費者なのかもしれない。

 当時の組織の描写も興味深い。非正規として長年勤続している人が正社員の新人を教育したり、ベテラン社員が若者を見て「戦後生まれは感覚が違う」と戸惑ったりするのは今と似ている。一方、終身雇用も寿退社も当然という場面には隔世の感がある。ぜひ半世紀前の〈時代の熱〉を味わってほしい。

(大島 真寿美 著、集英社 刊、税込2750円)

労働新聞

令和7年12月22日第3526号7面 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

労働新聞社

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