本のことを一番知っているのは誰だろうか。

作家か編集者か、それとも文学部の教授、はたまたビブリオバトル※の参加者か……。人によってその答えはまちまちだろう。しかし、少しばかりの願望も込めて、「書店員」も推してみたい。私たちが書店で探し当てた本は、それを棚に並べた書店員がいなければ存在しなかった。書店員の心のこもったポップで本を選んだ人も多いだろう。今回は、「本と人との出会い」を支える書店員の今をフィーチャーする。

※ビブリオバトル…イチオシの本を発表し、聴衆の投票で最も読みたくなった本を決める書評合戦。

リアル書店の価値は売り場作りに 2024年初開催

2024年にスタートした「Book Fair Championship(BFC)」は、書店員が企画したフェアの独創性や提案力を競い合う大会だ。「書店の魅力を多くの人に伝えよう」を合言葉に、梅田 蔦屋書店(大阪)の北田博充店長が発起人となり、紙商社、出版社、書店、作家といった書店にかかわる様々な企業が運営に加わる。正社員、アルバイトの区別なく、書店で働く人なら誰でも応募でき、「日本で一番面白い書店フェア」を決める。

来店する前から、買う本が決まっている「目的買い」では、在庫数や配達の便利さでネット書店が圧倒的優位にある。大会では、「まだ買う本が決まっていない客に、本を届ける」という売り場作りにリアル書店の価値があると捉えた。「書店員を若い世代の憧れの職業にしたい」という願いも込めた。

2024年の第1回大会では、書店員歴1か月から40年超まで全国の154人の書店員から、渾身のフェアのレポートが届いた。

「フェア棚から本を買うと、スペースが空いたその棚に、自分のおすすめの本を1冊並べることができる」という来店客参加型のフェア、「その店では1冊も売れていない本だけを集めた棚をつくる」という意表を突いたフェア…… 書店という舞台で繰り広げられるユニークなアイデアの数々に、選考員からは驚きの声が何度もあがった。

全応募作をホームページで公開 全国の書店のヒントに

初代チャンピオンに輝いたのは、MARUZEN&ジュンク堂書店新静岡店の久保田理恵さんが企画した「新社会人応援フェア Working girl Routine#本庄静子の一日」だった。

本庄静子の名前は「本」と「静岡」から連想したという久保田さん。チャンピオンベルトはMARUZEN&ジュンク堂書店新静岡店内に大切に飾られている

架空の女性・本庄静子の日常生活を追いながら、22歳の女性に必要な本をストーリー仕立てで紹介する。「入浴前にちょっと勉強タイム、英語の学びなおしをしようかなぁ~♪」「仕事や人間関係の悩みは尽きないもの… でも、くよくよしたくないッ」。静子の心の声とともに、通常なら取り上げられにくい語学書や人文書まで、店内のほぼすべてのジャンルから数冊ずつを紹介した。実際にフェアが好評で、店が活気づいた点や、本が人々の生活の様々な場面に彩りを添えることを再認識させてくれた点が評価された。久保田さんは「各コーナーの担当も参加し、働く側もみんなで楽しむフェアにしたかった」と思いを語る。

通常の書店業務の合間にフェアの準備をするのは容易ではない。本が好きで、他業種から約8年前に書店員に転職した久保田さんも「書店員は想像以上に忙しかった。売り場作りにもっと時間をかけられたらいいのですが」と笑う。このフェアで久保田さんは「本庄静子」にリアリティーを出そうと、デザイン学校時代の同級生と一緒に静岡市内を歩き回り、「静子」の写真撮影まで行ったという。

実用書や語学書、雑誌、心理学といった人文書まで網羅したフェアは珍しい

店内に掲示された「本庄静子のプロフィール」。そのリアルさも多くの客の目を引いた

書店員のスキルアップとは別に、BFCの開催には、全国の書店同士でアイデアを共有するという狙いもある。

BFCに応募があった書店フェアの概要は、すべてホームページで紹介される。審査項目には「他書店でも展開ができ、全国的な広がりにつながる可能性を秘めているかどうか」が含まれており、BFC応募作をヒントに、売り場作りに活用してほしいと呼びかけている。

表現を凝らして売り場に個性 書店員にやりがい

書店員は、どのように「推し本」を陳列し、どのような仕掛けを売り場に施すのか。

書店員の仕事の舞台裏を描いた「あのとき売った本、売れた本」(光文社)の著者で、元紀伊國屋書店新宿本店勤務の小出和代さんは「売り場に込めた熱意は伝わりやすく、売り上げにもつながる」と話す。

本を探す客にとって必要なのは本にまつわる情報だ。しかし、小出さんが語る「出来る書店員」は、あえてこの情報を絞るのだという。

「この作家に注目してほしい」「近い将来、きっと話題作になる」。こんな短いメッセージだけがしっかり伝わるよう、本の並べ方や飾りつけで表現する。試行錯誤を繰り返しながら、工夫を凝らすのが、書店員のやりがいであり、客も書店を訪れる動機になるのだそうだ。書店員の個性が売り場に表れるため、通い慣れた客は担当者が代わるとすぐ気付く、と言うのだから奥が深い世界だ。

書店員をサポートする仕組みがほしいと語る小出さん

提案型の業務を 蔦屋書店「コンシェルジュ」制度

CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ、本社・横浜市)の書店チェーン・蔦屋書店では、「コンシェルジュ」制度を設けている。2011年、東京・代官山に1号店を開店する際にこの制度を設けた。

同社はコンシェルジュを「経験に裏打ちされた専門性と幅広い知識を持ち、本を中心にライフスタイル提案ができるプロフェッショナル」と定義する。専門に沿った、提案型の業務に注力してもらうのが特徴で、フェアはもちろん、作中に登場する食事を再現して試食する料理体験、書籍の舞台となった地方の食や文化を学ぶ勉強会の開催といった、「本を超えた」大がかりなイベントも担う。

「全てのスタッフを大切にし、やりがいを持って働けるようにしたい」と語る執行役員・鎌浦慎一郎さん。蔦屋書店が年1回全店で展開するフェア「コンシェルジュ文庫」。2025年は「100歳までに読んでおきたい本」と題し、全国のコンシェルジュが年齢ごとにオススメの文庫本を挙げている

蔦屋書店では現在、全国24店舗で約100人のコンシェルジュが、「文学」「絵本」「旅」「食」など13ジャンルで活躍する。コンシェルジュになると、目印として「耕書堂」(蔦屋重三郎が江戸時代に開いた書店)のマークをあしらった黒いバッジを着用する。同社の「書店員に誇りを持って働いてもらいたい」との願いが込められている。

コンシェルジュの目印となるバッジ

梅田 蔦屋書店で2015年5月から「文学コンシェルジュ」として活躍する河出真美さんは「本のまわりで生きていきたいという思いを認めてもらえたような気持ちになった」とやりがいを語る。同店は、年間約60ものフェアを実施、アルバイトの学生も積極的に企画に挑戦する。店側の熱量は、来店客にも伝わっているようだ。神戸市から小学生の娘も含め、家族3人で定期的に同店を訪れるという女性は「この店はほかと違う。自分では見つけられないような本が置いてあると気づいてから通うようになった」と話していた。

店に来る人の人生にいい変化をもたらせるよう心を込めて本を選ぶという河出さん

梅田 蔦屋書店のフェアの一例。文庫本の裏表紙のあらすじ部分以外をラッピングした状態で販売する「あらすじ百景」は開始数週間で3割が品切れに

同店でアルバイトをする大学生が企画したフェア。印刷、編集、装丁、出版の現場を訪ね、専門家から本を提案してもらった

書店員 非正規雇用の割合が上昇

出版大手・トーハンが1973年から発行してきた「書店経営の実態」(2019年度版を最後に発行休止)を基に、調査協力書店の従業員の状況をまとめると、90年代後半から非正社員であるパート・アルバイトが正社員を上回った。書店だけでなく、小売り業全体、飲食サービス・宿泊業でも見られる傾向で、スキルアップや士気向上が重要なテーマとなっている。

書店員の雇用形態の推移

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