
天井高7mの開放感がもたらす “生活と地続き”のクリエイティブ空間
ボーカルの吉田沙良とベースの角田隆太による、日本語詞とジャズ、ソウルを核に柔軟な音楽性で注目を集めるユニット=モノンクル。そのサウンドの要となる作詞・作曲家/ベーシストの角田隆太は、新たな拠点として天井高約7mのメゾネット空間を選んだ。「生活と地続きの制作環境」をテーマに、Ableton Push 3とMacBook Proを中心とした“In the Box”かつフィジカルなシステムを構築。AIツールの活用やゲームからのインスピレーションなど、独自の制作哲学が息づくプライベート・スタジオの全貌に迫る。
Text:Susumu Nakagawai Photo:Takashi Yashima

角田隆太(モノンクル)のプライベートスタジオ
“光が入ること”が絶対条件だった
角田が案内してくれたのは、とある住宅街に位置するメゾネットタイプのスタジオだ。最大の特徴は、2階分を一体化させた約7mの天井高と、壁一面に広がる大きな窓。
「物件選びの条件は、リビングと制作部屋が地続きであること、そして“光が入ること”でした。防音性を高めようとすると窓を潰してしまいがちですが、僕は外の空気を感じながら制作したかった。幹線道路沿いなので外部ノイズは多少ありますが、窓が元々重厚に作られていたこともあり、録音後の処理で十分対応できます。それよりも、日差しを浴びながらリラックスして作業できるメリットの方が大きいですね」

約15年間使用しているというウッドベース。5thアルバム『僕ら行き止まりで笑いあいたい』の制作では、このスタジオでウッドベースを演奏し、レコーディングも行ったそう
スタジオの広さは約10畳。高い天井のおかげで反射音が少なく、録音に適したルーム・アコースティックが得られているという。
「壁面のコンクリートに合わせて吸音材もグレーと白で統一し、インテリアとしての居心地の良さも重視しました。デスクは父から譲り受けたアンティークの木製机を使っています。自分でも棚を取り付けたり、端材で小物を作ったりと、DIYで空間を作っていくのが好きなんです」

吸音パネルについては「デザイン性を損なわない、おしゃれなものを選びました。壁が白なのでパネルも白にしたんです」と語る

モニタースピーカーには、IK Multimedia iLoud MTM MKIIを導入。角田は「初代からの進化は著しく、定位の明瞭さが格段に上がりました。ARC測定マイクによるキャリブレーション機能も素晴らしいですね。PC上で細かく調整できるので、好みのバランスに追い込めます」と話している
IK Multimedia iLoud MTM MKII関連製品
デスク上にはさまざまな機材が置かれているが、制作の中核を担うのは Ableton Push 3だという。
「コンセプトは“In the Box”で、PCとコントローラーだけで完結する環境です。Push 3を導入してからは、MIDIキーボードすら置かず、これをMIDIパッド兼鍵盤として使っています。何よりPC画面を見ずに音作りに没頭できるのがいいですね」

作業デスク正面。アンティーク調の木製机は、角田の父親が作成したものだそう。Ableton Push 3を中心に制作するため、PCのキーボードが邪魔にならないようスプリット・キーボードを導入し、デスク周りの動線を最適化しているとのこと
Push 3の両脇には、分割(スプリット)キーボード が配置されている。
「Push 3を中央に置きたかったので、PC用のキーボードは分割タイプを導入しました。慣れるまで1ヶ月かかりましたが、今は快適です。PCはApple MacBook Pro(M1 Max) をクラムシェル・モードで運用し、DAWは Ableton Liveを愛用して約7年になります」
外出先では、スピーカー付きのAbleton Moveを活用するという角田。
「現場やホテルの空き時間に制作することもあります。バックパック一つでどこでも同じ環境が作れる、というのが僕の理想のスタイルです」

Ableton Moveは、Ableton Liveのワークフローやインターフェースと高い親和性を持つコンパクトなスタンドアローン型音楽制作ツール。角田は「空き時間に制作する際に活用しています。本体にスピーカーを内蔵しており、Apple MacBook Proを持たずに作業できるので非常に便利です」とのこと
ゲーム『サイバーパンク2077』から受けた衝撃
オーディオ・インターフェースにはApogee Symphony Desktopを採用。かつては同社Elementシリーズを使っていた角田だが、Symphony Desktopについては音質の良さとコンパクトさが気に入っているという。
「Symphony Desktop内のDSP処理に対応したApogeeプラグイン、ECS Channel Stripなどを掛け録りで使用しています。特殊なことはせずとも、通すだけで音が良くなるので気に入っていますね」

左から、オーディオインターフェースのApogee Symphony Desktop 、Meridianによるアナログ・ベースシンセ&フィルターペダルFunk-u-lator
デジタル主体の環境で異彩を放つのがアナログ機材やユニークなガジェットたちだ。中目黒で購入したというSHARPのラジカセは、サンプリング用として活躍している。
「あえてラジカセの内蔵マイクで録ったりすることもあります。プラグインでは出せない味やノイズ感が欲しい時に重宝しますね」

5年ほど前に、中目黒で購入したというSHARP製のラジカセ
角田は「中国の“得魚忘筌(とくぎょぼうせん)”という言葉が好きなんです」と話す。
「これは“魚を得たら、その道具のことは忘れる”という意味なんですが、音楽も同じで、機材や手法に固執せず、生まれた音楽そのものを大事にしたい。AIやラジカセなどは、あくまで面白い音を作るための選択肢の一つとして捉えています」

サンプリングも活用しているというトイピアノのサウンドは、5thアルバム『僕ら行き止まりで笑いあいたい』の楽曲にも含まれているのだそう

MOOG Minimoog Model Dの回路やレイアウトをほぼ忠実に再現したというアナログ・モノフォニック・シンセサイザー、Behringer Model D。シンセの仕組みが分かりやすく、太い音が出るところが気に入っており、今でもベースの音に行き詰まった際に用いることがあるとのこと

ハンドメイド・エフェクターブランドLemon & Gingerのファズペダル、だいだらぼっち。ベースに用いている
2025年11月12日に配信された5thアルバム『僕ら行き止まりで笑いあいたい』では、3年前に作った楽曲をすべてリアレンジするという大胆な試みを行っている。そのインスピレーションの源の一つが、ゲーム『サイバーパンク2077』だと角田は語る。
「仕事が終わった後、毎日3時間くらい寝る間を惜しんで没頭しました(笑)。あの作り込まれたディストピアな世界観や、退廃的な街の空気感には衝撃を受けましたね。TempalayのAAAMYYYと共作した新曲「Who am I」などは、まさにそこからインスパイアされて、音響にサイバーパンク的な質感を落とし込んでいます」
「常にアップデートし続けたい」と語る角田。ミニマルな機材と広々とした空間、そして柔軟なアイディアが同居するこのスタジオから、モノンクルの新しいサウンドがまた一つ生み出されようとしている。」

マイクは、Rupert Neve Designs共同開発モデルのsE Electronics RNTを使用。角田は「5〜6本を試して、相方(吉田沙良)の声に一番合うものを選びました」と語る

ヘッドホンはDENON AH-D5200をメインに使用。角田は「マスタリングエンジニアの山崎翼さんのスタジオで聴いて即決しました。空間表現力が素晴らしく、スピーカーとヘッドホンを行き来しても違和感がありません。サブとしてSONYのワイヤレスヘッドホンや、車のカーステレオでもチェックを行い、リスナー環境との乖離がないかを確認しています」と話す

スタジオの壁には角田の使用するベースやギター類が並ぶ。その背後には吸音材が敷き詰められている

フロントデスクの反対側には、37鍵のシンセYamaha Reface CSがスタンバイ

棚には、sE Electronics RNTの専用電源ユニット(写真左)とフォノイコライザーのAudio-Technica AT-PEQ20(同右)が格納されている

カセットテープのコレクション。ベックやレディオヘッドなどのテープが並んでいる
ちょっと一息
観葉植物が育ちすぎるんです(笑)。この部屋は日当たりが良いので、植物の成長がすごく早いんですよ。特にデスク左にあるゴムの木は、あまりにどんどん大きくなるので株分けして友人に譲ったりもしているくらいで(笑)。スタジオ内に生き生きとしたグリーンがあるのは日々の制作の良いリフレッシュになりますね。
Profile

【角田隆太|Profile】ボーカルを務める吉田沙良とのユニット=モノンクルのベースで、作編曲も手掛ける。ジャズを基調にした高い演奏力と、ジャンルを横断するポップセンスで高い注目を集めている。2025年11月12日には、5thアルバム『僕ら行き止まりで笑いあいたい』を配信リリースした
Release
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