
芳根京子とKing & Prince髙橋海人の初共演で注目を集めるのが、11月14日公開の映画『君の顔では泣けない』。2021年9月に刊行された、君嶋彼方の同名小説が原作となっている。デビュー作でありながら直木賞作家・辻村深月らが大絶賛した作品は、一体どんな物語なのだろうか。
●“入れ替わりもの”の真骨頂!苦悩をリアルに描く
「君の顔では泣けない」は、これまで数々の名作を生み出してきたいわゆる“入れ替わりもの”だ。高校生の時に、あることをきっかけにお互いの身体が入れ替わってしまった男女が、その後元に戻らず15年間もの人生を歩んでいくストーリー。主人公・坂平陸が、入れ替わった水村まなみの身体のまま、心は男ながら、進学、結婚、出産など人生の転機を迎えていく様子が綴られている。
映画化では『ピンカートンに会いに行く』『決戦は日曜日』などを手掛けてきた坂下雄一郎が監督・脚本を担当し、繊細な物語をていねいに描き出した。さらに、難しい役どころを演じた芳根と髙橋の誠実な演技が光っている。
原作小説は「第12回小説野性時代新人賞」を受賞。選考委員を務めた辻村深月、冲方丁、森見登美彦がそろって絶賛し、辻村はその後著者との対談で「冒頭の十数ページで『推せる!』と心が踊った」と明かした。全国の書店員も「デビュー作だとは信じられない」と口をそろえ、発売前から重版が決定したほど。
“坂平陸”としてそつなく生きるまなみとは異なり、うまく“水村まなみ”になりきれず戸惑う陸。作者である君嶋が「入れ替わったことによる困難な部分を深く書きたかった」というように、元に戻れず、両親や友人に真実を言えないまま女性として生活する日常がリアリティたっぷりに描かれている。
そしてそれらの葛藤や苦悩は、特別な状況の陸とまなみだけに限らず、自分の人生を生きる私たちも日々味わうものであり、普遍的なテーマと言えるだろう。森見も新人賞選評の中で、「我々が生きていくにあたってぶつかるさまざまな問題を、新鮮なかたちで浮き彫りにしている」と語った。
文庫版には、後に書かれた「アナザーストーリー【Side M】」が収録されている。まなみ側の視点で書かれた待望の短篇で、本編ではほとんど触れられないまなみの心情をのぞくことができる。こちらも映画と合わせてぜひ楽しみたい。


