写真家の操上和美が、映画『国宝』のポスター撮影のエピソードや、人生の転機となった写真について語った。

操上が登場したのは、10月20日(月)放送のJ-WAVE『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)内、あらゆる世界の本質にインサイトしていくコーナー「MORNING INSIGHT」だ。

映画『国宝』のポスターはいかに生まれたか

操上和美は1936年生まれ、北海道出身。1965年よりフリーランスの写真家として活動を開始。主にファッションや広告の分野で活躍し、映像作品も数多く手がけ、映像表現において幅広く活動を展開している。

別所:畏れ多くも、今年、60歳の還暦のポートレート撮影をお願いしたところ、ご快諾いただけて。最高の時間でした。

操上:別所さんのファンですので、こちらこそ光栄です。

別所:操上さんは多くの名作ポスターやポートレートを手がけてらっしゃって、海外アーティストなどいろんな方を撮ってらっしゃいます。その独自の構図、光の捉え方は、日本のビジュアル文化の礎を作ったと言われています。最近では、大ヒット映画『国宝』のポスタービジュアルを担当されていて、喜久雄を演じた吉沢 亮さんとの撮影があったとお聞きしました。クランクアップの翌日だったそうですね?

操上:そうですね。吉沢さんは2度目か3度目だったんですけども、あまりにも美しい方なんですよ。前に行くと「ちょっと汚して撮りたい」という欲望に駆られます(笑)。

別所:その気持ち、ちょっとわかります(笑)。完璧な美ですよね。写真の撮影自体はどのように進んだのでしょうか?

操上:映画を撮り終わった次の日あたりにスタジオに来ていただいて、そこで撮影しました。

別所:いろんなアングルで、いろんなチャレンジをされた?

操上:実は、そうでもないんですよね。もう、顔に集中。

別所:たしかに、動と静で言うと、静の世界ですもんね。

操上:そうですね。雨風を降らせたかったけど、そうもいかない。国宝を汚しちゃいけませんから。

グレートバリアリーフでの撮影が人生の転機となった

人を撮影する際に心がけていることを問われた操上は、「その人の表面じゃなく、内面をどう捉えるかに腐心しています」と答える。

操上:内面を撮るためには、この人がいま、どういうことをして生きているのかを調べないと入りにくいですね。

別所:では、下調べをしたうえで撮影を?

操上:必ず調べます。そうしないとこちらも不安なので。

別所:構図をきちんと決めることもあると思いますが、現場でいろいろと生まれることもありますよね?

操上:はい。現場のセッションでどこまでいけるかっていうのが写真の醍醐味です。決めたとおりの構図で撮影がスタートしたとしても、そこから三段跳び、八艘飛びができるかどうか次第なところがありますね。

操上は北海道・富良野から24歳で上京し、写真家を志した。その出発点には、どのような体験があったのだろうか。

操上:『LIFE』という雑誌に、写真家のロバート・キャパが撮ったノルマンディー上陸作戦の荒々しい写真が載っていて、衝撃を受けたんです。写真家になると旅ができる、どこにでも行ける、いろんな人に会えるんだと感じて、それで写真家になろうと思ったのがきっかけです。

別所:『LIFE』は写真を中心とした雑誌で、躍動感のある作品がいっぱいありましたよね。

操上:かといって、僕は戦争写真家になるというよりも、自分の内面と社会とがぶつかり合うような仕事がいいかなと思ったんですよね。

別所:いろんな方を撮られてきたなかで、ターニングポイントはどこになりますか?

操上:1970年代に、VAN JACKETのファッション撮影で、オーストラリアのグレートバリアリーフに行ったんですね。企画したアートディレクターの絵コンテどおりに撮って、それもきれいだったんですが、そのあとに海岸に横になって、海岸を見てたんですよ。そうすると、空と海と砂浜の三層がすごく美しくて、そこにトビウオのごとく、モデルが飛んだら面白いなと思ったんです。「水平に、腹から落ちろよ」と指示したわけですけども、そうするとジャンプしたときと水平になったとき、床に落ちたときの3枚が撮れるわけです。最終的に水平の写真を使ったんですけど、そのときに現場や環境でインスパイアされた自分の感覚で撮った瞬間が、いちばんいいなと思ったんですよね。

別所:素晴らしい! 瞬間瞬間を大切にされているんですね。

これからを生きる若者たちにエール

11月21日(金)に公開を予定している映画『TOKYOタクシー』のポスタービジュアルを手がけるなど、いまなお時代の最前線で活躍する操上。「まだまだ到達点に足りない。そこを目指すのが面白い」と思いを語る。

別所:カメラの世界もどんどんデジタルになり、AIも入って変化していますよね。

操上:あまりテクノロジーに溺れてはいけなくて、いちばん大切なのは、自分の感覚を大事にして実際に物に触れること。AIを使えば加工もなんでもできてしまいますが、それでも自分の触覚や感覚を信じるほうが、自分には合っていると思うんです。

別所:すべてにおいて言えることですね。テクノロジーへのチャレンジ精神は失わず、手触り感や触感を重視すると。

操上:いちばん大事なのは、自分の「ハート」ですから。美しいと思う気持ち。自分は窓から景色を見るのが好きです。ここは窓からの眺めがいいですね。

別所:東京のお台場方面が一望できて、東京タワーも見えますもんね。このグレーな感じの空もいいですよね。

操上:天気って、雨が降ってもよし、風が吹いてもよし。それぞれの美しさが自分にどう響くかだと思います。

別所:これからを生きる若者たちにとって、写真という表現にはどのような可能性があると思いますか?

操上:可能性は無限にあります。あまり考え過ぎずに、自分の直感を信じて前に進むことが大事だと思います。

操上和美の最新情報は公式サイトまで。

『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のコーナー「MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜~木曜の8時35分ごろから。

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