その他の要件についても合理性に疑問の目が向けられている。例えば「未成年の子どもがいない」という要件があるのは日本だけで、親の性別変更が未成年の子の福祉に反するという合理的な理由を見出すことはできない。
そもそも「性同一性障害」という概念自体、すでに国際的なガイドラインでは削除されている。現在は精神疾患ではなく「性別不合」といった概念が用いられている。
最高裁や札幌家裁は、判断のなかで医学の進展について言及している。法律ができた当時は、段階的にホルモン療法や性別適合手術などの身体治療を受けることが前提とされていたが、現在では人によって身体治療を必要とする人もいれば、いない人もいることが認められるようになった。こうした点から、生殖不能要件や外観要件は、医学的な合理的関連性は見出せないという判断だった。
1965年に「ブルーボーイ事件」が起き、性別適合手術の歩みがストップしてしまってから約30年。1998に埼玉医科大学で、日本精神神経学会のガイドラインに基づき性別適合手術が行われ、日本での手術が再開した。そこからさらに30年が経とうとする2025年現在、法律が医学や社会の進展に追いついておらず、性同一性障害特例法自体の抜本的な改正が求められている状況と言える。
しかし、法改正の動きは一向に進んでいない。戦後、最高裁が憲法違反の判断を下したのは13件。刑法の尊属殺重罰規定を違憲とした最初の1件を除いて、すべての法律が判決から1年以内には改正されている。
性同一性障害特例法の生殖不能要件は、すでに運用面では無効になっているとはいえ、最高裁による憲法違反の判断を立法府が放置するという、法治国家としての基本を脅かす深刻な事態とも言える。
医療アクセスも社会生活の課題も
当事者の生活にとって重要なのは、もちろん法律上の性別変更要件の改正だけではない。

