男女6人編成のバンド、JIJIMによる初のワンマンを含む全国4都市をまわるツアー『カンカ ノ カンカ ツアー 2025』が10月18日、山梨県甲府のライブハウス・桜座からスタートした。彼らにとって新しい旅の始まり。メンバー6人中5人が山梨出身で、学生時代から慣れ親しんだ“原点の地”における初のワンマン公演を、終演後のメンバーたちのコメントを交えながらレポートする。
「この桜座は僕が学生時代によくきていた場所で、ずっと憧れていたライブハウスです」――。ライブ中のMCでも、終演後のインタビューでもそう話していたシンジュ(Vo)。桜座は、築100年以上の蔵を改修した空間で、畳敷きの客席に座布団が並ぶ独特のステージ構造だ。オクム(Ba)以外、メンバー全員が山梨出身のJIJIMにとって、この場所は“原点”と言ってもいいだろう。
照明が落ち、メンバーがひとりずつ「こんばんは!」「今日はよろしくお願いします!」と大きな声で挨拶しながら登場すると、会場にあたたかな拍手と声援が響きわたる。まずは、今年1月にリリースされたシングル「ニジガール」でこの日のライブをスタート。軽快なダブルシンセが駆け抜けるイントロに、観客の体が自然と揺れる。ホリ!!!(A.Gt/Syn)は、「地元のニュース番組のエンディングにも使ってもらった曲で、山梨とのつながりを強く感じる一曲。ステージから見えたお客さんの顔に『始まったな』と実感しました」と語る。
続く「ヘルシーラヴ」では、ヒトカ(Key)の柔らかなピアノと、カガミ(Dr)のグルーヴィーなビートが重なり、オーディエンスの体を揺らす。畳の吸音と高い天井の残響が絶妙に響き合い、全員がコーラスをとる彼らのアンサンブルが立体的に広がっていく。どの声も均等に混じり合いながら、シンジュのファルセットがその中心を貫いていた。

シンジュ(Vo)
リズムが刻まれると、「シーイズブルー」へ。タイトなドラムとエッジの効いたシンセホーンが心地好く、客席には自然発生的なハンズアップが広がる。間髪入れずに「ナガグツボーイ」が始まると、青い照明に包まれたステージが一瞬にしてモダンソウルの空気を帯びた。
中盤で披露された「スタンドバイユー」は、この日の感動的なハイライトのひとつ。地元・山梨をテーマにシンジュが書いた楽曲で、彼はMCで「それぞれの故郷を思いながら聴いてもらえたら」と語っていた。ジャン・ジンペイ(Gt)も終演後、「山梨でこの曲を演奏できたのが本当に感慨深かったです。演奏しながら自分でも歌詞に聴き入ってしまいました」と話す。

ジャン・ジンペイ(Gt)

オクム(Ba)
続いて披露されたのは「マドラー」。月明かりのような照明の下で、ホリ!!!のエレピとヒトカのピアノが絡み合い、その隙間を縫うようなオクムのメロディックなベースラインが楽曲をドラマティックに彩っていく。初めてメンバー全員で本格的にアレンジを手がけたこの曲は、ヒトカによれば「ジャンルにとらわれず、新たな表現を探った」という。
そしてライブ前半のクライマックスとなったのは「メーデー」。ドラムソロで幕を開けるこの曲で、カガミの力強いビートが桜座の空間を震わせる。オクムは「カガミのドラムソロが本当にかっこよくて、音が解き放たれる瞬間がありました」と振り返っていたが、オーディエンスのハンドクラップが重なり、音と体温が混ざり合うような幸福な一体感が印象的だった。

カガミ(Dr)

ヒトカ(Key)

ホリ!!!(A.Gt/Syn)
ライブ後半は、11月リリース予定の新EP『化色』からの先行曲「ブルジョワジー」を披露。ハチロクのマーチングリズムに合わせ、アイリッシュ調のギターとフォーキーなメロディが重なり合う。ヒトカのシンセが奏でるイントロはどこか懐かしく、それでいて新しい風も感じさせた。
「ずっと練習を重ねてきたけど、人前で演奏するのは初めて。お客さんがどんな表情で聴いてくれるのかを見るのが新鮮でした。『あ、こういう顔で聴いてくれるんだ』と思った瞬間、また次に披露するのも楽しみになりました」とシンジュ。その言葉の通り、観客一人ひとりの表情を確かめるようにステージを見渡しながら、シンジュは穏やかにアコースティックギターを鳴らしていた。
その余韻を引き継ぐように演奏されたのが、軽快なクラビネットサウンドの「ブレイク・ソング」。メンバー全員が左右に体を揺らしながらリズムを刻み、会場にも笑顔が広がる。曲の終盤には観客のハンドクラップが自然に加わり、音と体が一体となる喜びが会場全体を包み込んだ。

ピアノのアルペジオに導かれ、シンジュのファルセットが高らかに響く「ヘヴン」は、ゴスペルを思わせるメロディのなかに希望と祈りが混ざり合う。「気持ちが高ぶりすぎて、ステージを動き回ってしまった」と笑うシンジュ。対してカガミは、「個人的にいちばん表現をするのに時間が掛かった曲だったけど、今日は心から楽しんで叩けた。練習を重ねた時間が報われた気がしました」と話す。ステージ上のふたりの感情の交差が、音として昇華されていくのがわかる。ヒトカのピアノソロ、ホリ!!!のオルガンソロも熱を帯び、バンド全体が音のうねりのなかで呼吸していた。

そんな高揚感は、続く「デイジーレイニー」にも引き継がれる。静かなアコギとピアノのイントロから始まるこの曲でカガミは「感情が高ぶりすぎて、少しオーバーに叩いてしまった(笑)」と照れ笑いを浮かべつつ、「でも、その“熱”はきっとお客さんに伝わったと思う」と満足そうだった。「この曲ではお客さんの顔をしっかり見ながら演奏しています」と話すのはオクム。「笑っている人、真剣な人、涙ぐんでいる人――その一人ひとりの表情を見ながら弾いていたら、胸がいっぱいになりました」。

さらにEP『化色』から、「スターリースターリー」を披露。「(新曲だと告げずに)こっそり演奏しました」とシンジュは笑いながらも、「『ブルジョワジー』と同じく、人の心に届くことで初めて音楽は価値を持つんだとあらためて感じました。誰かが聴いてくれることへの感謝がこみ上げた2曲でしたね」としみじみと語る。ギターの鋭いカッティングに、ヒトカとホリ!!!のダブルキーボードが緊密に絡み合い、バンドの新たな方向性を感じさせた。疾走感の中にも、どこか“祈り”のような透明さがあった。
本編ラストは「カラスフライト」。ゴスペルのエッセンスを感じさせる壮大なナンバーで、ホリ!!!は「お客さんが手を振ってくれて、会場全体が音楽でひとつになった瞬間でした。心が繋がった状態で音を共有できた時にこそ、本当の楽しさや幸せが生まれる」とコメント。その言葉通り、音が終わった瞬間、桜座の天井まで届くような拍手が鳴り響いた。

アンコールでは、軽快なフォークロック「オツキサマ」からスタートし、ラストはシャッフルビートが心地好い「ランデヴー」で幕を閉じた。全員で声を合わせてコーラスを響かせる姿に、バンドとしての結束と未来への自信が滲んでいたように思う。
現在、EP『化色』の制作は佳境を迎えている。「ブルジョワジー」と「スターリースターリー」の収録はすでに完了しており、残りの3曲をこれから録るという。ホリ!!!は「音色へのこだわりを大切に」と語り、オクムも「自分たちの色を詰め込んで」と続ける。全員が口を揃えて「『絶対にいい』という確信がある」と断言するその姿勢からは、6人が次のステージへ向けて確かな手応えを感じていることが伝わってきた。

「『カンカ ノ カンカ』(капка по капка)はブルガリア語で“一滴一滴”という意味です」と、ツアータイトルの由来を明かしてくれたシンジュ。「一つひとつの瞬間を大切に、今日という一日にあった顔や気持ち、言葉、音楽のすべてを次の街へ持っていきたい。感謝を伝えに行って、また新しい気持ちを受け取り、それを東京に持ち帰る。終わらせるためじゃなく、次につなぐためのツアーにしたい」――。
山梨の夜に生まれた一滴が、名古屋へ、大阪へ、そして東京へ。彼らの音の旅は、これからさらに深く、美しく広がっていくだろう。

■ツアー情報
『カンカ ノ カンカ ツアー 2025』
※終了した公演は割愛
11月13日(木)愛知・池下 CLUB UPSET
OPEN 18:30/START 19:00
GUEST: LUCCI/月追う彼方
11月14日(金)大阪・LIVE SQUARE 2nd LINE
OPEN 18:30/START 19:00
GUEST:ラッキーセベン/ヨナツメ
11月21日(金)東京・Spotify O-Crest
OPEN 19:00/START 19:30
ワンマン公演
<チケット>一般発売中
3,500円(ドリンク代別)
*東京のみ:高校生以下 2,500円(ドリンク代別/身分証提示必須)
■リリース情報
EP『化色 – KESHIKI -』
2025年11月28日(金)配信
<収録曲>
「ブルジョワジー」(11月7日(金)先行配信)
「スターリースターリー」
ほか全5曲収録
■出演情報
FM FUJI『JIJIMのBest of Luck!!!』
毎週日曜17:00〜17:30
JIJIM オフィシャルサイト:https://lnk.to/JIJIM_info
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