Text by Yuki Kawasaki
Photo by Hiroki Nishioka

東京発のショーケース & カンファレンスフェスティバル『CUEW』。その第1回目が8月18日(月)から19日(火)にわたり、東京・SHIBUYA FOWS & SHIBUYA XXIにて開催された。

「未来のヘッドライナーへと成長できる新しい場を提供していく」「世界中の“音楽人”の発信・交流の拠点となるプラットフォームとなる」ことをステートメントに掲げ、今年初開催された『CUEW』。今回は国際交流基金とCUEW実行委員会が主催し、2日間にわたって国内外から多様な音楽業界人が集い、カンファレンスと気鋭のアーティストによるライブパフォーマンスが行われた。会場では関係者同士だけでなく、ときにはアーティストと関係者が交流し、新たな「きっかけ」の種が撒かれていたように思う。実際に、DAY1に出演した藤原さくらは早くもエジプト・カイロで開催される『She Arts Festival』への出演が決定。他アーティストも前向きに海外フェスへのブッキングが進行されるなど、数々の成果が姿を見せ始めている。

藤原さくら

また、来年4月には20年以上の歴史を誇る都市型フェス『SYNCHRONICITY』と連携しての開催も発表されるなど、次なる動きにも注目が集まっている。今回はそんな『CUEW』のカンファレンスパートをDAY1、DAY2に分けてレポートする。当日はアジアやヨーロッパ各国から12名のデリゲーツが参加し、2日間で計6つのテーマで知見を共有。音楽フェスのオーガナイズや海外アーティスト招聘のノウハウ、キュレーションの舞台裏など、さまざまなトピックが話し合われた。

本稿では各キーパーソンの想像力と知識を紹介する。まずはDAY1に登壇したデリゲーツが関わる8つのフェスティバルについて簡単に触れたい。

  Java Jazz Festival

インドネシアのジャカルタで毎年5月に開催されている世界最大級のジャズフェスティバル。南半球では最大規模を誇ると言われ、今年はJacob CollierやRayeなど世界的に活躍するアーティストを招聘している。今回は同フェスの代表者としてDewi Gontha氏が登壇した。

  Maho Rasop

タイのバンコクで開催されるインディー系音楽フェスティバル。昨年11月にはUKのWhite LiesやUSのHippo Campus、韓国のSilica Gelなど各国からエッジの効いたアーティストが集結した。日本からも羊文学や坂本慎太郎らが出演している。

  Bangkok Music City

バンコクで開催される国際音楽フェス&カンファレンス。アジア各国のアーティストや業界関係者が集い、音楽とカルチャーの新たな交流を生み出す都市型イベント。日本からも気鋭のアーティストがブッキングされている。今回は『Maho Rasop』『Bangkok Music City』の代表者として、共同主催者のSarun Pinyarat氏が登壇した。

  MusiConnect Asia

アーティスト主導で運営されるプロジェクトで、アジアを拠点とする音楽家や関連業界に利益をもたらすための新たな道を切り拓き、世界中のプレゼンターや機会とつなぐことを目的とする。このプロジェクトの代表者として、音楽プロモーター、芸術プロジェクトのキュレーター、音楽プロデューサーとマルチに活躍するKaushik Dutta氏が登壇した。

  RISING

オーストラリア・ビクトリア州を代表する新しいアート、音楽、パフォーマンスが展開されるフェスティバル。州都メルボルンの中心地で行われ、多様性に富んだ芸術家、ミュージシャン、クリエイターたちが一堂に会する。2025年のフェスティバルでは、100以上のプログラム、610人のアーティストが参加し、16の新作委嘱、14のワールドプレミア、8つのオーストラリア初演が開催された。ミュージシャンとしてはPortisheadのBeth Gibbons、Talib KweliとMos Defによるヒップホップユニット・Black Starがラインナップに名を連ねている。『CUEW』には同フェスのミュージックシニアキュレーターを務めるHayley Percy氏を迎えた。

  Colours of Ostrava

チェコ最大の国際的な音楽フェスティバル。2002年から毎年7月に行われ、今年はIggy PopやSting、JusticeやThe Chainsmokersなどビッグネームが多数出演した。会場となるのは工業地帯を再利用した文化複合施設「Dolní Vítkovice(ドルニ・ヴィートコヴィツェ)」で、ユニークな空間づくりにも注目されている。登壇者は、同フェスティバルのアーティスティック・ディレクター兼カルチャープロデューサーを務めるFilip Košťálek氏。

  Budapest Ritmo

ハンガリーはブダペストの音楽フェスティバル。今年で10周年を迎え、中東欧では最大級の規模を誇る。各国からルーツミュージックのアーティストを招聘し、多彩なミュージシャンがステージに立つ。登壇者として、ハンガリーおよびその周辺地域を拠点とするワールドミュージックの制作会社「Hangveto(ハンヴェト)」のディレクターであり民族音楽学者のBalázs Weyer氏。

  She Arts Festival

エジプト初、女性アーティストに特化した国際フェスティバル。多様な分野で活躍する女性アーティストを特集し、彼女たちの物語を社会に共有する。プロだけでなく、多くの若手女性アーティストに対して活躍の場を提供している。登壇者は、同フェスの創設者であるNeveen Kenawy氏。

ショーケースフェスティバルの価値と可能性、世界とつながる「きっかけ」を掴むには

セッションのひとつめは、Kaushik Dutta氏とSarun Pinyarat氏により、「ショーケースフェスティバルの価値と可能性」が語られた。

まず前提として、「日本にはショーケースフェスティバルの事例が少ない」ことが指摘された。ショーケースフェスティバルの性質について、「ここ20年ほどで大きく発展した新しい現象。参加アーティストはオーディエンスの前でパフォーマンスを行うだけでなく、ワークショップやパネルディスカッションを通じて学ぶ機会も得られる」とここでは説明された。

また、2人からは日本人アーティストに向けて参加を勧めたいフェスティバルについて、今年10月にフィンランドで開催される『WOMEX(Worldwide Music Expo)』(開催地は持ち回り制)と、インドネシア・バリ島で行われる『AXEAN Festival』の名前が挙げられた

前者は世界最大規模のショーケースフェスティバルで、アーティストにとって有益なネットワークが築けることが主なメリットとして例示され、後者は日本からの渡航費用を抑えられることがポイントとして強調された。

『AXEAN Festival』を推薦したのはタイ出身のPinyarat氏だが、同国のシーンに対して「急成長している音楽市場」と表現しており、現地を知る人間の自信が表われていた。

また、いずれのショーケースフェスティバルも基本的にはアーティスト側が出資者であり、Dutta氏は「投資先を見極めることは重要である」と述べる。その金額に見合ったリターンを得られるかどうか、そもそも何をもって「リターン」とすべきかは、資金を投じる前にそれぞれが熟慮すべきだろう。

そしてアーティスト側からイベント後に行うべきフォローアップとして、「ひたすらコミュニケーションを試みる」ことが挙げられた。基本的には予算が限られており、主催側のリソースも少ない。そのため、出演者から送られてくる連絡事項に対し即座に反応できないことも度々あるという。

Pinyarat氏はネットワーキングのコツとして、「恥ずかしがらず、簡潔に、礼儀正しく話すこと。明確な目標を持つこと。事前に参加者をリサーチすること。必要なら(関係者に)紹介をお願いすること」などを例に挙げた。

Sarun Pinyarat

印象的だったのは、「求められるアーティスト像」について話が及んだときに、同氏が「キュレーションはますますニッチ化している」と発言したシーン。彼は「チャートタイムで私が目にしている傾向」と言及していたので、必ずしもタイに限った話ではないと思われる。

続けて、「大衆向けにアピールしようとするアーティストは減少し、小さな市場をターゲットにしてユニークで特徴的なスタイルに注力するミュージシャンが増えています」と述べた。

Kaushik Dutta

シーンを描くフェスティバルの力、キュレーションの舞台裏とその戦略

続いて行われたセッションでは、2人のフェスティバル主催者──インドネシア『Java Jazz Festival』からDewi Gontha氏が、チェコ『Colours of Ostrava』からFilip Košťálek氏が登壇。「シーンを描くフェスティバルの力」をテーマに、キュレーションにまつわる戦略が語られた。

Košťálek氏はブッキングする側の人間として「年間で12本のフェスティバルに参加し、ショーケースなどで200公演ほどを観る」という。『Java Jazz Festival』は20年にわたって世界中からアーティストを招聘し、現在のステージ数は11を誇る。両者には長い歴史と膨大な知識が堆積している。

Filip Košťálek

Košťálek氏はアーティストにとって「ストーリーが重要だ」と指摘する。

「たとえば¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uがそうですよね。天才的なセンスとスキルで大いに話題を呼んでいますが、彼が持つ物語もブレイクの助けになったと思います。脳腫瘍の克服から一念発起して仕事を辞め、専業DJとして才能を開花させた。彼のDJプレイが素晴らしいのは言わずもがなですが、その裏にあるストーリーも人々を惹きつける要因のひとつだと考えています」

また、Gontha氏は未知のアーティストにどう可能性を見出すかについて言及した。「悪意はありませんが、私はMVの類を送られてきても多くの場合は観ません。MVはアーティストの音楽性を教えてくれますが、ライブパフォーマンスを示すものではありません。基本的にビデオクリップは編集されたもので、私はよりライブ映像を好みます。フェスを運営する身として、その点が非常に重要です」

フェスやパーティの普遍的なテーマとして、まさに新人アーティストをどうブッキングするかは古今東西に存在しているが、ここではそのヒントがいくつか例示された。

ジャズを冠したフェスを主催するなど、ある程度専門的にジャンルを扱うGontha氏は、ある意味で原始的な方法でアーティストを発見している。「私はよく人のおすすめに従います。信頼できる友人たちも私の好みをある程度把握しているので、そこから新しい情報を得ることが多いです。時にはメール1000通以上にのぼることもあり、キュレーションには時間がかかりますが、やはり確度は高いです」

Dewi Gontha

Košťálek氏もまた、アナログな方法論を実践しているようだ。「資料も重要ですが、実際にそのアーティストのパフォーマンスを体験することでより様々なことがわかります」と述べた上で、以下のように語った。

「私が¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uを知ったのは2024年の『Sónar』(スペイン・バルセロナ)です。ビッグネームも数多く出演していましたが、私にとってのベストアクトは彼でした。『一体彼は誰なんだ?』と思い、その場ですぐに連絡先を探っていたら、自分の後ろにマネージャーがいました。そこで交渉を始め、彼をブッキングしたんです。彼が出演した『Boiler Room』のセットが驚異的なバイラルヒットを生んだのは、それから数か月後のことです」

ニューカマーを何度もブッキングしてきた『Java Jazz Festival』の立場から、Gontha氏はバランスの重要性を強調した。

「私たちのフェスティバルのように、商業的にも大きな成功を収めたビッグネームもラインナップに連ねるイベントは、新しい才能に活躍の場を与えることができます。そうやって持続可能性を担保し、いいサイクルを生もうと努力しています」

同フェスのステージでは、IncognitoやMarcus Miller、Chaka Khanらレジェンドが素晴らしいパフォーマンスを披露しており、Bob James Quartetのライブ映像(2013年5月公開)に至ってはYouTube上で2100万再生を超えている。

ローカルからグローバルへ、海外進出のためのマインドセット

DAY1最後のトークセッションでは、『Budapest Ritmo』のBalázs Weyer氏、『RISING』のキュレーターを務めるHayley Percy氏、『She Arts Festival』の創設者であるNeveen Kenawy氏が登壇。テーマは「ローカルからグローバルへ」、アーティストが海外に進出する際のマインドセットの知見が共有された。

Weyer氏は前提として「自分が何を求めているのかをはっきりさせる必要がある」と述べ、全世界を一度に狙うのではなく、特定の地域に的を絞るべきだと指摘した。これは、この日1発目に行われたセッション「ショーケースフェスティバルの価値と可能性」にて、タイ出身のPinyarat氏による「小さな市場をターゲットにし、ユニークで特徴的なスタイルに注力するミュージシャンが増えている」という指摘に通じるものがある。ヨーロッパとアジアは文化も言語も異なるが、現状認識として重なる部分があるのは興味深い。

Balázs Weyer

日本と同じ課題を抱えているのはオーストラリアかもしれない。Percy氏は「オーストラリアはすべての国と地域から大きく離れており、国際的なリレーションは自国のビッグネームの活躍度合いにかかっている」と述べた。

また、エジプトで活動するKenawy氏は文化間の隔たりについて課題を感じているようだ。彼女は「エジプトは安全で、あなたが望むことは何でもできる」と前置きした上で以下のように語る。

「ただし、フェスティバルやライブ会場内では飲酒は許可されていません。ビールやワインを求めるアーティストも多いのですが、その度に丁重にお断りしています。理解を示してくれるアーティストも多いですが、中には強く主張される方もいました。そういった経験から、相互理解の必要性を感じています」

Neveen Kenawy

Percy氏はオーストラリアの課題に対して、「国際的なネットワークを持つブッキングエージェントやマネージャー、プロモーターとのつながりが重要である」と前提を述べた上で、次のように語る。

「レーベルや代理人との契約上難しいケースがあることは承知していますが、アーティストにはメディアへの露出に積極的になってほしいです。すべてのアーティストのブランディングを尊重しますが、ある程度露出があると私たちの仕事も格段にやりやすくなります。私たちは優れたPRチームを持っていますし、ラジオ、新聞、テレビなど多様なメディアと組んで露出を増やすことができます。特にオーストラリアのような地域では、全国的な露出にマーケティングやメディアの役割が非常に大きく、この点は非常に重要なんです」

島国の日本にも共通する課題があるように見え、オーストラリアの音楽シーンからの問題提起には多くのヒントが横たわっているように感じられた。

Hayley Percy

また、この日のカンファレンスの共通項としてもう1点、Weyer氏もまた「物語」の重要性を説いた。

「私は主にニッチなジャンルで活動してきました。これらのジャンルでは、グローバルな視点もまたニッチなものです。しかし、日本からヨーロッパに来る際には気をつけるべきことがあります。たとえば、日本の音楽はヨーロッパではエキゾチックと捉えられることが多いですが、それは必ずしも不利なことではありません。むしろ、人々が『違い』を求めているため、それこそがあなたに興味を持つ理由にもなっています。自分のストーリーをきちんと伝えられることが必要なんです」

※DAY2編に続く

【イベント情報】


『SYNCHRONICITY’26』
日程:2026年4月11日(土)、12日(日)
会場:Spotify O-EAST / Spotify O-WEST / Spotify O-nest / duo MUSIC EXCHANGE / clubasia / LOFT9 Shibuya / SHIBUYA CLUB QUATTRO / Veats Shibuya / WWW / WWW X / TOKIO TOKYO 他

主催:SYNCHRONICITY’26実行委員会

SYNCHRONICITY オフィシャルサイト

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『CUEW Showcase & Conference』
日程:2026年4月9日(木)、10日(金)

主催:CUEW実行委員会

CUEW オフィシャルサイト

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