2025年9月25日発売のForbes JAPAN11月号は、「カルチャープレナー」特集だ。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家たちを30人選出。その多彩な事業や取り組みを紹介していく。

これまでの受賞者には、茶人の精神性を軸にお茶事業を世界に拡大し続けるTeaRoomの岩本涼や、盆栽プロデュースでラグジュアリーブランドともコラボする「TRADMAN’S BONSAI」の小島鉄平、障害のある「異彩作家」たちが生み出すアートを軸にビジネスを展開するヘラルボニー(松田崇弥、松田文登)などが顔を揃える。

3回目となった今回は、伝統文化からアニメやAIまで、さらにプロデューサーやコネクターも含む多彩な顔ぶれが揃った。

表紙を飾ったのは、受賞者の一人であり、映画『国宝』で舞踊家・吾妻徳陽として所作指導を担当した歌舞伎俳優の中村壱太郎と、カルチャープレナーのさきがけ的存在である細尾真孝だ。二人の対談をお届けする。

西陣織の老舗「細尾」の12代目で、「HOSOO」ブランドを世界のラグジュアリー市場に展開する細尾真孝。人間国宝の坂田藤十郎を祖父にもち、父は中村鴈治郎、母は日本舞踊家の吾妻徳穂という古典芸能のサラブレッドでありながら、ART歌舞伎で新境地を切り開く中村壱太郎。共通点は、伝統文化に革新を起こして新たな市場を創造していることだ。伝統が重んじられる世界でイノベーターになるには何が必要なのか。

──映画『国宝』では吾妻徳陽の名前でどの部分を所作指導されたのですか?

中村壱太郎(以下、壱太郎):私の父の鴈治郎が歌舞伎全体の監修(及び、吾妻千五郎役)を行い、私は女方の所作ということでお声がけをいただき、『曽根崎心中』を担当いたしました。

細尾真孝(以下、細尾):あの映画は本当に素晴らしく、日本文化を題材にしたものが、こんなに多くの人の心に刺さるというのは勇気づけられました。

壱太郎:『国宝』のポスターにも驚かされました。演目「二人道成寺」には二人が向かい合う場面はありません。しかし、ポスターは左右対称(のユニークな発想)になっています。また、3時間という長い時間、映画館の椅子で釘づけにさせてしまうものが生まれたことも、大きな意味をもつ素晴らしさだと思います。

──興行的な大成功を見せる一方で、伝統文化のなかには経済面から継承が危ぶまれているものもあります。おふたりの領域の現状は?

細尾:西陣織は1200年の歴史があります。私が幼いころは、まだ機の音が夜中まで鳴り続けていましたが、40年でマーケットは10分の1になりました。

今では伝統工芸はクリエイティブ産業だと確信していますが、当時は同じことを変えずにやり続けるコンサバティブな産業に見えて継ぐ気はありませんでした。

壱太郎:共感するところばかりです。歌舞伎は400年の歴史がありますが、興行収入だけでは難しい時代が来ています。舞踊はもっと退潮が激しい。私も和楽器や板を踏む音を聞いて大きくなりましたが、最盛期に6000人いた日本舞踊協会は会員数が半減し、日本舞踊の公演も減少傾向にあります。

中村壱太郎◎1990年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。95年に初舞台を踏み、近年では『金閣寺』の雪姫、『吉田屋』の夕霧など大役を務める。女方を中心に歌舞伎の舞台に立つ一方、活躍の幅を広げている。 中村壱太郎◎1990年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。95年に初舞台を踏み、近年では『金閣寺』の雪姫、『吉田屋』の夕霧など大役を務める。女方を中心に歌舞伎の舞台に立つ一方、活躍の幅を広げている。

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