初版では書籍の原価はほぼ回収できない(写真:Leka Sergeeva/shutterstock)

 書店や読書人口の減少と読書離れのニュースが報じられる一方で、本を出版したいとエージェントの門を叩く人は増えている。いま出版エージェント界隈ではどのような変化が起きているのか。1500冊以上の出版企画に携わり、数々のベストセラーを生み出してきた作家のエージェント・鬼塚忠氏が語る。

※本書は『最強の出版バイブル』(KADOKAWA)の一部を抜粋・編集しています。

出版社は株式会社、きれいごとは建前

 現場の書籍編集者は、よく著者に「いい本を作りましょう」と言います。もちろんそういう気持ちは心の中にあることにはあると思いますが、それが最優先事項とは限りません。いい本を出すことより、売ることが重要視されているからです。

 出版社の多くは株式会社です。出版は文化の一翼を担っていると言われますが、ボランティアで本を出しているわけでは当然なく、株式会社なので、大学出版局などある程度利益を度外視できる版元を除き、毎年、利益を出し続けなければ存続できません。

 そのために出版社の経営者は利益を出すことが必須とされ、編集者や社員にも多少なりとも重圧がかかります。

 帝国データバンクの発表によると、2023年度決算の損益状況が判明した出版社675社のうち、36.6%にあたる247社が「赤字」となり、前年度から「減益」(29.5%)となった企業を合わせた「業績悪化」の割合は66.1%に達しています。これは、過去20年で最悪の数字です。かといって来年はよくなるだろうと期待できるわけではなく、低迷する状況は変わらないでしょう。

 出版関係者と取引をしていると、「○○社は危ない」という話をたまに聞きます。そして、それは噂にとどまらず、実際にそうなることもあります。

 数年前も、ある出版社の支払いが滞り、危ないと思ったときにはすでに遅く、倒産の通知が来て、結局、債権となる印税の支払いはされませんでした。実はこういう倒産はよくありますが、たいていの場合は、そういう状況に陥る前に同業者であれ他業務の第三者であれ、会社を買収するなどして救済される場合が多いです。

 必ずというわけではありませんが、出版社名によく「○○新社」という社名が付けられています。これは主要株主が変わり、前の会社から一新したという意味でそう名付けられることが少なくありません。

 先日もある出版社の編集者から、「ここ数年赤字が続き、給与が一律20%カットされることになったので、転職を考えています。いい話があったら教えてください」と言われ、実際にその後、私の紹介ではないですが、同じ規模の出版社に転職していきました。編集の仕事内容はどこに行ってもほぼ同じなので、編集者の転職は多いのです。

 世間的には「あのベストセラーを出した出版社なのに利益は出ていなかったの?」と思われるような会社だったので、びっくりしました。

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