第2回大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤の同名小説を、プロデューサー集団「THE SEVEN」が初の劇場作品として映画化した『愚か者の身分』(10月24日公開)。本作の公開直前イベントが10月13日に東京・月島のブロードメディアスタジオ試写室で開催され、北村匠海と林裕太、メガホンをとった永田琴監督が登壇し、会場に集まったZ世代の観客たちとのQ&Aに臨んだ。
貧しさから“闇ビジネス”の世界に足を踏み入れてしまい、抜け出せなくなった3人の若者たちの3日間を描いた本作。SNSで女性を装い、身寄りのない男性たちから個人情報を引き出して戸籍売買をおこなっていたタクヤ(北村)とマモル(林)。気付けば闇バイト組織の手先となっていた2人は、兄貴的存在の梶谷(綾野剛)の手を借りて、この世界から抜け出そうとするのだが…。
イベント前に行われた本編の上映は朝9時にスタートしたとあって、北村は登壇するや「朝からこんなヘビーな映画を…。大丈夫ですか?元気ですか?」と観客のメンタルを気遣いながら挨拶。「いろいろなお話ができれば」とQ&Aでの対話に期待を寄せる。
闇ビジネスの世界から抜け出そうとするタクヤを演じた北村匠海[c]2025映画「愚か者の身分」製作委員会
さっそくQ&Aが始まると、最初の質問は「先輩・後輩との関係性を築くうえで心掛けていることは?」。北村は「似た者同士は惹かれあうようにできていると最近感じる。自分の好きなものや得意としているものをまっすぐ伸ばしてみると、自ずと同じ道を歩んできた先輩や、これから歩むであろう後輩が自然とできてくる」と回答し、実体験を交えながら「好きなものを信じてまっすぐに伸ばすのは、人との関係を作るうえで自分の助けになる」と熱弁。
一方で林は「ピュアでいること」を大切にしていると明かし、「先輩や後輩とこうありたいという作為的なものではなく、自分は好きだからこの人と一緒にいたいというシンプルな感情を伝えて行動する。その純情さは相手に伝わる。そのやりとりと自分の気持ちを大切にする」と語る。それには公私共に交流のある北村からは「僕が出会ったなかで一番ピュアなのが彼(林)!」と賞嘆する一幕も。
タクヤといつも一緒の相棒であるマモルを演じた林裕太[c]2025映画「愚か者の身分」製作委員会
さらに、歌舞伎町に集う若者の生態に詳しい文筆家の佐々木チワワが来場しており、「撮影を通して歌舞伎町の特殊性を感じたか?」という質問が寄せられると、永田監督が「歌舞伎町はだいぶ変わったと思った」と回答。「近寄れない怖い空気はなくて、夜は観光客がいる。30年前に比べてある意味安全になっているけれど、若い世代にとっては危険。簡単に入れすぎて怖いと思った」と、東京在住30年としての実感を述べる。
撮影で実際に歌舞伎町に足を踏み入れた北村は「僕の目線の先でラジカセを背負った兄ちゃんが踊っていて、その周りを未成年らしき若者たちが群がって踊る。コンカフェの店員の行列もあって、カオスだな…と。まさに“特殊性”という言葉が当てはまる場所だと思った」と振り返り、「視点を変えれば誰かにとっては天国だし、誰かにとっては地獄にもなる。その混沌を肌で感じました」と歌舞伎町で受けた衝撃を口にする。
【写真を見る】北村匠海、林裕太がZ世代の観客たちにエール!「生きる理由を探せる映画になってもらえたら」[c]2025映画「愚か者の身分」製作委員会
同じく林も「どういう事情があるのかはわからないけれど、そこで生きている人たちは楽しそうだし、生きがいのような場所になっているのだろうなと思う。裏路地に入ると薄暗い、気味の悪い感じもして、ここに若い人たちがいていいのだろうかという場所もあった。いろいろな人の目が入り混じった街なのかなと。でも、そこで生きている人たちは必死に生きているだけだろうし、そこは否定も肯定もできないと思いました」と語った。
最後に北村は「皆さんにとって、いまを生きる理由を探せる映画になってもらえたらうれしいです。生きることが大変になっている世の中ですが、自分を、自分の隣にいる人を信じて生きてほしいです」とZ世代の観客たちに呼びかけ、林も「勇気ある一歩を踏み出すのが大切で、本作はそれを伝えている映画です」とアピール。
メガホンをとったのは、岩井俊二作品の助監督を務めてきた永田琴監督[c]2025映画「愚か者の身分」製作委員会
永田監督も「SNSの時代なので、そこでなにかを話せることがすべてになりつつあるけれど、対面の大切さもある。それを感じながら、友人や親に接していただきたいです」と、本作に込めたメッセージをあらためて伝えていた。
文/久保田 和馬