撮影・倉田貴志
日本国内以上に、世界で売れて読まれている小説だ。『BUTTER』は去年英国で翻訳出版されると熱狂的な人気を博し、英国の大手書店チェーンが選ぶ「Book of the Year 2024」など三つの賞を受賞した。国内でも累計40万部を突破し、世界累計では110万部に。37か国での翻訳出版も決定した。
『BUTTER』 柚木麻子/著、新潮文庫、1045円
『BUTTER』は実在の殺人事件が題材だ。男性から財産を奪い、殺害した容疑で女性が逮捕された。彼女が若くも美しくもなかったことから、事件は世間をにぎわせる。雑誌記者の主人公の女性は容疑者と接触を試みる。食に強いこだわりがあり、欲望に忠実な彼女の言動に触れるうち、主人公は内面も外見も変わっていく――。
主人公が容疑者や恋人などと接する場面に、ジェンダー不平等などへの風刺や批判が含まれる。でも、最初から社会批判を目指して小説を書き始めたわけではない。
「執筆はいつも日常からスタートしています」。自身も料理が好きなことが、『BUTTER』の執筆につながった。モデルとなった事件の容疑者は料理好きで、プロを養成する教室に通っていた。なのに報道では「男性の胃袋をつかむため」と扱われ疑問を抱いた。「女性が料理を勉強するのは男性のため」という思い込みがメディアにあったのではと考え、メディアで働く主人公にした。
デビューから一貫してシスターフッド(女性同士の連帯や友情)が題材だ。日本では文学に社会批判や政治主張を盛り込むことにネガティブな反応があり、編集者から「恋愛もの」を求められることもあったという。「『文学と政治は切り離してほしい。疲れちゃうし』と言われて、そうか、と思いましたが、社会に疑問がないタイプはなかなか小説が書けないと思う」。読み手を楽しませながら、社会にも挑む。勇気の向こう側にできた物語が、文化や言葉の違う人々の心も動かしている。(小貫友里)
英国の書店では、ショーウインドウに『BUTTER』が展開されていました 新潮社提供
1981年生まれ。東京都出身。2010年作家デビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。『BUTTER』が英国で、「The British Book Awards 2025」Debut Fiction部門など3冠。今年7月から、朝日新聞で小説「あおぞら」を連載中。
中高生時代は未来への「滑走路」。各界の「花道」をゆく人が4週連続で登場し、エールを送ります。
(朝日中高生新聞2025年8月31日号)
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