台湾の名作ラブストーリーを韓国でリメイクした映画『君の声を聴かせて』が、現在公開中だ。やりたいことが見つからずに立ち止まっていた主人公が、手話を通じてある女性と心を近づけていく姿を描く本作。韓国で注目を集める3人の最旬俳優が集結し、青春の輝きを体現。誰かに恋するピュアな気持ちや、思いやりとやさしさがスクリーンの隅々まで染み渡るような作品に仕上がった。MOVIE WALKER PRESSでは、来日したチョ・ソンホ監督にインタビューを敢行。チョ・ソンホ監督が、これ以上にないハマり役としてメインキャラクターを演じたホン・ギョン、ノ・ユンソ、キム・ミンジュの魅力や、本作に込めた「夢を持つことの大切さ」についての想いを明かした。
■「運命的なキャスティングが実現した」「誰かを愛することが夢になってもいい」チョ・ソンホ監督が温かなメッセージを贈った / 撮影/成田おり枝
大学を卒業したもののやりたいことが見つからず、就職する気になれないヨンジュン。両親が営む弁当屋の配達を手伝うはめになった彼は、配達先のプールでヨルムに出会う。聴覚障がい者の水泳グループに所属する妹ガウルの練習を手伝っていたヨルムに一目惚れしたヨンジュンは、大学時代に習った手話を駆使してなんとか友だちになろうと必死になり、次第にヨルムも彼がくれる楽しさと安らぎに心を開いていくが、そのころガウルにとって選手生命の危機となる悲劇が起きる。誰かに恋するピュアな気持ちや、思いやりとやさしさがギュッと詰まった映画『君の声を聴かせて』 / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
もとになった台湾映画『聴説』について、「純粋な初恋が描かれていた。自分自身の初恋を思い出すような作品でもあった」と感想を明かしたチョ・ソンホ監督。名作をリメイクするにあたって、「初恋というのは、誰にとっても青春の輝ける時。自分の思い出や感性も注ぎ込みながら、作品に向き合いたいと思っていた」と回顧。最も大切にしていたのは、ろう者の登場人物を描きつつも「そこにフォーカスを当てるのではなく、人と人のつながりを描きたい」ということ。「ろう者であろうと聴者であろうと区別せずに、人と人の間に生まれる感情を描きたいと思っていました。私たちの世代であれば、昔を懐かしく思い出すような映画。いま恋をしている人たちにとっては、ときめきを感じてもらえるような初恋を表現したいと思っていました」と打ち明ける。ノ・ユンソは本作の演技で、第61回百想芸術大賞の映画部門新人演技賞を受賞した / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
その言葉通り、誰もがこの世界で同じように悩んだり、ときめいたりしながら一生懸命に生きている姿が映しだされる。メインキャラクターとなるヨンジュン(ホン・ギョン)、ヨルム(ノ・ユンソ)、ガウル(キム・ミンジュ)には、ぴったりの配役が叶った。観客にとって愛すべきキャラクターを演じた3人を見つけるまでには、どのような経緯があったのだろうか。【写真を見る】元IZ*ONEのキム・ミンジュが、聴覚障がい者ながら水泳のオリンピック代表を目指すガウルの笑顔もまぶしい! / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
チョ・ソンホ監督は、「演じるキャラクターと俳優の年齢は、同じくらいの方がいいなと思っていました。その年齢の時に持っている感情を、うまく表現してくれるはずですから。そんなことを考えながら資料を見ていたところ、頭のなかで思い描いていたキャラクターと似ている3人を見つけることができました。実際に会うことになって、彼らがドアを開けて入ってきた瞬間に『ヨンジュンが来た!』『ヨルムが来た!』『ガウルが来た!』とすぐに確信できたんです」とにっこり。「またこれはあとで知ったことなんですが、私の周囲でも、この3人をキャスティングして作品を作りたかったと言っていた人がいたんです。でも3人はこちらを選んでくれたんですね。本当に幸運なことです。撮り終えたいま、運命的なキャスティングだったなと感じています」と喜びを噛み締める。
■「俳優たちは、手話を一緒に学ぶことで距離を縮めた」
劇中で3人のキャラクターが生き生きと躍動している秘密について聞いてみると、チョ・ソンホ監督は「役者には『自分たちの持ち味を出していいですよ』とお話しした」と演出術を明かす。ホン・ギョンが、ヨンジュンをハマり役として演じている / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
ドラマ「弱いヒーロー Class1」などで知られるホン・ギョンについては、「落ち着いていて、いろいろなことに考えを巡らせることができるとても思慮深い方。彼のそういった一面が、ヨンジュンに注ぎ込まれた」と語るチョ・ソンホ監督。さらにドラマ「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」などで注目を集めたノ・ユンソについて、「賢く、きめ細やかなところのある方。相手を気遣いつつ、自分のやりたいことを見つけていくという真っ直ぐさも、ヨルムと重なります」と続け、元IZ*ONEのキム・ミンジュは「堂々としていて、エネルギーに満ちあふれている。それがガウルに見事に反映された」とキャラクターと役者の個性が見事にリンクしたことで、映画に特別なパワーがもたらされたという。 キャスト陣が、キャラクターの生活や感情まで伝わるような手話を披露している / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
3人の俳優はクランクインの数か月前から手話を学び、キャラクターの日常や感情まで伝わるような手話を披露している。チョ・ソンホ監督は彼らの努力を称えながら、「俳優というのはもともと手や表情、身体など全身を使って感情を伝えることに長けている人たちでもあります。俳優たちは、手話を一緒に学ぶことで自分たち自身も距離を縮め、その時間を役作りに活かすこともできたと言っていました」と俳優たちが楽しみながらチャレンジをしてくれたと、感謝を込める。
妹のことを優先して、自分をないがしろにしてしまうヨルム。そんな彼女を、温かく包み込もうとするヨンジュン。2人の恋が、キラキラとしたまぶしさを感じるものとして描かれている。彼らの一途な恋心にキュンとして、お気に入りのシーンが生まれるような映画だ。撮影現場ではチョ・ソンホ監督もホン・ギョンとノ・ユンソの巻き起こす化学反応に大いに胸を打たれたとのこと。ヨンジュンが、プールで想いを打ち明けるシーンもグッとくる! / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
「ヨンジュンとヨルムが初めて顔を合わせるシーンを撮影していた時には、向き合っている2人を見た瞬間に『この2人はお似合いだ』と実感しました。また彼らが『得意なことがない』『やりたいことがわからない』と語り合う場面では、ヨルムが『友だちになってくれてありがとう』と手話でヨンジュンに感謝を伝えます。この時の2人の表情はどこか似ているようなところもあり、とてもいい関係性を表現できたシーンになりました。そして、プールの告白のシーンもとても印象深いです。ヨルムが振り向いて、ヨンジュンと目を合わせた瞬間のお互いの表情。そこで、ヨンジュンとヨルムの気持ちを100パーセント映し出すことができたと感じています。そんな場面を撮ることができて、私自身とても幸福を感じました」と数々の名シーンを挙げながら、感無量の面持ちを見せる。
■「誰かを愛することが自分の夢になってもいい」
やりたいことが見つからないヨンジュンをはじめ、将来に悩むキャラクターを通して、自分の夢を追うことの大切さや美しさも浮かび上がる。チョ・ソンホ監督が映像作家になるという夢を見つけたのは、「とても遅い時期だった」と告白する。自分の夢について語り合う2人。美しい世界の光が、彼らの恋と未来を包み込む / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
「高校を卒業してから、ある大学の経営学科に入学をして。その当時は、『自分はなにをしたいのだろう』『どうするべきなのか』とあれこれ悩んだりしていました。次第に自分の考えや感情を映画にして表現したいという想いが生まれてきて、思い切って経営学科を辞めて、映画学科に入り直したんです。そこからまた『伝えたいことを映画にするにはどうしたらいいのだろうか』という努力が始まり、そういった意味では映画を作り続けているいまもまだ、夢を追いかけている真っ最中なんですね」と目尻を下げる。「夢を持つことはとても大事」と語るチョ・ソンホ監督 / 撮影/成田おり枝
ヨンジュンと同じように、迷いながら歩むべき道を見つけてきた。チョ・ソンホ監督は、「夢を見つけたり、追いかけたりすることに、年齢は関係ないと思っています。ただ間違いなく言えるのは、人生においていくつになっても夢を持つことはとても大事だということ。本作には、そういった想いも込めています」と吐露。「失敗したって問題ない。ヨンジュンのように、誰かを愛することが自分の夢になってもいいと思います。そしてその成果を誰にも知られなかったとしても、夢を見つけようとするプロセスや、それに向かって努力をすること自体が大事。ヨンジュンとヨルムのときめくような初恋を目にしながら、皆さんの夢についても考えていただけたらこんなにうれしいことはない」という監督の実体験に基づくエールは、本作により温かみと力強さを加えている。2人の恋を応援したくなるようなラブストーリーとして完成している / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
映画を作り続けることが、自らの夢だというチョ・ソンホ監督。本作では手話を使いながら、登場人物たちの感情を表現するという新たな領域に足を踏み入れ、たくさんの発見があったとも。あらゆる心情を物語る、まなざしにも注目だ / [c] 2024 KC Ventures Co.,Ltd & PLUS M ENTERTAINMENT & MOVIEROCK Inc., All Rights Reserved
「手話は、手を使った言語です。とはいえ、ろう者の方とお話をさせていただくと、手の動きは30パーセントくらい。残りの70パーセントくらいは目や身体の動きで、自分の想いを相手に伝えているそうなんです。本作でも彼らの感情に注目をするために、後半に向かうに連れて手の動き以上に、顔のクローズアップを多用して、彼らの眼差しや目の動きを見せています」と秘話を口にしながら、「彼らの感情をしっかりと伝えることで、観客が『手話を習ってみたい』『ろう者の方とお話をしてみたい』と思ってくれたらいいなという気持ちもありました。韓国の上映時には、実際にそういった感想をくれた方もいて、気持ちが伝わったんだとうれしく思っています」と穏やかな笑顔で語っていた。
取材・文/成田おり枝