
NHK連続テレビ小説『あんぱん』が半年間の放送を終えた。視聴率面では大成功を収めた。
歴代最低だった前作『おむすび』の全回平均視聴率が個人7.4%(世帯13.1%)だったのに対し、『あんぱん』は9月第3週の終了時点で個人約9.0%(世帯約16.1%)。関東地方だけで視聴者が1日当たり104万人も増えた(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
最後まで視聴者を飽きさせなかった物語の「密度の高さ」
高視聴率は不思議ではない。子役たちが活躍した序盤から見応えがあった。
1927(昭和2)年だった第2回、東京から高知県御免与町へ転校してきた柳井嵩(幼少期は木村優来)が、田川岩男(濱尾ノリタカ)ら地元の子にいじめられる姿は、あの時代を知らなくても現実味を感じた。説得力があった。嵩のモデルはやなせたかしさんだ。

ギャラリーページへ
朝ドラだけで『オードリー』(2000年度後期)など5本も撮り、大山勝美賞など数々の賞を受けている名匠・柳川強氏(61)らの演出が冴えていた。やなせさんの妻・暢さんをモデルとするのぶ(幼少期は永瀬ゆずな)が疾走する高知の田園風景も美しかった。ロケハンが十分に出来ていたからだ。シーソーの場面もよく考えられていた。
のぶと嵩がシーソーに隣り合わせに座ることが多かったから、2人とも視聴者に顔が向く。笑顔も泣き顔も分かった。また相手を励ます側の顔の位置が、しょげている側より高くなるという工夫もあった。
朝ドラの1回15分は、正味約45分である民放1時間ドラマの約3分の1。思いのほか長い。飽きられてしまい、途中で視聴率が落ちていく作品もある。だが、中園ミホ氏(66)の脚本による『あんぱん』はそれが最後までなかった。密度が高いからだ。これも好評を博した理由にほかならない。