第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞で大賞を受賞した小説を『空飛ぶタイヤ』(18)、『シャイロックの子供たち』(23)などの本木克英監督が映画化した『火喰鳥を、喰う』(10月3日公開)。生への執着が込められた“死者の日記”が届いたことをきっかけに、幸せな夫婦が不可解な出来事に巻き込まれていく姿が描かれる。MOVIE WALKER PRESSでは原作者・原浩の登壇付き試写会を実施。そこで参加者から寄せられた感想と共に、本作の魅力に迫っていく。
■戦地で命尽き果てた、先祖が遺した日記が巻き起こす怪異…
久喜雄司(水上恒司)とその妻、夕里子(山下美月)はある日、一家代々の墓石から太平洋戦争で戦死した先祖、久喜貞市(小野塚勇人)の名が削られていることに気がつく。時を同じくして、地元紙の記者とカメラマンによって、生前の貞市が書いたという日記が久喜家に届けられる。日記には、戦地での壮絶な日々と、なにがなんでも生きたいという貞市の執念が綴られており、最後のページには「ヒクイドリ、クイタイ」という言葉が書かれていた。その日を境に、夫婦の周辺では不穏な事件が頻発するようになり、困った2人は、夕里子の知人で超常現象専門家である北斗総一郎(宮舘涼太)のもとを訪ねるのだが…。
久喜家に先祖、貞市の日記が届けられる / [c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
■「ドロドロした人間の醜さ」「独占欲の強さが狂気的だった」…一人ひとりが不穏な登場人物たち
水上恒司と山下美月が次々と起こる不可解な出来事に襲われる雄司と夕里子を演じ、どこか怪しげな超常現象専門家の北斗をSnow Manの宮舘涼太が怪演する。まずは、物語の軸となるこの3人のキャラクターや立ち位置を感想コメントとあわせて紹介したい。
『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23)、『本心』(24)、『九龍ジェネリックロマンス』(25)などに出演し、人気漫画を実写化する主演作『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』(12月5日公開)も控えている水上。本作で演じた雄司は化学を教える大学助教授という役どころで、普段は冷静だが虫が苦手という弱点も。夕里子の幸せを願い大切に想っているが、自身の先祖にまつわる怪異に彼女と共に翻弄され、悪夢にうなされ思わぬ脅威にも直面する。
「一つひとつの行動やセリフから夕里子を守りたいと伝わってきて、応援していた」(20代・男性)
「夕里子に対する優し気な笑顔と事件が起きた時の戸惑いの表情、怒りの表情など変化が感じられてよかった」(40代・男性)
「話が進むにつれてドロドロとした人間の醜さが出てきて、人間の恐ろしさを感じられた」(20代・女性)
化学を教える大学助教授で虫が苦手な久喜雄司 / [c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
夕里子役の山下もまた、元乃木坂46のメンバーで、俳優業では連続テレビ小説「舞いあがれ!」、『六人の嘘つきな大学生』(24)、ドラマ「御曹司に恋はムズすぎる」、さらに主演作『山田くんとLv999の恋をする』(25)も公開されるなど多方面で活躍中。大学の事務員として勤務する夕里子は聡明だがどこか影のある人物で、怪異に巻き込まれたことから彼女の運命も大きく変わっていくことに。高校時代の天文学部の後輩でもあった雄司を信頼しているようで、その内にはなにかをひた隠しにしているようなミステリアスさが山下にとっての新境地ともいえる。
「ミステリアスな演技と美しさがよかった」(20代・女性)
「不気味な雰囲気がよかった」(30代・男性)
雄司の高校時代の先輩でもある妻の夕里子 / [c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
本作のキーパーソンである北斗役を務めた宮舘。『映画 少年たち』(19)でも本木監督とタッグを組み、映画『おそ松さん』(22)のほかバラエティ番組からドラマ、ソロ曲でのパフォーマンスなどの個人活動と幅広いフィールドで活躍してきたが、単独での映画出演は今回が初めて。北斗は夕里子の大学の先輩であり共通の苦悩を抱えていたことから、かつては深い絆で結ばれてもいた。しかし現在は、夕里子が北斗を嫌悪している一方で、北斗自身は彼女に並々ならぬ執着心を抱いており、怪異の相談に乗ったのも彼なりの考えに起因している。
「独占欲の強さが伝わってきて、狂気的だった」(20代・男性)
「胡散臭さが出ていてよかった」(20代・女性)
【写真を見る】Snow Manの宮舘涼太が快演!超常現象専門家の北斗総一郎を演じる / [c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
3人以外にも「一番怖かった人物」として名前の挙がる登場人物が。戦地のジャングルでその最期の瞬間まで“生”への異常なまでの執着を日記に書き綴っていた、事件の元凶ともいえる貞市に「生への執着が伝わってきて、なんとしても生きようとする気迫が人間としての怖さを感じた」(20代・男性)、日記に精神を蝕まれるカメラマンの玄田誠にも「スイカを食べるシーンが最後まで頭に残った。カトウシンスケさんはああいう役を演じたらピカイチ」(40代・男性)といった賛辞が寄せられている。
■「ホラーだと思っていたらミステリー、そしてSF」…物語がどこへ向かって進むのか最後の最後までわからない
冒頭から墓石に記された貞市の名前が削られている不穏な光景から始まる本作。日記が雄司たちのもとに届けられたことを機に、玄田が「久喜貞市は生きている」と呟き、夕里子の弟、亮(豊田裕大)も日記に「ヒクイドリヲ クウ ビミナリ」と書き込むなど正気を失う者が続出。貞市と同じ部隊に属し、復員した元兵士の自宅で火事が起こり、貞市の弟で雄司の祖父でもある保(吉澤健)が失踪するなど次々と不可解な出来事が巻き起こる。
「ホラーだと思っていたらミステリー、SFになり…」(20代・男性)
「オカルティックでミステリアス。“生”と“生に対する諦め”が出ていて非常によかった」(20代・女性)
上記のコメントが示すように、貞市と日記をめぐるミステリーが繰り広げられるなか、雄司たちをじわじわと追い詰めていくホラー要素も絡んでくる。さらに、わざと焦点をぼやかさしているのか、人を煙に巻いた言動をする北斗の存在が状況をややこしくし、物語がどこへ向かって進んでいくのか最後の最後までまったくわからない。そもそも“ヒクイドリ”とはなにを指しているのか?信じていた目の前の現実まで歪めてしまう展開の連続に、登場人物だけでなく観ている者まで振り回されてしまうのだ。
日記には、戦地での壮絶な日々となにがなんでも生きたいという貞市の執念が綴られていた / [c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
■「小説家が物語をどう構築していくのかを聞けた貴重な経験」…原作者の言葉で深まる作品への理解
前述した通り、今回の試写会には原作者の原浩が登壇。そのトークイベントでは、実は横溝正史ミステリー&ホラー大賞を受賞した時点での雄司と夕里子は夫婦ではなく(雄司にとっての兄嫁)、書籍刊行にあたって関係性を再構築したという初出の情報も飛びだした。また、本作を10歳の娘と共に完成披露試写会で鑑賞し、「おもしろかったよ」と褒められたこと、“火喰い鳥”が“生きたいという執念”や“作品の法則を司る象徴”であることを明かしたほか、映画では北斗役の宮舘が印象に残っており、「胡散臭さが想像の2つ3つ上をいっていた」、「立ち居振る舞いが非常に優雅」と語った。
水上恒司と山下美月が先祖にまつわる怪異に翻弄される夫婦を体現 / [c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
こうした原の言葉に対し、原作小説を読んでいる人からは「より内容が理解できた。原作にないシーンがあり、その違いがよかった」(20代・女性)、「北斗に対する原先生の思い入れ、役割を知ることができてよかった。宮舘さんのお話を聞けたこともよかった」(40代・女性)といったコメントが。物語への理解がより深まり、映画化にあたってのアレンジにもスッと腑に落ちたようだ。
また、原作未読の人からも「叙述的な見せ方をしているということで、どのようにテキストで表現されているのか気になった」(10代・男性)、「宇宙論からこの小説が生まれたと聞き、小説家が物語をどう構築していくのかを聞けたことが貴重な経験だった」(20代・男性)、「最初は雄司と兄夫婦で構成されていたものを、登場人物が少ないほうが読みやすいだろうという理由で、雄司と兄を一人の人物にしたという話が興味深かった」(40代・男性)といった感想が寄せられるなど、原作を読んでみたくなるきっかけになったよう。
夕里子に執着する北斗に掴みかかる雄司 / [c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
■「ミステリーの範疇を超えた作品」「人間の本性と本能」…タイトル『火喰鳥を、喰う』が意味することに様々な考察が
改めて、『火喰鳥を、喰う』というタイトルについて考えてみると、これほど不気味で知的好奇心を刺激される言葉もないだろう。今回の試写会でも、タイトルの意味について様々な考察がされると共に、その奥深さをもっと大勢に知ってほしいと感じている様子が伺える。
「観たあとも不可解。だけど興奮する作品」(10代・男性)
「まったく話の流れが予測できなかった」(20代・男性)
「ミステリーの範疇を超えた作品として勧めたい」(30代・男性)
「執着。この作品全体で一人一人がなにかしらの執着を持っていた」(20代・男性)
「(『火喰鳥を、喰う』とは)雄司と夕里子、北斗を結ぶものではないだろうか」(20代・男性)
「人間の本性と本能」(30代・男性)
第40回横溝正史ミステリー&ホラー大賞で大賞を受賞した小説を映画化した『火喰鳥を、喰う』は10月3日(金)公開 / [c]2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
怪異をめぐる雄司と夕里子、北斗の運命はどのように絡み合い、いかなる結末を迎えるのか?不気味なのにどんどんスクリーンに引き込まれていく『火喰鳥を、喰う』に、没入感のある劇場空間で浸ってほしい。
文/平尾嘉浩