
(鷹橋忍:ライター)
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の放送が、2025年9月29日(月)より開始される。『ばけばけ』は、小泉セツと彼女の夫・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン/ここでは「八雲」で統一)がモデルの物語である(ドラマでは髙石あかりが演じる「松野トキ」と、トミー・ バストウが演じる「レフカダ・ヘブン」)。小泉八雲は知っていても、その妻となると、あまり馴染みがないかもしれない。そこで今回は、小泉セツの前半生を取り上げたい。
生後間もなく、稲垣家の養子に
小泉セツは慶応4年(1868)2月4日、島根県松江市南田町で生まれた。
父の小泉湊(みなと)は松江藩士。母のチエは、松江藩家老職の塩見家の娘で、セツは二人の次女である。
だが、セツは実父母に、育てられることはなかった。
なぜなら、生まれてから7日目に、松江市内中原町に住む稲垣金十郎・トミ夫妻の養女に迎えられたからだ。
稲垣家は、小泉家の遠戚にあたる。
稲垣金十郎・トミ夫妻に子がなかったため、小泉家と稲垣家の間には、「小泉家に次に子どもが生まれたら、稲垣家の養子とする」という約束が、セツが生まれる以前から交わされていたのだ。
セツの生家である小泉家は松江藩に代々仕え、禄高三百石の「上士」と呼ばれる由緒ある家柄だった。
対して、養女に入った稲垣家の家柄は、禄高百石の「並士」である。
そのため養父母の金十郎・トミは、稲垣家より格式が高い家に生まれたセツを、「オジョ(お嬢)」と呼んで慈しみ、大切に育てていく。