連続テレビ小説「あんぱん」最終回(第130話)。退院した柳井のぶ(今田美桜)は柳井嵩(北村匠海)に「アンパンマンのマーチ」を歌ってほしいとお願いし…(C)NHK
Photo By 提供写真
女優の今田美桜(28)がヒロイン、俳優の北村匠海(27)が夫役を務めたNHK連続テレビ小説「あんぱん」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は26日、本編最終回(第130回)を迎え、完結した。脚本の中園ミホ氏に最終回やラストシーンに込めた思い、作劇の舞台裏を聞いた。
<※以下、ネタバレ有>
「ドクターX~外科医・大門未知子~」シリーズなどのヒット作を放ち続ける中園氏がオリジナル脚本を手掛けた朝ドラ通算112作目。国民的アニメ「アンパンマン」を生み出した漫画家・やなせたかし氏と妻・暢さんをモデルに、戦争に翻弄されながら激動の時代を生き抜き、「逆転しない正義」にたどり着く柳井夫妻、のぶと嵩の軌跡を描いた。
最終回は、柳井のぶ(今田美桜)の手術が終わり、1週間後。柳井嵩(北村匠海)が駆けつけると、のぶのベッドは「アンパンマン」のぬいぐるみにあふれ…という展開。
退院し、自宅への帰り道。のぶは「うちがおらんなっても、大丈夫?」「うちの命、あとどればあなが?」と尋ねた。
慣れ親しんだ我が家のソファー。のぶは嵩にありったけの感謝を伝え、「アンパンマンのマーチ」を歌ってほしいとお願いした。
のぶ「ごめん、もういっぺん最初から」「嵩さんが、初めに書いた歌詞。それがいい」
嵩「ボツになった方?」「『そうだ うれしいんだ 生きるよろこび たとえ命が終(おわ)るとしても』」
のぶ「ありがとう。うち、今よう分かった。嵩さんがこの歌に込めた思い。命はいつか終わる。でもそれは、すべての終わりやのうて、受け継がれていく。アンパンマンの顔みたいに。やき、生きることは、むなしいことやないがよ。うちのこの残りの命、嵩さんにあげるきね」
「奇跡が起きたのでしょうか。それから5年間、のぶは病気がすっかり治ったかのように、元気に暮らしました」(語り・林田理沙アナウンサー)
のぶは紙芝居で「アンパンマン」の読み聞かせ。嵩が駆けつけると、子どもたちに囲まれ「アンパンマンのマーチ」をせがまれる。合唱する嵩の姿に、のぶは「アンパンマン やさしい君は 行け! みんなの夢まもるため」――。
新緑がまぶしい木々に挟まれた一本道。2人は歩きながら「嵩さん」「何、のぶちゃん」「嵩さんは、うちのアンパンマンや」「ははは」と手をつなぐ。青空にはアンパンマンの形をした雲――。
語り「アンパンマンは、今日もどこかの空を飛んでいます」
のぶ&嵩「ほいたらね!」
中園氏は2023年晩秋から作劇をスタート。今年7月下旬にゴールテープを切り、執筆は2年半にわたった。
戦後80年の節目の年に、容赦のない「戦争パート」などで問題提起をしながら、朝ドラ王道の夫婦の物語に帰結。恩師・やなせ氏への感謝も込め、2014年度前期「花子とアン」に続く2回目の大役を全うした。
最終回は、第128回(9月24日)で描かれたアニメ主題歌「アンパンマンのマーチ」の“元の歌詞”がキーポイントの一つに。やなせ氏が歌詞を書き直したのは史実で、中園氏は「のぶや武山(前原滉)も熱弁していましたが、『いのちが終わるとしても』の歌詞こそ『アンパンマン』の神髄だと、私も思うんです」。手術を終えたのぶの心情に重ねた。
最終回で役名がある登場人物は、のぶと嵩だけ。実質“2人芝居15分”となったが「当初の予定通りです」。ただ、ラストシーンの前に、のぶが紙芝居で読み聞かせをし、嵩が主題歌をせがまれる子どもたちとの場面を挟み込んだ。
「終盤で描いてきましたけど、『アンパンマン』を世に出したのは就学前の子どもたちですから。2人が子どもたちと触れ合うシーンも、最初から決めていました」
そして、8月上旬のインタビューで「実は100通りぐらいの終わり方を考えていましたが、チームみんなの意見も参考にしながら、最終回を書き上げました」と明かしていた注目のフィナーレ。
「私はどの作品でも、初回を書き始めた時点から、執筆中はずっと物語のラストをぼんやりと考えています。書き進めるうちに1つアイデアが浮かぶと、もっと面白い着地の仕方があるんじゃないか、やっぱり1つ前の方がいいかな、という感じで。つい100通りと言ったのは少しオーバーかもしれませんけど、『あんぱん』は130話ありますから、1話書き終えるたびにエンディングも少しずつ更新されていって、そのぐらいの数になるというニュアンスです。そのぐらい、毎日、頭の中で試行錯誤を繰り返しているんです」
“24時間、朝ドラ漬け”と全身全霊を注いだ2年半。日々バージョンアップを重ねた末にたどり着いたのは、一本道を歩くのぶと嵩。最後の台詞は、2人による土佐弁の別れのあいさつ「ほいたらね!」だった。
「毎朝130回、朝ドラをご覧になるのも大変なこと。一緒に完走してくださった視聴者の皆さんに『ご苦労さま』とお伝えしたかったので」。感謝や労いの気持ちも込めた。
「『あんぱん』のおかげで夫婦や家族の会話が増えたというお話を聞いて、自分たちの作ったドラマが皆さんの日常に溶け込んでいることが本当にうれしかったですね。それが朝ドラなんだなと再認識して、そういう意味でも、オーソドックスな終わり方になったと思います」
劇中、朝田釜次(吉田鋼太郎)朝田くら(浅田美代子)東海林明(津田健次郎)が“ほいたらね(ほいたらにゃー)締め”。最後は中園氏からの「ほいたらね!」でもあった。
続きを表示