旅する小さな お菓子職人

 食欲の秋、本の中でスイーツを楽しむのはどうでしょう。朝日小学生新聞で4~6月に連載した小説「ヒミツの週末パティシエール」が文庫本になりました。作者の音はつきさんは、主人公が旅をしながらお菓子をつくる物語から、「すてきな世界が待っている」と伝えたいといいます。(中塚慧)

作品について語る音はつきさん=9月12日、東京都渋谷区

大好きだった本の「レシピ」を心に

物語の主人公は、お菓子づくりが好きな小学5年生の一花。家は、おばあちゃんがパティシエール(菓子職人)をつとめるスイーツ屋です。ある日、おばあちゃんが入院し、記憶の一部をなくします。一花は、おばあちゃんが残した「秘密のレシピ」を完成させるため、羊の姿をした妖精のモコ、同級生の東くんと魔法のキッチンカーで旅に出ます。

『ヒミツの週末パティシエール①』(作 音はつき、絵 ななミツ、アルファポリスきずな文庫、770円)

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音さんが児童書を書くのは、実は今回が初めて。「どうしたら楽しんでもらえるかと考え、自分が小学生のときに夢中になったものを書き出しました」と音さん。すると、「レシピ」という言葉がうかびました。子どものころ、何度も読んだ柏葉幸子さんの『大おばさんの不思議なレシピ』という本が、ずっと心の中にあったからです。

「大好きな本で、旅行にも持っていって夜ねる前に読む『お守り』みたいな存在でした。レシピは私にとって特別だったなと思い出して、レシピが出てくる話にしようと考えました」

実際につくって工夫

音さんは「料理は苦手だけど、お菓子づくりは好き」。お話を考えながら、登場するスイーツをつくり、書き進めました。さまざまなレシピ本を参考にし、実際につくってみて食材をかえるなど工夫したといいます。

物語では、一花が全国各地を訪れ、さまざまな人と出会い、地域の特産品を使ったスイーツをつくっていきます。北海道の食材で完成させたのは「まるごとメロンソーダ」。半分に切ったメロンを器にし、星や丸の形にくりぬいた果肉を入れて、ソーダ水を注いだものです。

朝小読者 いっしょに走ってくれた

作品のために実際にまるごとメロンソーダをつくった音さんは「見た目も味もよかったです。(さし絵を手がけた)ななミツさんの絵もすごくかわいくて」と笑顔を見せます。何よりもうれしかったのは、連載小説を読んだ読者が、スイーツをつくって感想を寄せてくれたこと。まるごとメロンソーダは特に人気でした。

ななミツさんがかいた「まるごとメロンソーダ」=朝日小学生新聞5月2日付から

連載中、読者のさらぴちさん(3年)が「まるごとメロンソーダ」をつくり、編集部に写真を送ってくれました 本人提供

「連載中は毎朝、感想が楽しみで、朝一番に着替えて、ポストに新聞を取りに行っていました。なかには『一生読みたい』といった声も。本当にはげみになりました。みんな(朝小の読者)が私といっしょに走ってくれているような3か月でしたね」

この作品はシリーズとなり、来年にも2巻が出ることが決まっています。音さんがこれから物語の中で旅したいところは、沖縄県です。「ゴーヤやシークワーサーなど、魅力的な食材がいっぱい。まだお話に出てきていない海も書きたいと思っています」

あたたかい出会いを

子どものころに夢中になった柏葉さんの作品には「あたたかさや安心感」がありました。「主人公が出会った登場人物と育むきずなに、『私もこういう出会いをしてみたい』と思っていました」。「ヒミツの週末パティシエール」シリーズも、そんな作品になっていくようにという思いがあります。

「人とのつながりで一花の世界は広がっていく。自分には知らない世界がたくさんあって、すてきな人たちが待っているということを読者に伝えていけたら」と願います。

音はつき(おと・はつき)

 埼玉県在住。2020年、『未だ青い僕たちは』でデビュー。おもな作品に『大嫌いな世界にさよならを』『またね、わたしの世界にいないきみへ』などがある。

(朝日小学生新聞2025年9月25日付)

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