Interview & Text:龍田優貴

Photo:筒浦奨太

 ゲーム音楽は、もはやゲームだけのものではない——NexTone社のディストリビューションチームが立ち上げた「Game Music Academy」は、ゲーム音楽をブランドとして国内外に届ける新たな挑戦だ。

 80年代から90年代にかけての日本のゲーム音楽は、海外のDJやクリエイターたちを刺激し、新たな音楽活動を生み出す原動力となった。日本のゲーム音楽は今もなお世界的な影響力を持ち続けている。ストリーミング時代の到来により、ユーザーは好きな曲を自由に楽しみ、その体験を自身のコンテンツとして還元できる。「Game Music Academy」は、そんな“ゲーム音楽の可能性”を最大化する試みでもある。

 既存のディストリビューターとは一線を画し、各プラットフォームやユーザーのニーズに合わせたメタデータ管理や著作権対応を行うことで、新たな市場を開拓するNexTone。今回は同社のディストリビューター&マーケティング部、海外戦略グループ長の谷誠史氏と同部のPRマーケティンググループ所属の長谷部海氏と秋元悠歩氏、そしてこの新たな挑戦のパートナーとして参画している、ゲーム音楽に造詣の深いイギリス出身アーティスト・サブマース氏を招き、「Game Music Academy」立ち上げの背景や海外市場への展開、そして新たにスタートする本取り組みについて話を聞いた。

音楽史の変化とともに歩んできたNexTone

――まずはNexTone社のディストリビューションサービスの内容について教えていただけますか?

谷誠史:音楽レーベルやゲーム会社などの権利者様が持っている楽曲を、SpotifyやApple Musicなどの音楽配信プラットフォームに供給していくというものです。加えて、弊社では楽曲のプロモーションやPR・マーケティングなどもあわせて担当しています。

――ディストリビューション事業の歴史としては何年ぐらいになるのでしょうか?

谷:2003年に前身の会社でサービスを開始し、20年以上に渡り事業を展開しておりまして、おかげさまで契約アカウントは800社を超え、保有楽曲は130万曲に及ぶコンテンツをお預かりしています。NexToneとしては来年が10周年になります。

今でこそ「ディストリビューション」というと、国内には当社以外にもいろんな事業者がありますが、NexToneは音楽がデジタルシフトし始める当初から、様々な音楽シーンの転換期をずっと支えてきた会社だと思います。

左から谷誠史、サブマース

――NexTone社では、新たに「Game Music Academy」を立ち上げたと伺いました。貴社がゲーム音楽に対して注目し始めたのはいつ頃からでしょうか?

谷:著作権の管理事業も含めて、もともとゲーム会社様との関わりはとても深くて、長きに渡りゲーム音楽に携わってきました。業務上、日々データ分析などを行っている中で、その影響力の大きさを痛感しています。

そんな中で、2024年の中頃からアトラスさんが手掛けた『ペルソナ3 リロード』の楽曲が海外でヒットしはじめ、それこそ、Billboard JAPANの世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化した “Global Japan Songs Excl. Japan”に入ったり、先日の【MUSIC AWARDS JAPAN 2025】にノミネートされたことは、当社のみならず、業界全体でも非常に印象的な出来事だったと思います。

実際に、アトラスさんの事例以外にも、当社でお預りしているゲーム音楽コンテンツは、ここ数年、海外再生数が勢いを増して数字としても顕著に伸びてきており、目をみはるものがあります。

この実態は、日本でももっとその認識を高めていくべきだ! とチーム全体で感じており、そういったきっかけからチーム内でアイデアがあがり、有志が集まって具体的な取り組みにしていこう! と議論が始まり、今日に至っています。

配信の最適化で広がるゲーム音楽の可能性

――ゲーム音楽の注目度が高まっている点を踏まえ、NexTone社では国内だけでなく海外市場を見据えて活動されているんですね。

谷:配信実績の調査や分析などを行っている中で気づいたのは、欧米だけじゃなく南米やアジアなど、様々な地域で全世界的にゲーム音楽が聴かれているということでした。さらにその海外視聴が益々拡大しているとなると、これはひとつの大きな機会(チャンス)でしかないですね。

――海外市場の具体的な規模感について教えていただけますか?

谷:昨年、経済産業省が発表したデータによると日本のコンテンツ市場は、約13.1兆円。一方、世界でのコンテンツ市場売上は、約135.6兆円と発表されており、日本の約10倍の規模になります。

また、日本のコンテンツ売上の海外売上における比率は、約4.7兆円と全体の約40%を占めており、さらにその40%の内訳のなかでゲームは約60%と、アニメを超えています。(出典:エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会資料より)

日本もこれから人口が減っていく中で、国内だけを見ていては立ち行かなくなる。だから今まで国内で補えていた部分を、今後はどう海外で補っていくか。これは日本のコンテンツ産業全体が注視しているポイントかと思います。

――確かに規模感で考えると、海外市場を見据えるのは必然的な流れかと。「ゲームサントラをSteamで配信する」といった試みも、今の話題に繋がるのでしょうか。

谷:Steamというのは本来ゲームを販売するためのプラットフォームなのですが、実はここでサウンドトラックも販売できる仕組みがあります。と、とあるお取引先のゲームメーカー様よりご依頼を受けて、スキームの構築に取り掛かったのですが、こういったSteamでの配信は、他社のディストリビューターではあまりやっていないことかなと思います。機会を頂いたメーカー様にはとても感謝していて、こうやって市場を拡大していくことも、我々ディストリビューターの大きな役目だと感じています。

――Steamやそのほか音楽ストリーミングサービスなど、各プラットフォームへ楽曲データを登録する際の取り組みについても教えていただきたいです。

長谷部海:ゲームやアニメの音楽だと、配信する際にどうしても「ゲーム名」や「コンテンツ名」、あるいは「キャラクター名」や「作家名」といった形で登録してしまうケースが多いんです。そうすると、たくさんのアーティストページが乱立してしまって、ユーザーにとっては「このゲーム、このアニメの音楽を聴きたい」と思ったときに、ひとつにまとまっている場所がなくて探しづらい、という悩みがあったと思うんですね。

そこで私たちの配信では、まずひとつ“軸”となるアーティスト名を設定して、そこにすべての楽曲が集まるように整理しています。そうすることで、ユーザーにとってはひとつの分かりやすいページが生まれて、体験が向上しますし、再生数もそこに集約されます。結果としてランキングや月間リスナー数にも反映され、コンテンツの規模感をアピールできるようになるんです。さらに、集約したデータを分析にも活用できるという利点もあります。

左から秋元悠歩、長谷部海

秋元悠歩:楽曲ページに含まれる情報は俗に「メタデータ」と言われますが、本当に各音楽配信サービスごとに仕様が違いまして。トラックごとにアーティストを設定できる場合もあれば、そうでない場合も見られます。その違いを一つひとつ見極めながら、最適な方法を提示していくことが重要だと思います。

弊社の場合は、権利者様からいただいた情報を各プラットフォームに合わせてカスタマイズしています。音楽ストリーミングサービスを使うユーザー目線を意識しつつ、柔軟に対応できるのが一種の強みかなと。

――なるほど、そこから再生数などのデータが蓄積されていき、さらなるマーケティングに活用できると。SNSや広告にまつわる取り組みも気になります。

秋元:音楽ストリーミングサービスの場合、各地域の再生回数がリアルタイムで分かるので、すぐに広告やプロモーションのターゲティングができます。例えば「SNSでバズった」、「ゲームIPが強くて付随的に伸びた」など、そういう文脈の違いを理解することも大切です。誰がその音楽を聞いているか。どういう背景で影響を受けているかまで考えると、ゲーム音楽を含めていろんなジャンルを効率よく展開できます。

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