2025年9月23日更新
2025年9月26日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー
何とも言えないおかしさにあふれたオダギリジョー監督の脳内世界
「アカルイミライ」「メゾン・ド・ヒミコ」「ゆれる」などの日本映画だけではなく、「悲夢」「PLASTIC CITY プラスティック・シティ」「ウォーリアー&ウルフ」などの作品でアジア、世界にその存在感と演技力で、俳優としての才能を示してきたオダギリジョー。
そんな彼が脚本・演出・編集を務め、2021年にNHKで放送されたドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」は、ドラマ発表時から話題を呼び、放送が開始されると瞬く間に視聴者の心を掴んで、22年にはシーズン2が放送されると、社会現象化する人気を獲得。「東京ドラマアウォード2022」では単発ドラマ部門作品賞グランプリ、ギャラクシー賞月間賞を受賞するなど、各方面で高い評価を受けた。
(C)2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会
鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平だけには、なぜか相棒の警察犬・オリバーが、酒と煙草と女好きの欲望にまみれた犬の着ぐるみのおじさんに見えてしまい(一平以外の人間には優秀な警察犬に見えている)、しかもその着ぐるみのオリバーをオダギリジョー自身が演じるという奇抜な設定はコントのようでありながら、妙な説得力を持ち、クリエイター、作家としての才能もいかんなく発揮してみせたのである。
その伝説のドラマを自らのメガホンで映画化したのが「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」だ。映画版は、開けてはいけないドアの先に見たこともない不思議な世界が広がる、前代未聞のダークファンタジーとなっており、笑いとシリアスやシニカル、そして不条理な展開に観る者はオダギリジョーワールドに誘われていく。
ドラマ版のキャラクターや設定は踏襲し、一平を演じる主演の池松壮亮、共演の麻生久美子、本田翼、岡山天音、黒木華、鈴木慶一、嶋田久作、宇野祥平、香椎由宇、永瀬正敏、佐藤浩市が集結。さらに、映画版の新メンバーとして吉岡里帆、鹿賀丈史、森川葵、髙嶋政宏、菊地姫奈、平井まさあき(男性ブランコ)、8年ぶりの映画出演となる深津絵里と、演技派、技巧派、個性派の豪華俳優陣が、オダギリ監督が作り出す不思議な世界を支えている。
しかしオダギリ監督は、自らが生み出したドラマ世界を映画版でさらに飛び越えていく。開けてはいけないドアを介して、現実世界とダークなファンタジー世界を自由に行き来し、まるでデヴィッド・リンチ監督の作品を観ているかのような錯覚に筆者は陥ったほど。もちろんリンチ監督と比較する気はないが、オダギリ監督の脳内を覗き見ているような世界とその展開、映像表現は、一度見たら病みつきになり、映画館の大きなスクリーンで何度も見返したくなることだろう。あなたにしか見えない世界があっていいのだ。
8年ぶりの映画出演を決めた理由を聞かれた深津も述べたように、近年稀れに見る、奇想天外さで、一度観ただけでは理解できないかもしれない。そのわからなさにいつの間にか引き込まれてしまうような映画で、仮についていけなくても、酒と煙草と女好きの欲望にまみれた犬の着ぐるみのオリバーだけでもずっと見ていられる、何とも言えないおかしさにあふれている。
(和田隆)