夏クールの連続ドラマは、大森美香が脚本を書いた『ひとりでしにたい』(NHK総合)と『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系/以下、『ぼくほし』)が印象に残った。
『ひとりでしにたい』の予想外の結末
『ひとりでしにたい』はカレー沢薫の同名漫画(講談社)が原作の、終活を題材にした社会派「終活」コメディ。独身でキャリアウーマンの伯母・山口光子(山口紗弥加)が自宅で孤独死したことにショックを受けた美術館勤務の独身女性・山口鳴海(綾瀬はるか)は、都庁から出向中の同僚の年下男性・那須田優弥(佐野勇斗)と共に、一人で死ぬための方法=終活について学んでいく。
NHK土曜ドラマ『ひとりでしにたい』が大きな反響を呼んでいる。本作はカレー沢薫による同名漫画を、NHK連続テレビ小説『あさが来た…
ひらがなでボカしているとはいえ「ひとり(一人)でし(死)にたい」というタイトルを見た時はショックだった。筆者は中年男性で、鳴海とは性別も立場も違うが、年齢を重ねるほど健康面や経済面でいつ自分の身に何が起こるかわからないという不安を抱えている。そのため、他人事とは思えなかった。
コメディの手法でシリアスな問題に切り込んでいくアプローチは、2000年代に大森が脚本を書いた『きみはペット』(TBS系)や『不機嫌なジーン』(フジテレビ系)を彷彿とさせるものがある。近年は、NHK連続テレビ小説『あさが来た』やNHK大河ドラマ『青天を衝け』のような時代ものの印象が強かった大森だが『ひとりでしにたい』のような現代的なテーマを扱った時にこそ、彼女の本領は発揮される。その意味で本作は久々に大森美香の魅力がいかんなく発揮されたドラマだったと言える。
また、終活というテーマを描く際に面白かったのが、「孤独死をどう防ぐか?」という具体的な対策ではなく、自分の親の介護について先に考えるという展開に向かった点だ。両親の介護の心配をする中で、鳴海が自分の世代との人生観の違いに気づいていく描写は教育番組のようで面白かったが、何より衝撃だったのが、一方的に好意を寄せる奈須田と恋愛関係になることを、鳴海が否定したこと。
正直に告白すると孤独死を題材にした本作が、人間関係を切断する物語に向かったことに対しては、とても戸惑っている。
孤独死を防ぐのであれば、家族や恋人が身近にいない一人暮らしの人間を友人や行政がどのようにフォローしていくかが大事だと考えるのがセオリーだと思うのだが、筆者がこう思うのは中年男性だからで、女性の場合は油断すると那須田のような男が近づいてきて母親的役割を押し付けてくるため、その共依存的構造からいかに逃れ、経済的に自立するかの方が、生きる上で重要なのかもしれないと感じた。