ハリウッドで『鬼滅の刃』旋風が続いている。9月19日~21日の北米映画ランキングは、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』が再びNo.1を獲得した。
週末3日間の興行収入は1730万ドルで、北米累計興収は1億473万ドル。全世界累計興収は5億5500万ドルを突破し、日本映画および、日本製作の「アニメ映画」の歴代記録をともに更新した(広義のアニメーション映画ではなく、あくまでも日本製の「アニメ映画」としての記録である)。
北米配給はソニー・ピクチャーズ傘下のクランチロール。自社配信サービスで『鬼滅の刃』のアニメシリーズを配信したほか、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)や『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』(2023年)の北米配給も手がけてきた。
とうとう『鬼滅の刃』ブームがアメリカに上陸した。9月12日~14日の北米映画ランキングは、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 …
前週も指摘したように、本作は過去作のおよそ2倍にあたる全米3300館級、ハリウッドのブロックバスター映画に匹敵するスケールで公開された。もはや日本製アニメの海外上映ではなく、ディズニーやドリームワークスと同じ「グローバルなアニメーション映画」として捉えるべきであり、実際に数字の傾向がマーベル&DCなどのスーパーヒーロー映画に似ていることは前週も指摘した通りだ。
そのような前提を鑑みるならば、本稿では、やたらと『鬼滅の刃』に優しい北米メディアの論調とは異なる姿勢を取ることになる。なぜなら本作はオープニング興行収入7061万ドルという予想外のスタートダッシュを決めたものの、2週目は1730万ドル、前週比マイナス75.5%という急激な下落となったからだ。仮にスーパーヒーロー映画が同じような足跡をたどったとしたら、北米メディアが「失敗」のラベルを貼りつける成績である。

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
そもそも北米の映画業界・映画館業界が、『鬼滅の刃』の劇場公開にあまり期待していなかったという前提は存在する。マーベル映画のように巨額の製作費がかかっていないため、現地スタジオのリスクがきわめて小さく、ビジネスとしての成功も間違いないだろう。サマーシーズンが終わったタイミングを狙った戦略は正しかった。
しかしながら、北米で『鬼滅の刃』はファン以外の層を広範に呼び寄せられる巨大IPにはまだ育っていないと見るべきだろう。同時にハリウッドの問題は、本作に匹敵する新作アニメーション映画を送り出せていない――『鬼滅の刃』に比肩しうる新規IPを創出できていない――現地スタジオのほうにもある。
第2位に初登場したのは、『ゲット・アウト』(2017年)や『NOPE/ノープ』(2022年)のジョーダン・ピールがプロデュースした新作ホラー映画『Him(原題)』。週末興収は1350万ドルで、事前の予測値1500万ドルをやや下回った(すなわち、予測通りの成績でも『鬼滅の刃』には勝てなかった)。
本作は、将来有望なフットボール選手が、引退間近の“伝説のクォーターバック”から自宅に招かれ、成功のため戦慄の試練に挑むストーリー。ピール率いるMonkeypaw Productionsとユニバーサル・ピクチャーズが製作し、監督・脚本には新鋭ジャスティン・ティッピングが起用された。
HIM | Official Trailer
ホラージャンルは賛否両論が珍しくないが、本作はRotten Tomatoesで批評家スコア27%・観客スコア58%、映画館の出口調査に基づくCinemaScoreでは「C-」評価と、やや批判的な方向に傾斜している。
海外25市場では36万ドルにとどまり、世界興収は1350万ドル。もっとも製作費は2700万ドルと低予算のため、配信まで見越せばビジネスとしての問題はほとんどなさそうだ。