スティーヴン・キングの短編を原作に、プロデューサーに「死霊館」「ソウ」シリーズのジェームズ・ワンを迎え、『ロングレッグス』(24)が日本でも大きな話題となったオズグッド・パーキンス監督が独自の視点で映像化したホラー映画『THE MONKEY/ザ・モンキー』が公開中だ。
PRESS HORRORでは公開にあわせオズグッド・パーキンス監督にインタビューを敢行。今年1月公開の長編映画監督デビュー作『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』(24)が異例のヒットとなり、6月より公開された最新作『〇〇式』(25)も話題を呼んだ“Jホラーの申し子”近藤亮太監督が聞き手を務め、キングの物語をどのように再解釈したのか、演出家目線で創作の裏側に迫った。
「自分の家族や子育ての経験が、本作のスタート地点です」
『THE MONKEY/ザ・モンキー』の物語は、双子の少年ビルとハル兄弟(共にクリスチャン・コンヴェリー)が父の遺した持ち物から、ゼンマイ式のドラムを叩く猿のおもちゃを見つけることから始まる。その頃から周囲で“不慮の事故死”が相次いで起こりはじめ、母の死後、兄弟は猿を枯れ井戸へと葬った。
いじめられっ子のハル(クリスチャン・コンヴェリー)は、父の遺品からゼンマイ式の猿のおもちゃを見つける[c]2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
それから25年後、一度は結婚し息子をもうけたハル(テオ・ジェームズ)だったが、離婚を機に息子とは距離を置き、兄のビル(テオ・ジェームズ)とも疎遠になっていた。猿が戻ると身近な人が死ぬかもしれないと恐れたからだ。だが、息子との年に一度の面会日に突然、兄のビルから連絡が入り、“不慮の事故”で伯母が亡くなったことを伝えられる。ビルから伯母の遺品に猿のおもちゃがないか確認しろと命じられたハルは、伯母の家を訪れ、あの猿が戻ってきたことを確信する…。
――キングの短編小説「猿とシンバル」を映像化するのにあたり、どのように映画に落とし込むアプローチをしましたか?
「スティーヴン・キングの物語をコピーするのではなく、私自身がキングの原作を読んだときどういったことが呼び覚まされたか?を起点に考えました。たとえば、ノスタルジーや子育てや家族の難しさ、幼少期に考えていたことなどです。キングの原作には人を殺す車やピエロ、超能力という目立つモチーフもありますが、私に響くのはそのなかで感じる、よりパーソナルな感情に響く“なにか”の感覚です」
PRESS HORRORの取材に応じてくれたオズグッド・パーキンス監督[c]Matt Winkelmeyer/Getty Images
――原作はシンバルを叩く猿というものでしたが、ネジを回して太鼓を叩く、というように原作のモチーフを拡張していますね。
「なにもしない猿、というのが取っ掛かりになって、その恐ろしさを描くことに注力しました。そこにいるだけでなにも危害を加えず、勝手に世界や人が動いて、人がどんどん死んでいく。猿自体が動いて危害を加えるよりも、ずっと恐ろしいと思いました。そうした恐ろしさと、自分が経てきた家族や子育ての経験がこの作品のスタート地点になったのだと思います」
「演出に関しては、あまり細かく芝居をつけるタイプではないです」
――『THE MONKEY/ザ・モンキー』を観ていておどろかされたのが、主人公の双子を少年時代、大人時代それぞれ同じ役者が演じ分けているということでした。
「映画の最初に少年時代の双子が登場するシーンはVFXを使っているんです。ビルがハルを押し倒すところですね。そのギミックがうまくハマったことで、観客は“本当に双子なんだ”と信じてしまうのだと思います。こういう仕掛けは最初が肝心ですね」
――このような優れた芝居はどのようなコミュニケーションを通じて作り上げたのでしょうか?
「演出に関していうと、私はあまり細かく芝居をつけるタイプの監督ではないんです。このキャラクターはいまこう感じているんじゃないか?とか、私はこう思う、という解釈を話したりはするけれど、もっとこう演じてほしいなどと指示することはありません」
――その演出法に関しては、『ロングレッグス』などの過去作でも同様のアプローチでしたか?
「はい。幸い、いまのところ自分が書き下ろした脚本で監督できているので、好きなように脚本を書けています。私が組む役者はみんな賢いので、しっかり読み込んで、脚本を汲み取ってくれます。なのでそれ以上なにかを言うことはありません。『ロングレッグス』でニコラス・ケイジと組んだ時は、『僕の書いたセリフなんて全部忘れちゃってください。僕があなたのためにセリフを書くなんておこがましいので!』と言ったんですが、『一言一句、君が書いたセリフの通りに演じるつもりだよ』と言ってくれました。それが自信につながっています」
脚本も自ら執筆するオズグッド・パーキンス監督[c]2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
――優れた俳優が準備したものを掬い取っているのですね。
「そうですね。私はリハーサルを重ねることなく、初めて演じる瞬間から撮影します。そしてファーストテイクがベストテイクであることが多いです。なので演出する時の感覚としては、勝手に育ってくれるものをキュレーションするような感覚ですね。子育てと同じだと思います。子どもも勝手に育ちますからね(笑)」