ソフトバンクグループがムーディーズ・ジャパンによる信用格付けの引き上げに不快感をあらわにした。通常は企業にとってプラスに働くはずの「格上げ」に反発するのはなぜか。その背景や、格付け会社と企業との複雑な関係を解説する。

ソフトバンクグループ本社(東京)
Photographer: Toru Hanai/Bloomberg
何があったのか
ムーディーズは17日、ソフトバンクGの格付けを従来の「Ba3」から「Ba2」に引き上げた。ただ、同社は2020年にムーディーズへの格付け依頼を取り下げており、その後は情報提供もしていない。いわゆる「勝手格付け」の状態のため、今回の格上げについても「合理的な根拠のない主観的な想定および仮定に基づくもの」と批判した。
関連記事:ソフトバンクGの格付けを引き上げ、ムーディーズ-会社側は反発
本当にそれだけ?
引き上げとはいえ、格付け水準自体は依然リスクが高いとされる「投資不適格」、いわゆるジャンク級にとどまる。
フジワラキャピタルの土屋剛俊社長は、ムーディーズはソフトバンクGの投資不適格を改めて確認した形だと指摘する。黒字転換を果たし、数年分の社債償還資金も確保しているソフトバンクGからすると、「借金を返せないかのような評価は市場を誤解させる」というのが怒りの本質だとみている。
企業と格付け会社の摩擦は世界的に珍しいのか
珍しくない。リーマン危機後には住宅ローン証券の過大評価が社会問題となり、欧州でも債務危機時に各国が「格下げが市場混乱を助長した」と格付け会社を批判した。格付けに当事者の声が反映されないことで摩擦が生じるのは、世界共通の現象だ。
ムーディーズが今年5月に米国の信用格付けを引き下げた際には、ハセット米国家経済会議(NEC)委員長が「バックワードルッキングな判断」だと批判した。
関連記事:米国債「最も安全な投資先」、ムーディーズ格下げを批判-ハセット氏
格付け会社の仕組みと問題点は
格付け会社の多くは「発行体(企業や国)が費用を支払う」仕組みをとる。この場合、顧客を厳しく評価できるのかという利益相反が常に付きまとう。逆にソフトバンクGのような「勝手格付け」では、企業側の費用負担がない半面、格付け会社の情報アクセスが限られるため「根拠が薄い」との批判を生みやすい。
UBPインベストメンツのファンドマネジャー、ズヘール・カーン氏は、格付け会社の仕組みには「利益相反が多い」と指摘。ソフトバンクGのケースは格付け費用を誰がどのように負担するのかという問題を浮き彫りにしたとし、ビジネスモデルの見直しを訴えている。
投資家は格付けを無視できないのか
日本では多くの規制や運用指針で「投資可能なのは投資適格債のみ」と定められており、格付けはいまだ市場の共通言語として機能している。
米国などではジャンク債市場が大きく育っており、世界的には必ずしも一枚岩ではない。ただ、ESG(環境、社会、企業統治)評価や独自のリスク分析ツールの普及で、格付け依存の時代は徐々に終わりつつある。