「義経千本桜」歌川豊国(3世) 東京都立図書館

(新田 由紀子:ライター)

映画『国宝』のブームが続く中、歌舞伎の劇場にも元々の歌舞伎ファンだけでなく、Z世代などの姿も増えている。しかし、初めて歌舞伎を観た人からは、「映画のイメージと違った」「事前に予習しておいたほうがよかったかも」という声も。映画『国宝』の余韻を感じながら、歌舞伎ならではの面白さを発見するにはどうすればいいのか? 歌舞伎通に聞いた。

●「歌舞伎」視点から見た映画『国宝』(前編)はこちら

実はあの人間国宝も。歌舞伎界にたくさんいるリアル『国宝』役者

 映画『国宝』で、主人公の立花喜久雄(吉沢亮)は、梨園と関係のない任侠の家に生まれながら、才能を認められて歌舞伎の世界に入り、芸を磨いて上り詰めていく。

 中村七之助(42歳)は、『国宝』の喜久雄と同じ身の上の中村鶴松(30歳)を観てほしいとラジオで語った。

「彼は歌舞伎の家系の子ではなくて、実力で中村屋の部屋子(へやご)になって、今度は浅草公会堂で主役をやるんです」

 児童劇団からオーディションを受けて歌舞伎の舞台に立っていた鶴松(当時は清水大希少年)に、「うちの子になってよ」と声をかけたのは中村勘三郎(1955~2012)で、10歳の時に部屋子とした。部屋子とは、幹部になっていく可能性を認められて特別な教育をうけていく立場におかれること。映画『国宝』の主人公・喜久雄も花井半次郎(渡辺謙)の部屋子になり、御曹司の俊介(横浜流星)と競いながら修行していく。

 勘三郎の死後、息子の勘九郎(43歳)・七之助が率いる中村屋一門は、鶴松に活躍の場を与え続けている。七之助は、歌舞伎の世界に生まれなくても、一生懸命やってここまでできるようになることを、鶴松の芝居を観て知ってもらいたいと言う。

 片岡愛之助(53歳)も一般家庭に生まれている。子役として出演しているところを十三代目片岡仁左衛門(1903~1994)に見いだされ、部屋子を経て、十三代目仁左衛門の次男である片岡秀太郎(1941~2021)の養子になり、今や上方歌舞伎の大看板だ。

 他にも、市川笑也(66歳)、市川笑三郎(55歳)、中村莟玉(かんぎょく・28歳)など多くの役者が同じ道をたどってきた。そして、まさに映画『国宝』の喜久雄のように、人間国宝(重要無形文化財保持者)で日本一の女形と言われる坂東玉三郎(75歳)も一般家庭から歌舞伎の世界に入っている。

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