原作・東野圭吾と主演・福山雅治が『ガリレオ・シリーズ』に続いてタッグを組んでの新シリーズ。東野作品らしく、単なる殺人事件を解決するサスペンスというのではなく、その事件の裏に隠された、已むに已まれぬ人間臭い事情が折り重なるヒューマン・タッチのミステリーとい言える。それの謎に挑むのが、『ブラック・マジシャン』と称する神尾武史を演じる福山雅治。冷静沈着で、時折、マジックを織り込みながら、事件の真相を暴いていく。
本作の神尾武史は、思いっきり気障で粗野ではあるが、魔術師の技量を活かしして、口八丁手八丁の態度に警察とも対等に渡り歩く大胆不敵さは、『ガリレオ・シリーズ』での湯川学に通じるモノがある。事件状況を瞬時に判断し、関わる人々をいつの間にか自分のペースに巻き込んでしまう役柄が似合うのは、日本広しと言えども福山雅治と、同じく東野シリーズで主演を務める、木村拓哉と阿部寛くらいだろう。
物語は、コロナ禍で疲弊している社会を背景に、活気を失った山里の温泉街で、数日後に、教え子達との同窓会を控えていた元教師の神尾英一が、自宅で殺されている所から始まる。結婚を控えていた英一の娘・真世もまた、この同窓会の一員であり、父の教え子という微妙な立ち位置の中、悲しみに暮れる間もなく、突然現れた英一の弟・武史と共に、父の事件の真相を解明しようと立ち上がる。
調べていく中で、嘗ての英一の教え子達で、真世とも同窓生である面々が、思わぬ方向で事件の真相に迫るキーマンとなって、次から次へと浮かび上がっていく。そこには、同窓生同士の街の利権に纏わる複雑な人間関係と共に、大ヒットアニメの漫画家となり、一躍、街の有名人に祀り上げせれた男の、忘れられない思い出と友情が、殺人事件と色々と絡みついていることに突き当たっていく。
『ブラック・マジシャン』のタイトル通り、マジシャンが探偵役となって、マジックの様に事件を解決していくわけで、マジック・シーンがたくさん盛り込まれていた。しかし、いくらマジシャン主役と言えども、事件解決の時のあの大掛かりな仕掛けとマジックは、謎解きにはあまりに現実離れしていて、ミステリーと言うよりエンタメ要素が強く押し出され過ぎ、不自然さは感じた。まあ、これが「It’s Showtime!」(指パッチン)ということのだろうけど…。
脇を固めた、神尾武史の姪・真世としてヒロインを務めた有村架純は、最近は美しさだけでなく、どんな作品の演技にも安定感が出てきたと感じた。また、真世の父には仲村トオル、その他に真世の同窓生役として成田凌、生田絵梨花、木村昴等が務めていた。但し、真世の婚約者に伊藤淳史というのは、2人が見つめ合うシーン等、バランスという点では、ちょっとミス・キャストではないだろうか…と感じた。(笑)