スフォルツァート、国産ネットワークブランドの“ラストサムライ”。Amazon Musicにも対応、「DSP-Carina」を聴く

スフォルツァート、国産ネットワークブランドの“ラストサムライ”。Amazon Musicにも対応、「DSP-Carina」を聴く

その昔は対応サンプリングレート、現在は対応するサブスクリプションサービスやSFP対応などと、今も昔もネットワークプレーヤーは買い時の難しいコンポーネントだ。その中でSFORZATO(スフォルツァート)の「DSP-Carina」は、現在要求されるほぼすべての機能を有したエントリープレーヤーのひとつだ。

■リンのDSに“未来のオーディオ”を感じて立ち上げた

スフォルツァートが誕生したのは2009年。エンジニアの小俣恭一氏がリンの「KLIMAX DS」(2007年)に、未来のオーディオを感じたことが始まりだという。それから2年の時間をかけてネットワークトランスポート「DST-01」を作り上げた。

好きなDAコンバーターが使えるという仕様、電源別筐体というコンストラクション、情報量重視のストイックなサウンドと、オーディオファイルが満足するネットワークトランスポートが日本人の手から登場したことを当時喜ばしく、そして誇らしく思った。

初代機の登場から15年が過ぎた今も、小俣氏はネットワークプレーヤーを作り続けている。15年も事業を続けるだけでも大変なのに、ネットワークプレーヤーは技術進歩が速い。ざっと思いつくだけでもDSDやPCMのハイサンプリングレート、DirettaやRoonといったプロトコル、Amazon MusicやTIDAL、Qobuzといったサブスクリプションサービスに対応させなければ生き残れない。

ハードウェア、ソフトウェアの両面の知識はもちろんのこと、認証という政治的折衝も行わなければならない。さらにアジア系メーカーの台頭により、商品の魅力と価格競争力を両立させなければならない。これらはメーカーでも大変な作業なのに、小俣氏は独りでやり続けている。それは巨大な敵に単身で戦いに挑む「侍」の姿に似ている。小俣氏は我が国のオーディオ界におけるラストサムライだ。

ラストサムライ小俣氏の最新ネットワークトランスポートは、コンパクトなエントリーモデル「DSP-Carina」。234W×93H×280Dmmというボディに、ほぼほぼフルスペックの機能を内包している。ネットワークプロトコルはUPnPのほか、Diretta、roonに対応。電源部は3基のトランスを用いたリニア電源。DA変換には上位機種と同様のES9038Proを使用し、アナログ回路はディスクリート構成の無帰還回路を用いているという。

リアパネルを見ると、アナログ出力回路はバランスとアンバランスを各1系統装備。10MHzのマスタークロック入力も設けられ、対となるクロックジェネレーター「PMC-Gemini」も販売している。USB端子は本機をUSB-DACとして用いるためのものだ。

■クリーンでスレンダー、俯瞰的な音楽表現

試聴は試聴室で行った。リファレンス機器は、スピーカーがBowers&Wilkinsの「802 D4」、プリアンプはアキュフェーズの「C-3900」、パワーアンプに同「A-80」をチョイス。また、English Electricのスイッチングハブを用意してもらい、音源を入れたDELA「N50」(ミュージックライブラリ)を接続。N50に格納したハイレゾファイルを再生した。

操作はTaktinaアプリを用いることを推奨している。普段リン謹製のアプリKinskyに慣れた身からすると少々癖を感じた。また動作安定度が低く、突然操作ができなくなることが度々起きた。いっぽう検索速度に関してはKinskyの比ではない快適さ。より一層のアプリの安定度があれば、と期待せずにはいられない。

オーディオ的な凄みは薄いが、リスナーに寄り添ったフレンドリーな音に好感。クリーンでスレンダー。やや温度感の低い俯瞰的な音楽表現と聴いた。

様々な音楽を聴いたが、本稿では今夏モービル・フィデリティから高音質リマスター盤がリリースすることで話題のマイケル・ジャクソンのスタジオアルバム『デンジャラス』から「ウィル・ユー・ビー・ゼア」で紹介したい。この楽曲には壮大なオーケストレーションに聖歌隊の合唱、鋭いリズムにソロボーカルとさまざまな要素が絡み合う、大抵のことはこれだけでわかる楽曲だ。

冒頭のベートーヴェンの交響曲第9番の第4楽章合唱部は、ジョージ・セル指揮、クリーヴランド管弦楽団によるもの。ステージが中央に寄りがちだが、分離しすぎない一体感で重厚で厳粛な雰囲気を聴き手に届ける。続くソプラノは浮遊感を覚える表現が印象的で、本機のキャラクターである温度感の低い俯瞰的な鳴らし方が楽曲と合っているようだ。

ピアノの優しい音色から切れ味のよいソリッドなリズム隊、合唱で重なる本編が始まると思わず体が動いてしまう。全てのお膳立てが揃って、マイケル・ジャクソンが優しく歌い始めと、小さく引き締まったソロボーカルと、大きなうねりをもつ声楽隊という対比を綺麗に表出させた。

ここでマスタークロックジェネレーターのPMC-Geminiを接続した。こちらもハーフラックサイズなので、ラックに並べて設置できる。だがペアとなる商品であるにも関わらず高さやフロントパネルの厚みが異なるのは頂けない。さらにPMC-Geminiの出力はSMAタイプであるのに対し、DSP-Carina側はBNCと端子形状が異なる。それゆえ接続には変換コネクターを用いるのだが、電気的には問題なくても精神的には宜しくない。

だが、そんな気分も音を聴いたら晴れやかになる。クロックの恩恵は絶大で、編成の大きなものほど効果が高い。やや狭いと感じていたステージが広大になり、奥行きの深さと相まってスピーカーが消えたかのような再現。ソリッドなリズムが一層引き締まり、ノリの良さを拡充させた。「最初からクロックを入れてくれればいいのに」と思ったが、内蔵した分だけ本体価格が上がるし、好きなマスタークロックを使うという楽しみが減る。

■Amazon/Qobuz/ローカル音源の聴き比べも

DSP-Carinaは、Amazon MusicやQobuzといったストリーミングサービスにも対応している。ネットワークプレーヤーの先駆者であるリンは、未だAmazon Musicの再生ができないので選択肢が多いのは嬉しいところだ。

前出の通りTaktinaアプリの検索性能は優秀だ。ローカルサービスと契約ストリーミングサービスが提供する楽曲が即時に出てくる。「ウィル・ユー・ビー・ゼア」をAmazon Music Unlimited、Qobuz、そしてmoraで購入しDELAに格納したファイルの3つを聴き比べた。

Amazonは96kHz/24bitでの配信だが、全体的に霞がかかった印象。Qobuzは霧が晴れた音だが、全体的に荒々しい。そこでサンプリングレートを見ると44.1kHz/16bitとCD品質にガッカリ。最良だったのは、ローカルサーバーに入れた96kHz/24bit音源。こうした違いをキチンと表出するDSP-Carinaの実力を再認識すると共に、今まで買ってきたモノは無駄にならなかったという安心感を覚えた。

■切れ味の鋭い脇差のような存在

我が国のオーディオ界におけるラストサムライである小俣氏が作り上げたコンパクト機DSP-Carinaは、上級機同様の現在考えうる必要要件を満たし、かつ切れ味鋭い音でリスナーを愉しませる秀作だ。

その昔、侍は打刀が破損した時のための脇差(小刀)を腰に差していた。また脇指は庶民も護身用として所有していたという。DSP-Carinaは、ラストサムライ小俣氏が作り上げた、切れ味の鋭い脇差だ。ちなみに小刀と書いて「さすが」と読むことがあるという。DSP-Carinaを聴きながら、「流石小俣氏!」と妙に納得した。

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