各界の読書家が「いま読むべき1冊」を紹介する書評コーナー『Hon Zuki !』。ノンフィクションを中心に「必読」の書を紹介します。

日本も遂に外国勢力のマインドハッキングの対象に

 2016年のBrexitの国民投票やアメリカ大統領選の際、ロシアによるSNSの認知戦を活用した選挙介入が取り沙汰された。この書評サイト「Hon Zuki!」でも渡辺裕子さんが紹介している「マインドハッキング」(元ケンブリッジアナリティカの社員の内部告発)に詳しいが、日本は、そうしたSNSによる外国勢力の選挙介入の危機からは、比較的遠いと思われていた。

 しかし今年の参院選においては、数千~数十万のフォロワーを抱える「親露」の政治系インフルエンサーや、主に参政党を支持する発信を拡散していたボット系のXアカウントが相次いで凍結され、青木官房副長官が「日本も影響力工作の対象になっている」と認めた。

 参政党が40代以下の現役層で自民党や立憲民主党を上回る票を得て躍進し、外国勢力による選挙介入の疑惑が明らかになった今、SNSなどを通じた外国からの選挙介入と民主主義への影響について改めて考えざるを得ない。

成長市場としての影響力工作

 本著は、元イスラエルの諜報部員であるイタイ・ヨナト氏に、日本の地政学者、戦略学者の奥山真司氏が、「サイフルエンス(cyfluence 敵対的情報作戦)の実態についてインタビューし、訳者として今年7月にまとめ、つい最近8月下旬に出版されたものだ。

 その内容は、パレスチナやイランとの紛争当事国であるイスラエルで認知戦の作戦責任者として実務を担当してきた言葉だけに説得力がある。

 フェイクニュースによる詐欺やフィッシング、サイト訪問の常習化や滞在時間/クリック数の最大化を目的とした、偽情報やコンテンツの拡散はこれまでも存在したが、今では人々の思考、認識、意見を操作することが目的の「影響力工作」が大きな存在になってきた。

 著者はダボス会議でディスインフォメーションが今後10年でもっとも重要度の大きなリスクのひとつに挙げられた2024年頃に事態が一変したとする。今やそれは、ネット依存やサイバー犯罪の問題に留まらず、民主主義制度や国家安全保障に影響を与えうる。

 世論、選挙結果、企業ブランドと時価総額、そして市民社会の分断にも直接影響を与える「影響力工作」の攻撃に対して防御の対処を取ることが各国政府や大企業とって重要であることが認識されつつあるのだ。

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