
NHK大河ドラマ『べらぼう』で主役を務める、江戸時代中期に吉原で生まれ育った蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)。その波瀾万丈な生涯が描かれて話題になっている。第33回「打壊演太女功徳(うちこわしえんためのくどく)」では、打ちこわしが発生して江戸城は大騒ぎに。蔦重は田沼意次のもとを訪れるが……。『なにかと人間くさい徳川将軍』など江戸時代の歴代将軍を解説した著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)
江戸で打ちこわしが起きたことの「衝撃度」
天明7(1787)年5月、米価の高騰に耐えかねて、江戸の町人たちが立ち上がり、米屋を次々と襲撃――。今回の放送では、そんな「天明の打ちこわし」がドラマの冒頭から描かれた。弘化3(1846)年に山東京山(江戸時代後期の戯作者で山東京伝の弟)が著した『蜘蛛の糸巻』という随筆には、次のように書かれている。
「江戸開市以来の未曽有の変事で、まことに乱世のありさまである」
打ちこわしが江戸で起きた、ということのインパクトも相当なものだったようだ。越後屋はこう驚き嘆いたという。
「これまで田舎ではこうしたことがあったと聞いていたが、江戸で打ちこわしが起こるとは、恐ろしい世の中になったものだ」
あまりに米が高すぎる、と一部の名主や家主が町奉行所に嘆願したのは、5月18日のことである。すでに本所や深川の各所では、小規模な打ちこわしが発生していた。
このときに対応した町奉行が、今回の放送でも登場した北町奉行の曲淵景漸(まがりぶちかげつぐ)だ。