米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは、2025年10月にビルボードライブ横浜で開催される【Billboard JAPAN Women In Music vol.3】へ出演を控えるChilli Beans.。2019年に結成し、2024年に日本武道館公演も成功させたスリーピースバンドだ。それぞれがシンガーソングライターとして活動していた3人が一緒になることで生まれた化学反応、そして音楽業界におけるジェンダーギャップについて語ってもらった。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING]I Photo:Shinpei Suzuki)

どんどん自由になれるのは、
メンバーが受け入れてくれるから

――2019年のデビューから今まで、皆さんの中で変わったなって思うところと、変わらないなって思うところはありますか?

Maika:6月に5枚目のEP『the outside wind』を出して、結局言いたいことや歌っている内容は意外とデビュー当時から変わってないんだなと思いました。ただ変わらないまま、成長はしているんじゃないかな。自分の人間性は成長しているけれど、考えている内容や根本の部分は変わっていない気がしますね。

Moto:自分の中で考えたり、グルグルしたりするのは変わってないけれど、それが苦しいというよりは、ちょっとずつ自由になれる方向には進んでいます。

――自由になれる方向に進めているのは、3人でやっているからということもあるんでしょうか。

Moto:ライブでは、その空間でみんなが、それぞれ好きなノリ方とか感じ方で過ごしている感じがすごくします。3人一緒になることで、例えば暗い部分とかも含めて、それが音楽になったり、日常会話でも「悪いことじゃないし、素敵なことだよ」って言えたりする。音楽になったら、それが自分たちの味みたいなものにもなるから。そういうときに受け入れられている感じがします。

――そういった気持ちのアップダウンは、メンバー間で共有しているんですね。

Moto:意識したことはないかも。「今日こんな感じ」とか自然に話しているのかもしれません。なんとなくわかるみたいなところもあるんです。

Maika:お互いのムードから「今日ダウナーだ」とか「今日はいいことあったのかな」とか受け取っているのかも。自分だけでは見られない角度で、2人が今抱えている気持ちや状況を言ってくれたり見てくれたりする。だから自分が1人でやっていたら「こんなヘマしちゃった」みたいな感じでへこんだとしても、あとの2人が「人間らしくて可愛いね」って言ってくれれば「ああ、そんな見方があったんだ」と思えたりするのは、確かに3人だからこそですね。

人間として音楽をやっているから
カテゴリーは関係ない

――それを積み重ねてきたことが成長につながっているんですかね?

Maika:そうだと思います。本質的には変わらないけれど成長しているのは、確かに解釈の仕方がすごく幅広くなったことかもしれません。

――Chilli Beans.という名前にはどんな意味が込められているのでしょうか。

Lily:最初この3人でバンドを組むとなったときに、みんなそれぞれが前に出るようなバンドがいいよねという話をしていて、そこからバンド名を考えました。レッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)のカバーをしていたというのもあって、そこから“チリ”というワードを取り、“ビーンズ”には「自分たちはこれからまだまだ伸びるひよっこだから」という意味を込めて、つけてみました。

Maika:バンド名を冠したことで、チームになった感じがしたよね。「ワンチームだ」という感覚がありました。

――女性だけで結成されたバンドは“ガールズバンド”とカテゴライズされることもあると思いますが、それについて感じていることはありますか?

Maika:自分たちから名乗るときは、基本的に“スリーピースバンド”と表記しています。ただ事実上、全員女性ということで、やっぱりその“ガールズバンド”という枠で話をされる機会も多いから、考えることはけっこう多いですね。

Moto:自分では、どっちでもいいと思います。自分たちは人間として音楽をやっているだけ。メロディやそのときの気持ちや雰囲気を受け取って共感してもらいたい。そういうことで、聴いてくれる人と関わっている感じ。だから、見え方はみんなが決めてくれればいい。

本当の気持ちを伝えることで
未来を切り開いてきた

――活動していく中でジェンダーギャップや固定された価値観を感じることはありますか?

Maika:固定概念とか先入観っていうものは、やっぱりどうしてもあると思っていて。ガールズバンドだから「俺、ガールズバンド興味ないんだよね」とか、もう聴いてもらえる機会すら与えられないパターンにも何回か出会ったことがあります。私はディベートが好きだから、「ガールズバンドというものをどう思っているの?」って聞いてみちゃうんですけど、「キャピキャピしている感じが好きじゃない」とか「声が高い」という先入観を持っていたり……音楽に関しては、意外と女も男も関係ないと自分自身が思っているからこそ、もっと知ってほしいという気持ちになりますね。

――大変なことを乗り越えるために3人が大切にしていることはありますか。

Moto:困難に直面したときに必要なものは、技術や音楽性ではなくて、自分の本当の気持ちを伝えることと、相手の本当の気持ちを知りたいと思うこと。その上で身一つで人と人と話すと、相手のことが見えてきたり、素直な人間同士で分かり合えて乗り越えられることがあるんだと思っています。

Lily:同じことを体験しても、感じているものが全く違ったりするので、勝手に「相手はきっとこう感じているだろう」って決めつけたりしないことがすごく大事なんだなって知りました。その自分が想像できないところで他人が苦しんでいたりもするから、ちゃんと「自分はこれに対してこう感じている」と伝えて、「あとの2人はどうなのか」というのをゆっくり聞くこと。想像で話すのが最も怖いことだって思いました。

何者にもなれない思いも
そのまま表現してみて

――今からChilli Beans.のようなバンドをやりたいと思っているような女性たちに、何かアドバイスするとしたら?

Maika:「まずは一回やってみよう」って言うかもしれません。自分が音楽を始めるきっかけになったオーディションも、受けていなかったら今はChilli Beans.はやってないわけだし。最近特に、小さい行動の積み重ねで「今があるな」って実感する機会が多くて。自分が好きな曲から始めたら、たぶん楽しいと思うし、なんでもいいからまずはやってみたら、それが向いているのか向いていないのか、そこから先に進みたいのか進みたくないのかも分かったりするんじゃないかな。

Moto:うーん、ありのままに自分の頭の中にあるものを出してみて、嫌われてもいいと思う。例えば「何者にもなれない」って苦しんでいるんだったら、「何者にもなれない」って感じたそれをそのまま出したっていいと思います。私も最初は自信もなかったけれど、でもそれが自分だからしょうがない。表現は自由なので、「こんなものを作って聴かせたい」って外に出してみたら、案外そこに「良いね!」と共感してくれる人がいたりする。

Lily:1人だけで考えているんじゃなくて、「バンドをやってみたい」と周りに言っていくというのもけっこういいのかも。「こっちに進みたい」とか「こういう気持ちがある」ということを信頼できる人や周りに言ってみると、意外とその未来が近づいてきたりするとも思いました。

――10月にはビルボードライブ横浜で【Billboard JAPAN Women In Music vol.3】への出演が決定していますが、どんなライブにしたいですか?

Maika:新しい挑戦が待ち構えているんじゃないかと思っています。

Lily:シーケンスなどの同期を使わないで、自分たちが発せられる音だけでやってみるのもいいんじゃないかと思っているんです。けっこう今までのライブとは割と違うような感じになるような気がしています。

Maika:この前のツアーで初めてサポートでキーボードの方に入っていただいて、今回も参加してもらう予定になっています。あとは来てくれているお客さんとの距離も近いし、本当に音楽で会話する感じになりそうで今からすっごく楽しみです。

Write A Comment

Pin