
【書評/サンポマスター本】『ごりやく酒 神社で一拝、酒場で一杯』パリッコ 著 ほか4冊
『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。街歩きが好きな人なら必ずや興味をそそられるであろうタイトルが目白押しだ。
というわけで、今回は2025年9月号に書評を掲載した“サンポマスター本”4冊を紹介する。
「酒縁」を呼び込む革新的ライフハック
パリッコ著/亜紀書房/1980円。
世界中のありとあらゆるお酒は、その土地の宗教、すなわち神様と結びついている。しかし、よほどの宗教家でない限り、そんな精神のステージで日頃から飲酒している人はいない。いや、いた。この本の著者であるパリッコ氏だ。
コンセプトは単純明快。各地の神社にお参りして、明るい時間から近くの酒場に立ち寄って飲んで帰る街飲み紀行だ。参拝後なら気分も清々しく、偶然とは思えぬ素敵な出会いにも恵まれて、神の「ごりやく」を感じられるというもの。でも、あくまでスピリチュアルに傾いた話にはならず、著者の持ち味である、ゆるい日常の描写と心の底から酒を愛する文体が心地よく、読んでいるこちらも一緒にほろ酔い気分になれる。それにしてもこれは、誰でも気軽に飲酒生活の質を向上できる、革新的なライフハックなのではないか。
本書は、規模を問わず都内の神社を中心に訪れているが、伊勢神宮や盟友スズキナオ氏も登場する松尾大社など、関西の有名神社も収録されている。そこでは、日常とはまた違う旅情や出会いにあふれていて、これは単なる気の持ちように収まらず、あらためて酒は縁をつなぐものだと感じられた。
先日、偶然私も初めて松尾大社に行った。参拝後、時間つぶしに四条を歩いていると、SNSで存在は知っていたが、京都にあるとは認識していなかった『木になる酒店tane』という酒屋にばったり出くわし、楽しい買い物時間を過ごすことができた。そのときふと「松尾さまのおかげや〜」と天を仰ぎ、つぶやいた。これもきっと「ごりやく酒」なのだ。(高橋)
鼠入昌史著/イカロス出版/1980円。
ターミナルとは、複数の交通機関の合流地点となる場所。多くの人が行き交い、街の発展の要となる。著者はさまざまな理由からターミナルとは呼べなくなってしまった駅または旧駅を訪れ、そこから漂うかつての繁栄に想いをはせる。「へぇ」と「かなしい」の波状攻撃を存分に味わえる一冊。(守利)
國友公司著/文藝春秋/1760円。
ホームレス生活をしたり男娼になったり。体当たり気質のルポライターがワイルドな街をわたり歩いたエッセイ集である。私もちょっと体験してみたいかもと思わせるのは「まえがき」まで。途中でえずいてしまった。危険を伴う貴重な経験のおすそ分けを、ありがとうございます。読後すぐ調べた刊行記念トークイベントは完売。(平岩)
久保田裕道監修/イカロス出版/1980円。
少子高齢化やコロナウイルスなどの影響で、祭りの存続が危ぶまれている現実は多くある。この本に込められているのは、全国で受け継がれてきた祭りを「応援したい」「後世に残したい」という想い。ユニークな祭りが多く紹介されるが、どれも祭りを楽しむ人の姿が印象的だ。その姿にキュンと来たら、実際に足を運んでみよう。(小野)
『散歩の達人』2025年9月号より
散歩の達人/さんたつ編集部
編集部
大人のための首都圏散策マガジン『散歩の達人』とWeb『さんたつ』の編集部。雑誌は1996年大塚生まれ。Webは2019年駿河台生まれ。年齢分布は20代〜50代と幅広い。