「親子deシネマ」は親子で楽しめる映画や映画館、ファミリーイベントを紹介する連載企画です。今回は吉祥寺にあるミニシアター「アップリンク吉祥寺」代表の浅井さんに取材しました。

左から宣伝の谷澤さん、水口さん、代表の浅井さん

――アップリンク吉祥寺の成り立ちについて教えてください

アップリンクはもともと配給会社から始まったんです。外国の映画を取り扱う事が多く、映画のセレクトから劇場への交渉まで、すべて私一人で行ってました。作品のブッキングは一筋縄ではいかないことも多く、いつからか「自分たちで上映できる場所がほしい」と思うようになりましてね。

吉祥寺の前に渋谷で映画館をつくったんです。最初は神南にイベントスペースの「アップリンクファクトリー」、そしてその後、宇田川町に小さな映画館「アップリンクX」を開設しました。その後、映画上映だけでなく、ギャラリーやマーケット、カフェなどが併設された「アップリンク渋谷」を開館したんです。当初は1つしかなかったスクリーンが3つになるほど人気だったのですが、コロナのあおりを受けて2021年にやむなく閉館しました。

――なぜ、吉祥寺という場所で映画館をつくられたのでしょうか

新宿や有楽町、横浜も候補でした。ですが、吉祥寺のサンロード商店街にあった映画館「バウスシアター」が閉館したのが大きなきっかけでしたね。閉館する前から配給会社としてお付き合いがあったのですが、吉祥寺に住む方々からとても愛されているのを感じていました。「シネコンでは上映されないアート系やインディーズを吉祥寺で」という思いのもと、バウスシアターの後継館というつもりで2018年にアップリンク吉祥寺をオープンしました。パルコさんと共同経営という形で弊社が運営しております。

昔は、中央線のほとんどの駅に映画館があったんです。吉祥寺はもちろん、三鷹や荻窪、西荻窪あたりにも。よく吉祥寺は「住みたい街ランキング」で上位に入る通り、商店街を抜けるとすぐ住宅街があって、賑やかさと地域住民の生活が同居しているんです。なのでお客様も子どもからお年寄りまで幅広くいらっしゃいます。

――「アップリンク吉祥寺」は独特な世界観ですね。何かコンセプトはありますか?

よく言われます。コンセプトはしいて言えば、「TOKYOのかっこよさ」でしょうか。
映画館をつくる時、ニューヨークやフランスなど、世界中の映画館をリサーチしました。日本の映画館は外国に比べると、なんというか一つのカタチに決まっているような気がしたんです。もっと自由な発想で空間づくりをしてもいいのではないかと。

よく色味を褒められますが、これはメキシコの建築家 ルイス・バラガン氏の作品からインスパイアされました。東京都現代美術館で彼の作品を観たのですが、「色づかいの魅力」に気づいたんです。色が一番人の感覚、感情に影響するなと感じました。「青」を選んだのは「モロッコの街並み」を意識しています。床も壁も天井もすべてブルーの世界で統一しました。

他にも、照明にもこだわっています。ニューヨークで活躍された照明デザイナーの中村亮子さんに依頼し、シアターごとのコンセプトに沿ってデザイン頂きました。こだわったのは器具だけではありません。エスカレーターを降りたところからロビーに向かって、アップリンク吉祥寺を印象づける「丸いトンネル」があるのですが、ここはあえて照明を暗くし、「街の路地裏」を演出しています。

あとは、「音」ですね。ロビーで流す音楽もオリジナルなんです。デレク・ジャーマンの映画音楽の多くを手がけたサイモン・フィッシャー・ターナー氏に依頼しました。ブライアン・イーノの「Music for Airports(ミュージック・フォー・エアポーツ)」を参考にした環境音楽が常時流れています。よく商業施設で流れるポップスとは違ったアンビエントな音楽です。

――最後に、アップリンク吉祥寺で上映されるおすすめの作品を教えてください

8月22日から上映している「ガザからの声」を是非観て頂きたいです。

本作は、ガザに拠点を置く映像制作会社のアレフ・マルチメディアと弊社の共同制作によってつくられました。現地での取材はアレフが担い、アップリンクが編集、配信、劇場公開を担当しています。撮影されたのは今年の5月なので、普通の映画の制作スピードで考えるとありえない早さで劇場公開しているんです。まさにリアルタイムで声を届ける映画ですね。

――「ガザからの声」はどんな映画ですか?

パレスチナのガザ市内で生活する人々の日常を映し出すドキュメンタリー映画です。コピーは「ニュースの向こうにある物語」。断片的なニュース映像やSNSの短い動画では伝えきれない、ひとりひとりの物語を切り取っています。

8月22日から上映しているエピソード1が「アハマドの物語」です。ガザ北部、ベイト・ラヒア出身のアハマド・アル=ガルバンさん(16歳)は、イスラエル軍の攻撃により両脚を失い、さらに双子の兄ムハンマドさんもその攻撃で亡くなりました。二人は、サーカスのパフォーマーになることを夢見ていたんです。両脚と兄を失ったアハマドさんは今何を思いどう生きていくのか、彼に密着をしたドキュメンタリーとなっています。

本作を通して、とにかく「ガザ」のリアルを観て感じてほしいです。ニュースだけだと、ミサイルに攻撃されて、爆弾を落とされて、負傷者がたくさん出て、食べる物もないみたいな報道がよく見られます。ですが、本作では食糧難の中でも街にアイスクリーム屋さんがあって皆で食べたり、電気が無いからスマホを充電するソーラーパネル屋なんてのもあったり、ニュースでは見られないガザの何気ない日常が垣間見えるんです。観て頂ければきっと、ガザの現状が「自分ごと」になると思います。

エピソード1は上映中ですが、エピソード2が10月より公開されます。頂いた感想をアラビア語に翻訳して現地に届けたり、上映後にムハンマド・サウワーフ監督とリモートで対談、ということも企画しています。エピソード3、4とどこまで続くかわかりませんが、可能な限り続けていきたいですね。

▼アップリンク吉祥寺の公式サイトはこちらから
https://joji.uplink.co.jp/

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